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しおりを挟む目が覚めたのはその日の夜で、部屋は暗いのにベットサイドの間接照明の灯りがついているようで少し眩しく感じた。
天蓋を見て、それからまだ眠たくてその灯りを消そうとそちらを向くと、灯りのそばで座りながら本を読んでいるヴィクトアの姿があった。
彼は薄明かりの中で見ると、息をのむくらいアンニュイでどんな本を読んでいるのかと思えば、薬草についての書籍であり昼間の事をすぐに思い出した。
「……っ、うう~」
思わずうめき声をあげると、彼はぱっと顔をあげて、驚いた様子で私を見つめた後に、そっと体に手を添えて心配そうにこちらを覗き込んだ。
「起きたかフェリシア。どこか痛いのか? 待ってろ今、ゼルナかティアナを……」
「ち、が。違うので……あの……あの、ね。言いたいとがあるんだけどヴィ、ヴィクトア」
ここで彼女たちを呼ばれてしまったら、私はさらに二人にまで恥ずかしい気持ちを感じなければならない。
それならば彼にだけこっそりと真実を伝えてこっそりと解決した方がずっとダメージが低いと思うのだ。
だからこそ咄嗟に昼の真相を切り出せた。
言いだしてしまえば、恥ずかしいけれども一人で抱え込むよりずっとましだと思える。
「あの、わ、私……色々ともの知らずで」
「? あ、ああ、そうなのか」
「うん。その、だから、まずいなとは思っていたのだけど、急を擁していたから、聞く相手もいなくて」
「……もしかして、魔力草の話をしてるか?」
ぼかして言うと彼は改めて聞いてきて、私は赤くなる顔をかくすようにして布団を鼻までかぶりながら静かに頷いた。
そうするとヴィクトアはまた、意外そうな顔をして、続きを促すように私を見た。
「ハーブティーにしたり焚いたりして使うものだって気がつかなくて、驚かせて、彼女たちにも変な誤解をさせてごめんなさいただ、ただね。思ってはいたよ。まずいなって」
「……」
「でも食べているうちに慣れるというか、慣れるとと割と親しみやすいというか、そういう風に思っていたら、最初のどうやって食べるんだろうという疑問も忘れていてね!」
布団の中から必死に言った。
普段はこんな勘違いしないのだと思ってほしかったが、私は王宮でわりと放置され気味で育っていた。
なんせノアベルト国王陛下の治癒に魔力を使っていて、動けるときはカイの婚約者としての役目を果たすことを望まれてきた。
必然的にあまり教育を受けられなかったり、プライベートな趣味を持てなかったりと色々と困った事になっている。
そしてそれを自覚はしているつもりでも、取り繕うことは出来ないし、さらには、こんな生い立ちの学のない私が言い返すことは難しいと劣等感を持っている。
だから家族に言い返せずにさらに悪い環境に向かっていってしまうという悪循環を生んでいるなんてアンには言われたこともあった。
とまぁ、そのぐらいには私は、歳のわりにもの知らずだ。
「だからまったく不思議に思っていなくて、その……えっと、ヴィクトア様の反応を見て、私、き、気がついて、でも、もう直接食べたりしないので、だから、どうか」
……どうか、もう一度チャンスが欲しい。
そういうはずだったが、ヴィクトアは本を置いて椅子をずらし、私のベッドのそばに座り直して、手を口元に当てる。
それから「っ、」と息を吐いて、眉間にしわを寄せて笑みをこぼした。
「くくっ、くっ、はははっ、あははっ」
軽快な笑い声がして、彼の綺麗な赤髪が揺れてとがった耳についたシルバーのピアスが光を反射する。
まさかそんなに笑われるとは思っていなかったので、彼のたからかな笑い声に、少し布団から顔を出して様子を伺った。
これはどちらだろうと思う。
変な勘違いをする私を笑っているのか、呆れて笑っているのか判別がつかない、しかし、考えてじっと見ているとすぐにその答えがどちらでもない事が示された。
「っ、は~ぁ……なんだ、かわいいな。不意打ちはやめてくれよ」
愛情の滲んだ美しい瞳がこちらに向けられている。
とても安心するような声音をしていて、階段から落ちる前の怒っている怖い彼の声が脳裏に焼き付いていたので、この声を聴いて心底安心してしまった。
「そんなのよくある勘違いじゃねぇの? 気に入ってるならやってもいいし俺は……驚いたけど気にしねぇって」
「……」
「ただ、乾燥してある物もきちんと常備してあるから、使ってみて気に入った方を実践すればいい」
丁寧なフォローを入れられて、恥ずかしくて頭がめちゃくちゃになってしまいそうだった感情がずっと楽になって、やっとはぁっと落ち着いて息ができるようだった。
「……使ってみます。ありがとう。ヴィクトア様」
「ヴィクトアでいい、昼もいったろ。そうしてほしいんだ。フェリシア」
そうして再度言われると、思い出して、そうまで言ってくれているのならばとすぐに「わかりました。ヴィクトア」と言葉を返す。
それから、布団を押し上げて起き上がり彼と目線を合わせる。
さすがに横になったままでは、話もしづらい。
私の声にうんと一つ彼は頷いてから、ふと、真剣な顔に戻って、冷静な声で言った。
「それで、何で階段から落ちるようなことになったんだ?」
彼のコロコロと変わる雰囲気に驚きつつも、その真剣な瞳に射抜かれて聞かれると嘘はどうしても言えなかった。
「……あなたを追いかけて、それから……その何か不快な思いをさせてしまったのだたら謝ろうと思っていたんだけど、話が聞こえてしまって」
盗み聞きのようになってしまったことは申し訳なかったが、嘘を言うと隠し切れずにぼろが出るかもしれない。
そうなるとさらに嘘を重ねなければならなくなって大変だ。そして残念ながら隙の無い嘘をつけるほど私は頭の出来が良くない。
「それで、自分の奇行に気がつくとすごく、恥ずかしくて、急いで部屋に戻ろうとしたら、足を踏み外してしまって」
「……それであんな状態に……か。わかった。ただすごく心配になるから気を付けてくれ。俺は、魔力草を加熱せずに食べたから何か未知の症状が出て錯乱したのかと思ったぐらいだ」
彼はそういいながら、先ほどまで読んでいた本に視線を向けて、真剣な顔をした。
今日来たばかりだというのにとても気苦労をかけてしまって非常に申し訳ない。
うまくやっていけるだろうかと不安だったけれど、しょっぱなこれではもう、うまくやるのは無理だろうと思って過ごした方がいいまであるかもしれない。
「頭を打っているだろうから明日医者に診てもらおう。とりあえず今日はゆっくり休んでくれ」
優しげに笑みを見せる彼は、そんな風に言ってイスを立つ。
ヴィクトアは一応、とんでもない失態以外は許してくれそうではあるが、今日一つ分かったことがある。それは彼が怒るととても怖いという事だ。
何とかこの優しげなヴィクトアのまま居てもらえるように私も努力していきたい。がしかし、あいにく今日できることはなさそうでまだ眠たいのも事実だった。
しかし、ランプをもって去っていこうとする彼に、これだけは言っておこうと思って私は、ヴィクトアのシャツの裾を掴んで、彼を見上げた。
「……あの、起きるまでそばにいてくれてありがとう。心配をかけてごめんなさい、おやすみ、良い夢を」
最後の文句はカイに向けてよく言っていたものだった。習慣になっているので気をぬくとすぐに子供相手みたいな言葉が出てしまう。
そんな私の心境を知ってか知らずかヴィクトアは少し考えた様子を見せて、それから振り向いて私の肩に手を置いた。
「フェリシア、髪に触れてもいいか」
突然問いかけられて、何か変な寝ぐせでもついていたかと考えつつ何気なく頷くと、彼はポンと私の頭の上に手を置いてさらりと撫でた。
心地いい大きな手がわしわしと頭を撫でてきて、不思議な心地だった。
「おやすみ。フェリシアも良い夢をみろよ」
私と同じようにそう言ってヴィクトアは部屋を出ていった。それからしばらくは心臓が大きくて上手く寝付くことが出来なかった。
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