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しおりを挟む昔から他人の言う事を聞いて生きてきた。
一世一代の選択をつい最近はじめてしたばかりで、すぐその後ろに控えていたのはその状況を喜んで甘い蜜を啜っていた人々だ。
しかし、彼らは私の両親であり、親のいう事は大体正しいと思って受け止めるべきであるというのもまた事実だ。
つまりは頭の中が混乱していて、続けて話をする彼らについていけない。
「でも、しばらくこの屋敷を使うなら……ねぇ、ほら。あなたの価値を使って少しでも気持ちを貰わないとと私たちも心がわびしくなるわ」
「そうだな。親に義理を通すのも子の役目だぞ。フェリシア、親の愛情の上にふんぞり返っていては痛い目を見る」
「だから貴方の為にも早く、温室を作って、私たちにいい思いをさせてね。貴方は優しくてとてもいい子だもの、私たちも知っているわ」
「その通りだぞ、フェリシア。世の中には仕事も満足にこなせないくせに私腹を肥やしてため込んでいるクズどもがごまんといる、奴らから健康を餌に絞り取ってやればこのツァルーアの為になるんだ」
さっきから何なのだろう、父のこの体の弱い人に対する異常なまでの嫌悪は。
それに、母も何故、そんな風に言い切るのだろう。
私は、たしかに人生の半分ぐらいを彼らに育ててもらったが、その半分以降の仕事で多分相当な金銭を返している。
それでもこれ以上にお金を稼いで生み出して奉仕するのが子供の務めなんだろうか。
……それを放棄したら一体どうなるのだろう。
なにをどう考えて、怒るべきなのか悲しむべきなのか、何をどうしたらいいのかわからない。
ただ、私は国の為にノアベルト国王陛下の為に魔力を使って彼を手伝っているつもりだった。
少しでも彼の人生がいい方向に向くように手伝っているつもりだった。
そんな大きなお金のやり取りなんかなくたって困っている人がいてそれを楽にしてあげられる力があるのだから一生懸命使っていた。
決してお金の為ではない。
それはもちろん暮らせるだけのお金をもらうことは生きていくうえで大事だとアンも言っていたし、私もそうだと思うがそれだけだ。
そのお金で贅沢しようとは思わないし、ましてや体が弱かったり障害のある人から多額の金銭を奪うようなことはしたくない。
「フェリシアならばこの国の救世主になれるぞ。私もお前がそんな風に育ってくれてとても誇らしい」
「そうよ、フェリシア、私たちの長女である出来のいい貴方に期待しているのよ。本当に愛おしい私の子」
だから、金を出せ!
眼の奥がそう言っている気がして、胃の中のものがせりあがってきて、口を抑えて乱暴に席をたった。
ガタンッとイスが倒れる音がして、ハッと彼らを見ると、一瞬で目の色を変えて、まさか反抗するつもりではないかと責めるような瞳をしていた。
立ち上がったところまでは良かったのに、私は思わず、いつもの癖で笑みを浮かべて「温室は、小規模がいいです」と呟くように言ってしまった。
「あら、そう? フェリシアは本当に無欲ね。でもそんなことではだめよ。貴族として生きていくには強欲でなくちゃ」
「そうだぞ。それで結婚してからはどのペースで帰ってこられるんだ。……国王陛下から貰い受けた治療費もすぐに底をついた。カリスタにも小遣いをせびられているし、お前はこの家の稼ぎ頭なんだから家族を不安にさせるのはいけないぞ」
「そうね、週に一度は戻ってきて、治療を行いましょう! 患者は私たちがあっせんしておくわ。安心してたくさん集めるから、このお母さまに任せなさい」
「家族なんだから支え合って生きていこう、決して見捨てるようなことはあってはいけないぞ、そういう人間はひとではなく鬼畜だ」
「ええ、そうよ! 分かったら部屋に戻っていいわよ。凄く体調が悪そうだものね」
言われて、ふらふらとしながら私はダイニングを出た。
衝撃的なことを言われすぎてどうしたらいいのか、さっぱりわからない。協力したくないと思った私は鬼畜なのだろうか。
それ以前に私は彼らの稼ぎ頭だったらしい、知らなかった。
支え合うというからには、家を借りている以上は私は支えられているということで先程の提案を呑むしかないのだろうか。
廊下を不確かな足取りで進む。
対して何も口にしていないのに胃の奥がむかむかして眩暈が酷い。
一度眠ったら治るかもしれないが、ただ一つ、漠然とした虚無感とともにこれだけは確かだと思える感情があった。
……私は、聖女のわりに魔力も少なくて、昔から魔力欠乏で倒れるまで加護を使っていたせいで、回復が極端に遅い。
そうして加護を必死になって与えて生きてきた。ただそれは、苦しんでいる人が楽になっていい未来を思い描けるようにそういう苦労を受け入れた。
本当は、お友達も欲しかったし、カリスタのように自由に遊びたかった。
そういう欲求をすべて押し殺してでも、治療を続けていったのは彼らが贅沢をするためではない。
それに、魔力の回復が遅くなってしまったことは何度も手紙で伝えていた。子供心に彼らにそれだけ人を助けるなんて偉いと褒めてもらいたくて言っていた。
きちんと心配と褒める言葉が手紙につづられて返ってきて、それをとてもうれしく思ったのだが、それをきちんと覚えているのなら週に一度などと言わないだろう。
あの手紙はきっと母も父も読んでいない。
代筆者がいたのだろうと、察しがついた。
きっとそれは適当な使用人なんかで、私は彼らにとって、丁寧にやり取りをして心配したり応援したりするほど重要な人間ではない。
家族という関係性があるとても都合のいい金の卵を産む鶏みたいなものだろう。
それから部屋に戻ってどうにかしなければと思うが、その手段も思い浮かばないし、こんな自分には何もできないだろう、と無気力に考えた。
……いっそのことどこかに……消えてしまえば、良いのかもしれない。
そう考えたが、現実的ではない、ただ当てがあるとするならば好いてくれていると言っていた彼だ。
急なことを言って無理だと断られるだろうが、それでも堪えられずに急いでペンをとった。
ただいまはこの屋敷にいて、何もしないままいるのが恐ろしくて耐えられなかった。
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