悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
245 / 305

楽しい時間はあっという間で……。4

しおりを挟む




「ローレンスは優しくないってララは言うでしょ」
「……そうね」
「それは多分、目的のためだったら優しさを捨てられる、人を切り捨てる事が出来るということだと思うんだ」
「……」
「でもその目的って言うのはさ、だいたい、その切り捨てられる人よりも、優先するべき人のための“目的”だと思う」

 ローレンスのあの他人の興味を引く、トラブル自体を目的とする、性格は、そういう性格ではなく、言ってしまえば病気のようなものなのだ。

 彼を蝕んで、破滅させる、そういう風に進んでいってしまう病気。
 
「でもローレンスはその目的が少しおかしい。ローレンスが呪いを欲しがる理由ララは知っている?」
「いいえ、分からない」
「……トラブルの火種が欲しいのだって。それを手に入れる事が“目的”なんだって」
「…………それを使って何かをするのではなくて?」
「うん、するとしてもまた新しい火種を手に入れるぐらいじゃないかな」

 それでは彼は、永遠に終わらない苦痛の中から逃れることが出来ない。そしてそれらは周りを巻き込む。だから、クラリス達は止めたいのだ。

「だからね、私はそれ自体を辞めさせたい。逃げないよ。コーディーの事を何とかしたりもしない」
「……つまり、貴方は、ローレンスの性格自体を変えると言いたいの?」

 その通りだと頷く。ララは少し考えて、それから口を開いた。

 けれど、一度口を噤む。それから再度逡巡して、私たちの間には、お祭りの楽しげな喧騒が場違いに聞こえて、けれど、空気が重たくなり過ぎなくて良かったとも思う。

「……」
「……」
「…………ねぇ、クレア、貴方、私を利用すれば、そんな曖昧で勝算の低いことをせずにすむとわかっている?」

 予想外の切り返しに、私は目を見開く。

「それこそ、サディアスでもなく、ローレンスでもなく、私を貴方が籠絡すれば、すべて解決してあげるわ、出来るもの私強いから」
「ろ、籠絡?そ、それは、その、色恋的な話?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわね。どんな形であれ、私は貴方に執着している、それは気がついているでしょう?」

 私の手を取って、彼女は路地の壁に押し付けるようにして、私を縫い止める。その手には私のペンダントが握られていて、女の子の柔らかい手と、斜め上から注がれる視線に少しドキッとした。

「貴方ならいいわ。私、貴方が欲しいもの、そばにいて欲しい。貴方が望むのなら私は強くあれる気がする」
「……っ」

 くっと顔を近づけられて、彼女の柔らかい髪が頬を撫でて、つけている香水の香りが鼻を掠める。

「……それを貴方が知っていると言う前提で聞くわ。どうして、そんな不確実なことをするの?」

 言葉にして言われた事はなかったが、確かに薄々感じてはいた。けれど、私に彼女を利用するという選択肢はなかった。多分ララに私は同じだけの、情を返せない。

 ただ、そばにいて、話を聞いたり、楽しいことをする事が出来るが、私はララの執着に対等であることが出来ない。だから、ララの気持ちに答えることはできなかった。
 そして、質問の答えは決まっている。

 これを彼女に伝えるために私は、この話題を始めたのだから。

「……ローレンスが、好きだから」
「貴方を殺せるような人よ。それでも好きなの?」
「うん、好き。だから、私はローレンスのそばにいたい。これから先もずっと」
「……」

 ララは私の瞳の中を覗き込むようにして、その言葉が真意かどうかを読み取ろうとする。

 逸らすことなく、見つめ返した。やがてララは、諦めたように目を瞑って、私から手を離す。

「それは私から奪うと言う事……では無いのよね」
「うん、もちろん」
「はぁ、そうよね。なんだか、納得だわ。……それでサディアスとも恋人だけれど、ここからは居なくならないという事ね」
「うん、あと、ヴィンスとも恋人」
「…………貴方、一歩間違えば、本当にすぐに死にそうね」

 真顔で言われて、私も苦笑した。

 それは昔からだ、ここに来た時から絶賛今まで、崖っぷち悪役令嬢なのだ、もう宿命だろうな。

「まあ、それならこれは、親愛の証という事で貰っておくわ、おなじ男を好きなのだもの、私達がお互いを恨みあったら、それこそ目も当てられないものね」
「ふふっ、そうだね。ローレンスはそれはそれで面白がりそうだけど」
「どうかしら、貴方が弱すぎて、トラブルにもならないから眉ひとつ動かないかもしれないわ」
「…………それは、確かに」

 私達は笑いあって、お互いに、お互いの色のペンダントをつけて、どちらともなく、露店のあるメインストリートの方へと戻っていく。

 手を繋いではぐれないようにしながら、ララはぽつりと言った。

「なんだか不思議な関係ね。恋敵は恋敵でも、クラリスとは、酷く対立していたから」
「うん、私も妙な気持ち」
「……でも、悪くないわ。型に嵌ったわかりやすい関係より、貴方と私という感じがするもの」
「そうだねぇ……私にとってもララはララだから、友達だけ、とか、恋人だけより、しっくり来るよ」

 恋敵という名前以外でこの関係性を表す言葉は知らないが、彼女は私にとって、色々な意味で特別だ。

 そしてこれからも、この仲が続いていきますように、心の中で彼女から貰ったペンダントに願いを込めた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...