5 / 42
5
しおりを挟む私の婚約破棄は、思っていたよりもスムーズに進んだ。
次の婚約者が決まっていないことや、私がそもそも婚約する理由となった聖女の力の件など様々な問題があるだろうと思っていたのだが、あっさりと婚約を破棄する手続きを終えた。
理由については心当たりがあったが、正直なところ全貌がわからないので下手に手を出すことが出来ない。
ただ私の知る限りでは、私の専属の使用人であるアンという少女と、現王妃エリカが色々と問題を起こしている事によって、カイと私の婚約破棄どころではないという状況だろうと思う。
カイが王族の仕事をほぼ一人で国王代理という形で行っていたのにもそういった理由がある。
そして当の国王陛下はというと、彼はとても体の弱い人で、私や、現王妃であるエリカの聖女の加護を使って何とか公務をできるまでに回復させることが出来る。
しかしアンとエリカが争い始めてからは、癒しの魔法を使える私でも国王陛下に会うことはできなくなっていた。
彼が死んでしまったら確実にこの国は荒れるし、聖女エリカは現在は王妃であるが、彼女は召喚された聖女だ。
つまりはこの国にもともとルーツがない。だから、この国の先住民であるエルフたちと混ざり合った私たちとはまったく違う黒い髪を持ち、美しい白雪のような肌をしている。
その影響を受けてカイも同じような外見をしているので、貴族からもこの国の民からも我がツァルーア王国の王にふさわしくないと言われてしまう可能性がある。
「お加減はいかがですか、国王陛下」
「ああ……久しぶりの心地だ。とても気分がいい、感謝しよう、フェリシア」
「いえ、当然の事ですから」
だからこそ、私は最後に無理を言って国王ノアベルトにお目にかかっていた。
彼が出来るだけ長生きできて、カイが新しい自分の伴侶を見つけられる時間稼ぎになったらいいと思う。
じんわりと魔力を放出して魔法に集中する。
この魔法は普通の四元素の火、水、土、風の魔法とも、白黒の色付き魔法とも違う特殊な女神の加護から生まれる私だけの魔法だ。
「……カイと婚約を破棄するようだな。フェリシア」
「はい。……申し訳ありません、陛下」
「よい、エリカの子供だ。うすうすそういう事態になるのではないかと想像していた」
やせ細った手をにぎり、彼を癒していく。温室内には青く美しい花が咲き乱れ淡い光を放っていた。
「アンを……連れてきたのも其方だったな。……ひょっとすると、エリカの召喚によって乱れた運命の道筋を正しく戻す役目を女神が其方に与えたのかもしれぬな」
「……そう、でしょうか」
「ああ、余はそんな気がしてならない」
ノルベルト国王陛下の言う意味は分からない。
私はただ、アンの事も事情があるとは聞いていたが、深くは知らないし、カイの件だってヴィクトアに何も言われなければ気がつかなかった。
自分で選択をしていると思うがそうして、国王である彼がそう言ってくれるのならば少しだけ自分の選択の責任の重さが軽くなるような気がした。
「しかし、余が病状を悪化させたことによって、王宮に入ることになった其方をきちんと自らの人生へともどすことが出来るのはうれしい限りだ……けれどこの光景を見られなくなると思うととても寂しいものであるな」
「……」
「さあ、もう少しそばで見せておくれフェリシア、其方の神秘的な瞳を」
言われて椅子を少し引いてノアベルト国王陛下の側によって聖痕のある右目をかくしている前髪を耳に掛けた。
「ああ、女神の与えた証が魔力を光をはらんでとても美しいな」
相好を崩してうっとりとして言う彼に、私はやっぱり不思議に思う。久しぶりにこうして彼に加護を与えたけれども、いつも目を見て喜ぶのは変わらない。
聖女は体のどこかに聖痕が現れるものだが、瞳の中だなんてやっぱり可笑しいと思うのだ。
そのせいで常に他人を怖がらせないように薄目だし、目元を前髪で隠しているので視界も悪い。
しかし魔力を使うときに瞳に魔力がともるので、その光が聖痕を浮き上がらせて美しいのだとノアベルト国王陛下はいつも言う。
自分では見たことがないので、そういわれてもよくわからないという感想しか思い浮かばないのだ。
「……さて、そろそろ其方の魔力が厳しいころ合いだろう。名残惜しいがこの温室ともお別れだな」
ノアベルトは私を気遣ってそう言ってくれるが、今日で彼に加護をかけることが出来るのも最後かもしれない。
起き上がろうとする彼の手を握ったまま私は言った。
「いえ、今日は……できる限り、多く加護を掛けさせてください」
「……無理はしなくてもいいのだぞ、フェリシア」
「大丈夫です。自分の魔力量は心得ていますから」
そう口にして、魔力を捻出した。
私は、花の女神の聖女だ。私が魔力を込めると温室には青い花が咲き乱れて魔力の光が辺りに立ち上る。
水魔法が傷ついた人を癒して健康にもどすように、私の魔法は元から体を弱くして生まれた人をより健康にしたり、老いなども一時的に遅らせることが出来る。
この魔法の花が咲いている場所の中にいる人ならば、皆同じように加護をつけることが出来る。
地味な能力だが、この国の王である彼には必要な力だった。だから重宝されているが、珍しい能力なので厄介な説明を省くために、似たような能力の水の女神の聖女ということで世間には知られている。
だからヴィクトアも私が急にぱっちり目を開けて、前髪を避けたら大層驚くだろうけれど、こう言ったことを隠したまま結婚というのはしていいものだろうか。
彼から正式に求婚された今、それがもっぱらの悩みであったが誰にも相談できずに悶々と考えてしまうのだった。
97
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる