たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
7 / 54

7 貧相



 食事を終えて談話室に移動して、シェリルは考えていた。子供と大人というほどではないけれど隣に並ぶのにあまりに格差があるのでは、と。

 そんな気もするしいやいや自分はそれ程見てわかるほどに女性的な体からかけ離れているわけもないという謎の自信も存在している。

 隣で食後のお茶を飲んでいる彼に視線を向けて不自然にならないように言った。

「あの、少しだけ立ち上がってもらえるかしら?」

 しかし、そうする正当な理由など思いうかばなかったのでシェリルは当たり前にそうする理由があるような顔をして彼に言う。

「? ……ああ」

 すると彼もなにか確認するのかと首を傾げつつも立ち上がって、シェリルの前へと移動した。

 シェリルも立ち上がってきちんと背筋を伸ばして立ってみる。

 男女の身長差は頭一つ分ぐらいがちょうどいいと聞く、そしてあまりに離れすぎていては不釣り合いに見えるとも。

 だからこそ目測で自分の頭が彼のどの位置にあるのか考えてみるがぎりぎり肩の上にあるような気もするし、そうじゃないような気もする。

 ……物差しで計りたいぐらいね。

 しかし唐突にそうするわけにもいかないので、手を広げて彼の方へと抱き着いた。

「……君からこういうことをするのは珍しい」
「…………」
「さっきの言葉を気にしてるのか?」

 もちろんそれは間違っているわけではないが、愛情表現で抱きしめているわけではない。抱き着くと頭のてっぺんは彼の肩を越しているようで、良しと心の中で拳を握る。

 ヒール込みの状態ではあるが、身長面ではクリアだろう。

 あとは、体格的な問題だ。彼の体の胸板が厚く、まったく揺るがない鉄壁の様であるのは、これはシェリルが小さいからではなく彼が騎士であるからのはず。

 改めて胴回りにしがみついてもやっぱり、自分とはくらべものにならないと思うだけでそれは比較の対象ではない。

 ……やっぱり彼に抱きしめられれば多くの女性はすっぽり埋まってしまうのではないかしら。

 そう真剣に思う。

「そうね、そうかもしれない」
「君は、ほかの女性に比べて華奢だ」
「そうかしら」
「そうだとも、ほら」

 声に不服そうなニュアンスが漏れ出ていたのか、彼はなぜか示すようにシェリルのわき腹を掴んだ。

「っ」
 
 少しくすぐったくて身をよじるが、そのまま体が持ち上がり、見上げることなく彼と目が合う。

「…………驚いたわ。どうしてこんなことをするの」
「持ち上がりそうな気がしたから」
「だからと言ってそうしていいとは限らないと思うのよ」
「……っ、ごめん」
 
 シェリルがとても不服な気持ちになり目を見開いて彼にそういうと、彼は喉を鳴らして少し笑ってそれから謝った。
 
 まったく誠意ある謝罪ではないだろう。

 シェリルはさらに不可解だと彼のことを見つめたが、しばらくするとそっと下ろされて、じっと見上げた。

「悪い、なんだか猫のようで。愛らしいなと思って」
「それは誉め言葉なのかしら。……なにはともあれ、あなたにかかれば、たいていの女性は持ち上げられるでしょう? 無理はできるだけしないけれどやっぱり言うほど華奢ではないわよね」
「やっぱりそのことを気にしてたんだな。たしかに女性を持ち上げることぐらいは造作もないが、君はそのなんというか、余暇というか無駄というか、あまりが足りないというか。なんだか誤解を生みそうな言葉だが、わかってくれるか?」

 そう言って彼はシェリルの両肩に手を置いて、それから肩を撫でるように二の腕から手元まで手を伸ばしてシェリルの両手を持つ。

 ……余暇、無駄……つまりやっぱり私の体は貧相…………。

 余分ではあるし生きるために必ず必要という訳ではない、けれどもあった方がいい体の無駄、つまりはやはり女性らしい体つきになるための肉付きが足りていないのだろう。

「ええ、わかるわ。そうよね……」
「まぁ、あまり気にするのも体に良くない、それに自然とふっくらしてくるはずだろ、たくさん食べていれば」
「そう、だと思うけれど……もう育ち盛りではないし」
「大丈夫だ」

 そう言いつつもシェリルは足りない……ということは彼に釣り合っていないと頭の中で結び付けた。

 この歳になってこれから豊満な体に成長するとも思えない。彼はとても女性から見て魅力的であるのに対して、シェリルはどうだ。お世辞でもそうとは言えず、これからという年齢ではない。

 とするならば、できることはつつましくあることだ。こうして、婚姻関係を結んでお互いを大切に思って生活をしているけれど、踏み込みすぎてはいけないだろう。

 なんせお互いの間に恋愛感情があって結婚したわけでも、つり合いが取れている夫婦というわけでもないのだから。
 
 そう思ってシェリルは改めて彼との関係性で自分がどこにいるのかを認識した。

 しかし考えているシェリルをクライドは難しい表情をして、それからやっぱり抱き着いて腰に手を巻いて子供を抱き上げるみたいにしてシェリルのことを持ち上げた。

「…………ただ改めてこうしてみると本当にあの役目から君が解放されてよかったと思う」

 そうしていつもよりも格段に近い距離からクライドはまた不機嫌な顔をしていった。

「よろめいた君をいつも支えるたびに、なんだか本当に体を預けてくれているのかと不思議に思う重さだったが、傍から見ている分には君はそれなりに耐久力のある女性に見えた心身共に」

 それは打たれ強いという意味だろうかと抱き上げられたことを不服に想いながらもシェリルは考える。

 そういう意味ならばまぁ、おおむねその通りであるだろう。

「しかしこうして君を知って改めて腕の中にいるのを感じるともう手放しにそう思うことはできないんだ。壊れ物のように思えて、比較的に見て小さな確率のはずなのに君に何かあるかもしれないと思うと居てもたってもいられないような、そんな感じだ」

 まっすぐに大切だと言う彼に、昼間の言葉を思いだした。シェリルの言葉はたまにすごく直球で驚くと言っていたが彼だって似たようなもので、ウォルフォード伯爵家にいた時に比べるとギャップを感じてしまうほどだ。

 しかし果たして何が彼をそこまでさせるに至ったのか、シェリルにはあまり心当たりもないのが現状だった。

 ……任務の延長線上で情が湧いてこうして役目を外れてもそばにいてくれるけれど、そんなふうに想うなんてきっと弱い人を守ることが大好きなのね。

 そう結論付けて、頬にキスをするクライドを受け入れて、シェリルも同じようにした。

 シェリルはこうしてそばにいることを彼が選んでくれたこと、それにすごく感謝しているし、いつも助けられてきただからこそ誰より恩があって大切に思っている。そういった意味の口づけだった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。