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しおりを挟む婚約を破棄して私は一時的に実家のベルナー伯爵のタウンハウスへと戻った。
幼いころにこの屋敷を出たので私の部屋はなかったけれども、父と母は私を快く迎えてくれた。
二つ下の妹であるカリスタは、あまり良い顔をしなかったけれども、それでも一時的にお世話になるだけなのであまり気にしていなかった。
ここに一旦拠点を置いて、ヴィクトアと婚姻との話を勧められればいいと思っていたのだが、数日過ごしたあたりで、心配していたアンからの手紙が届いた。
『フェリシア・ベルナー様へ
婚約破棄に伴い王宮を離れることになったと聞きました。フェリシア様とカイ様との相性を私も心配していましたから、あまり喜ばれることではないと承知ですが、私はよかったと思っています。
これから国は騒がしくなると思いますけれど、しっかりと自身を強く持って前に進んでいってくださいませ!
フェリシア様はご自身を大切にしないのですから、まず第一に自分の事を考えてなんでも行動するのですよ!
アンはそれだけが心配です、綿のように柔らかなフェリシア様はなんでも常に受け流してしまいがちです例えば━━━━
彼女の手紙には、いつものごとく私に対する心配事ばかりがつづられていた。
綿のようになんて言うが、そんなにフワフワとしているつもりもないのだ。
しかし彼女からするとそんな風に見えているらしく、首をかしげながら彼女の手紙を読んだ。
脳裏には平民の使用人だというのに妙にはきはきと喋り、妙に貴族社会に対する博識な知識を持ち合わせていたバレッタを可愛くつけた彼女の姿が思い浮かぶ。
そういえば、不思議な事にアンはヴィクトアによく似た目立つ赤髪をしているのだが何か関係あったりしないだろうか。
そんな風に考えてまさかな……と思うけれどあながち間違っていないかもしれない。
王妃エリカとやりあうぐらいだ。彼女も何かしら高貴な身分であったのだろうがその真相は私は知らない。
だだ王宮までついてきてくれた彼女は間違いなく私の親しい友人だ。
それだけが事実なのだから、なんでも頼ってねという文面の手紙を返して、アドバイス通りキリリと少ししてみて鏡を見たが、似合わないなと、ふと思った。
その日の夜、私はアンの心配の意味を理解した。
彼女はみなまで書かなかったけれども、私は味方が多くない。
「それでね、フェリシア、このベルナー伯爵家にも温室を建てる話だけれど、貴方お金を使っていっそ大きな施設にしてしまったらいいと思うのよ」
それは唐突な言葉で父と母と食卓を囲んでいるときの事だった。
ちなみに妹は帰ってきていない。
未成年のうちから家に帰らずに夜も遊び歩いていることについては、父も母もあの子は仕方ない子だからと流していて、それもとてもおかしなことだ。
しかし、今はそれについて考えている場合ではない。母はとても上機嫌にそう言っているが、意味がよくわからない。
「……私の……お金?」
「ええ、国王陛下に対する治療費よ、最後の分がまだ残っているし、次はここでフェリシアの力を使って稼げばいいのよ」
「……最後の……分?」
「あら、言ってなかったかしら、国王陛下の治療は貴方だけが仕える特別な魔法だもの、きちんと報酬をもらわなければ割に合わないでしょう?」
「そうだぞ、フェリシア、障害持ちの国王がため込んでいる金銭など我々が吐き出させて世間に回さなければ国が潤わない」
「……」
彼らはしごく当たり前のような顔をして言った。
まるでノルベルト国王陛下が資産を所有してはいけないと思っているような口ぶりであり、なんだか変な気持ちである。
……そもそも、私、報酬が出ているだなんて話……聞いてない。
「国に貢献できない障碍者どもを、金を出させることで奉仕させてやれるんだ、お前の持っている力はとても素晴らしいものだもっと誇って、存分に揮うべきだ」
「そうよ。国王陛下はもう先が長くないもの、王室を離れて他の貴族のところに嫁に行くのはとってもいい判断よ! フェリシア」
……それも一度で大きな建物を建てられる額を取っていた?……相場がわからないけれど、小さなころから加護を与えてきた回数分、お父さまや、お母さまにお金が入っていたなら……どうしてその”私のお金”は最後の分しかないの?
彼らと直接会うのは王宮に入って以来で、昔の彼らがどんな風に暮らしていたのかわからない。
けれども今のこの人たちはとても高級な服に身を包み、屋敷は名のある美術家の作品であふれ家具の細部に至るまで美しい装飾に包まれている。
よく考えてみるとこれが異常なことぐらいは、一目瞭然だった。
確かに私はとてもフワフワとしているかもしれない。
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