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7 貧相
食事を終えて談話室に移動して、シェリルは考えていた。子供と大人というほどではないけれど隣に並ぶのにあまりに格差があるのでは、と。
そんな気もするしいやいや自分はそれ程見てわかるほどに女性的な体からかけ離れているわけもないという謎の自信も存在している。
隣で食後のお茶を飲んでいる彼に視線を向けて不自然にならないように言った。
「あの、少しだけ立ち上がってもらえるかしら?」
しかし、そうする正当な理由など思いうかばなかったのでシェリルは当たり前にそうする理由があるような顔をして彼に言う。
「? ……ああ」
すると彼もなにか確認するのかと首を傾げつつも立ち上がって、シェリルの前へと移動した。
シェリルも立ち上がってきちんと背筋を伸ばして立ってみる。
男女の身長差は頭一つ分ぐらいがちょうどいいと聞く、そしてあまりに離れすぎていては不釣り合いに見えるとも。
だからこそ目測で自分の頭が彼のどの位置にあるのか考えてみるがぎりぎり肩の上にあるような気もするし、そうじゃないような気もする。
……物差しで計りたいぐらいね。
しかし唐突にそうするわけにもいかないので、手を広げて彼の方へと抱き着いた。
「……君からこういうことをするのは珍しい」
「…………」
「さっきの言葉を気にしてるのか?」
もちろんそれは間違っているわけではないが、愛情表現で抱きしめているわけではない。抱き着くと頭のてっぺんは彼の肩を越しているようで、良しと心の中で拳を握る。
ヒール込みの状態ではあるが、身長面ではクリアだろう。
あとは、体格的な問題だ。彼の体の胸板が厚く、まったく揺るがない鉄壁の様であるのは、これはシェリルが小さいからではなく彼が騎士であるからのはず。
改めて胴回りにしがみついてもやっぱり、自分とはくらべものにならないと思うだけでそれは比較の対象ではない。
……やっぱり彼に抱きしめられれば多くの女性はすっぽり埋まってしまうのではないかしら。
そう真剣に思う。
「そうね、そうかもしれない」
「君は、ほかの女性に比べて華奢だ」
「そうかしら」
「そうだとも、ほら」
声に不服そうなニュアンスが漏れ出ていたのか、彼はなぜか示すようにシェリルのわき腹を掴んだ。
「っ」
少しくすぐったくて身をよじるが、そのまま体が持ち上がり、見上げることなく彼と目が合う。
「…………驚いたわ。どうしてこんなことをするの」
「持ち上がりそうな気がしたから」
「だからと言ってそうしていいとは限らないと思うのよ」
「……っ、ごめん」
シェリルがとても不服な気持ちになり目を見開いて彼にそういうと、彼は喉を鳴らして少し笑ってそれから謝った。
まったく誠意ある謝罪ではないだろう。
シェリルはさらに不可解だと彼のことを見つめたが、しばらくするとそっと下ろされて、じっと見上げた。
「悪い、なんだか猫のようで。愛らしいなと思って」
「それは誉め言葉なのかしら。……なにはともあれ、あなたにかかれば、たいていの女性は持ち上げられるでしょう? 無理はできるだけしないけれどやっぱり言うほど華奢ではないわよね」
「やっぱりそのことを気にしてたんだな。たしかに女性を持ち上げることぐらいは造作もないが、君はそのなんというか、余暇というか無駄というか、あまりが足りないというか。なんだか誤解を生みそうな言葉だが、わかってくれるか?」
そう言って彼はシェリルの両肩に手を置いて、それから肩を撫でるように二の腕から手元まで手を伸ばしてシェリルの両手を持つ。
……余暇、無駄……つまりやっぱり私の体は貧相…………。
余分ではあるし生きるために必ず必要という訳ではない、けれどもあった方がいい体の無駄、つまりはやはり女性らしい体つきになるための肉付きが足りていないのだろう。
「ええ、わかるわ。そうよね……」
「まぁ、あまり気にするのも体に良くない、それに自然とふっくらしてくるはずだろ、たくさん食べていれば」
「そう、だと思うけれど……もう育ち盛りではないし」
「大丈夫だ」
そう言いつつもシェリルは足りない……ということは彼に釣り合っていないと頭の中で結び付けた。
この歳になってこれから豊満な体に成長するとも思えない。彼はとても女性から見て魅力的であるのに対して、シェリルはどうだ。お世辞でもそうとは言えず、これからという年齢ではない。
とするならば、できることはつつましくあることだ。こうして、婚姻関係を結んでお互いを大切に思って生活をしているけれど、踏み込みすぎてはいけないだろう。
なんせお互いの間に恋愛感情があって結婚したわけでも、つり合いが取れている夫婦というわけでもないのだから。
そう思ってシェリルは改めて彼との関係性で自分がどこにいるのかを認識した。
しかし考えているシェリルをクライドは難しい表情をして、それからやっぱり抱き着いて腰に手を巻いて子供を抱き上げるみたいにしてシェリルのことを持ち上げた。
「…………ただ改めてこうしてみると本当にあの役目から君が解放されてよかったと思う」
そうしていつもよりも格段に近い距離からクライドはまた不機嫌な顔をしていった。
「よろめいた君をいつも支えるたびに、なんだか本当に体を預けてくれているのかと不思議に思う重さだったが、傍から見ている分には君はそれなりに耐久力のある女性に見えた心身共に」
それは打たれ強いという意味だろうかと抱き上げられたことを不服に想いながらもシェリルは考える。
そういう意味ならばまぁ、おおむねその通りであるだろう。
「しかしこうして君を知って改めて腕の中にいるのを感じるともう手放しにそう思うことはできないんだ。壊れ物のように思えて、比較的に見て小さな確率のはずなのに君に何かあるかもしれないと思うと居てもたってもいられないような、そんな感じだ」
まっすぐに大切だと言う彼に、昼間の言葉を思いだした。シェリルの言葉はたまにすごく直球で驚くと言っていたが彼だって似たようなもので、ウォルフォード伯爵家にいた時に比べるとギャップを感じてしまうほどだ。
しかし果たして何が彼をそこまでさせるに至ったのか、シェリルにはあまり心当たりもないのが現状だった。
……任務の延長線上で情が湧いてこうして役目を外れてもそばにいてくれるけれど、そんなふうに想うなんてきっと弱い人を守ることが大好きなのね。
そう結論付けて、頬にキスをするクライドを受け入れて、シェリルも同じようにした。
シェリルはこうしてそばにいることを彼が選んでくれたこと、それにすごく感謝しているし、いつも助けられてきただからこそ誰より恩があって大切に思っている。そういった意味の口づけだった。
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