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17 訓練
しおりを挟む「っ、う、ぐ、クソ、も、もう少し手加減をだなっ!」
「……手加減をしなければ相手にならないなら手合わせをする意味もないじゃないか」
「そ、れ、は、そうだがっ」
クライドからの攻撃をギリギリのところでかわし、なんとか必死になって食らいついていたトバイアスだったが、彼は疲れからか足をもつれさせ、体勢を崩す。
「っ、参った!」
なんとか剣を受け止めることはできたものの、そのまましりもちをつき、その後剣を離して両手をあげた。
そんな彼にクライドも剣を下ろして、立ち上がるのを助けるために手を差し伸べた。
「ああ、ありがとう」
「……」
「それにしても相変わらず君は強いな。こうして手合わせをしてもらうだけで自分も強くなれそうな気がする」
「それだけで強くなるのならば、人間は苦労しないだろう。結局日々の積み重ねと努力が足りなければ、強者と戦ったところで意味などない」
クライドの言ったセリフは一見辛辣な言葉に思えたが、トバイアスが日ごろの努力を怠っていないことを知っていたからこそ言った言葉だった。
つまりは、コツを掴めばきっと彼も強くなると思っているだけである。
しかしトバイアスはそんなことなど気がつかずに「精進するよ」と言って剣を鞘に収める。
「それに、今回は魔法抜きの手合わせだったけれど、実践の場では君には到底及ばないからね。剣の方は体の動きでなんとかついていって覚えることができるけれど、魔法も持たない魔力も少ない俺じゃあ発動も遅ければ威力も出ない」
どちらともなくグラウンドの方から騎士団の本部の方へと足を向ける。
「たかが知れてる。それでもまぁ、君みたいなのに憧れちゃうから修練はするけど」
「……魔法は使い慣れれば魔法具での発動も素早くなるし、魔力は普段から魔力石に貯めてカバーするのがいいと聞く。俺はそのあたりを君に教えることもできないし、わからない苦労だが、トバイアス、君のそのまっすぐな姿勢はほかに代えがたい資質だと思う」
「! ありがとう、君が人をほめるなんて珍しい」
「そんなことはない」
「あるよ、大ありだ。もしかして奥さんがいるから丸くなったのかな。君の顔は国宝級に素晴らしいから奥さんもべた惚れでしょう? それで癒されて丸くなったのかな」
トバイアスは真剣な話からあっという間に方向転換してニマニマとした顔でクライドに言う。
その楽しげな様子に隙あらばその話をして揶揄いたかったのかとクライドは若干面倒くさく思う。
ただ、実際そうであって当たり前にシェリルがそういうふうにクライドを想ってくれていたならばそれだけだったのだが、そうではない。
シェリルはクライドにべた惚れなんかではなくむしろ、彼女の方が冷めた視点でクライドのことを見ている。
クライド自身は彼女のことをああまで言うぐらいには愛しているし、長年守りたいけれど守れないという感情からやっと解放されて、あふれんばかりの気持ちで彼女のことを見つめている。
しかし、シェリルがクライドに対して思っている感情は少し顔がいいだけの騎士であり、大切に思ってくれていたからこそ恩返しのようにそばにいてクライドのことを支えたいと思ってくれている。
それだけだ。
そういうことを先日初めて知った。
特に女性に深く好かれたいなどと思ったことがなかったので考えもしていなかったが、釣り合っていないからと言ってクライドのことを恋愛対象にすら思っていなかったことに衝撃を受けた。
「……」
「いつかは、奥さんに会わせてよ。君が結婚するのだからさぞ素敵な人なんだろうね」
「……」
「……どうかした?」
「……惚れられていない。彼女は俺を大切だとは言うが、恋愛的にみると釣り合っていないし、独占したいだとか唯一愛してほしいだとかそういう気持ちは持ったことがないと言っている」
「え……えー」
クライドの言葉にトバイアスは、なんだか間抜けな声を出して、それからまじまじとクライドのことを見つめた。
どこからどう見てもいい男で、そんな彼が惚れこんで結婚までしたというのに当の本人は釣り合わないと思っているだなんて、そんなことがあるだろうかと考える。
「……俺は、今更女性に惚れられる方法などわかりもしないし、そう思って欲しいと努力をしたこともない」
「だ、だろうね」
「愛は伝えていこうと思うが、それ以上になにをすればいいんだ……?」
「……そっか、君にもそんなふうに悩むことがあるのか、俺はてっきり君は……」
トバイアスはなにか続きを言おうとしたが、ちょうど入れ違いに本部の扉が開き、中からほかの騎士団員が顔を出す。
「……」
途端にふわりと酒の香りがして、クライドは黙って眉間にしわを寄せた。
「おう、トバイアス、お前またご子息様と訓練かよぉ、真面目だなぁ~」
「って、あ! おいおいやめろ声かけるな。目をつけられるぞ」
「いやぁ、ははは。俺らはこれからちょっと用事があるんで。トバイアスなんとかフォローしておいてくれ、じゃ、頼むな」
「はぁ、あまり羽目を外さないようにしてよ! くれぐれも城下町で醜態をさらさないようにっ」
「わかってるってぇ~!」
そうして一人のへべれけと二人の酔っぱらいは昼間の日の高いうちから、どこかへと消えていく。
彼らは騎士団員とはとても思えないような肥えた腹をしており、ゆっくりと歩くのだ。
その後ろ姿にクライドは黙ったまま猛烈に機嫌の悪そうな顔をして、しかしなにも言うまいと一度目をつむる。
「……せめてもう少し真面目にやってくれたら助かるんだけどな」
トバイアスはそうつぶやいて、クライドのことをちらりとうかがうように見てから、予定通りに建物の中に入っていく。
「まぁ、仕方がないか。行こう、クライド」
「君はよく自分の努力を馬鹿にされてそう平然としていられるな。俺にはまったく真似できそうもない」
「むしろ君の方こそよく、そこまで毎回腹を立てられるね。君のそういうところは好きだけれど生きずらそうだなって思ってしまうよ」
「……そうでもない」
「そうかな」
そうして会話をしながらまた、二人で歩き出す。他愛のない会話は尽きることがないが、他の騎士団員は彼らのことを遠巻きに避けて陰で笑う者すらいるのだった。
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