私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸

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 彼の気遣いのおかげで、私はあまり話題に困って一生懸命にひねり出したり、気まずい思いをしなくてすんでいる。

 だからこそ、普段通りリラックスできているのだが、私の普段どおりが彼にとっては気遣いのたまものに見えるらしい。

「こうして毎日会えるだけでも、癒されるし。あんたはいつもニコニコしてて自分に分からない話もちゃんと聞いてくれる」
「……」
「必要な時には、話をしやすいように質問もしてくるし、聞き上手すぎて話過ぎそうにもなる」

 ……そんなことないと思うんだけど……。

 急に何故か褒められて困惑したままヴィクトアを見た。彼は少し恥ずかしそうにしていて、目線は変な方向に向いていた。

「だから……フェリシア。あんたはそのまんまで十分、俺はそばにいてもらって幸せだ。だから無理して俺を全肯定するみたいなこと言わないでくれ」

 きっぱりとそう言われて、いつの間にか私が、彼にいらぬ気づかいをしていて、そのままで大丈夫だからと励まされているみたいな構図になっていた。

 思わずうんと言いそうになったが、納得しないまま頷くと後々誤解を生みそうだった。

 しかし、彼の言葉を真っ向から否定するのも憚られて思わず黙り込んだ。

 何と言ったらいいのかわからない。

 これまで過ごした彼との会話を思い出して、ただ否定するのではなくそうなってしまった理由を探したけれども見当がつかない。

 嘘はつかないようにしているし、私が嘘をつかなければならないようなことを彼はそもそも聞いてこない。だからとてもナチュラルにいつも会話をしている。

「……」
「フェリシア、なんだ、その、そんなに困らせたいわけじゃない。ただ、俺はあんたから見てあまりいい奴じゃねぇだろ?」

 私が困り果てているとヴィクトアはすぐに助け舟を出してきて、優しい声で続けた。

「あんなやり方であんたに婚約を破棄させたし、最終的にはつけこむみたいに自分の物にした。だから、そんな相手にかっこいいだとか立派な人だとか普通は言わないし思えない」

 具体的なことを言われて丁度さっきも彼に言ったし、その言葉を私はよく使う。

 かっこいいとか、立派とかそれから、すごいとか……それからきっとできる。大丈夫、信じてる。

 そこまで考えて、はたと思う。

 ……もしかして。

 これかもしれないと思ってさらに説得しようとしている彼に、励ますようなつもりで口慣れた言葉を言った。

「そんなことないわ。あなたは立派で素敵な人だから、どんな出会い方をしても私はあなたを信じてる」

 言いやすい言葉だった、しかしそれを聞いた瞬間に、ぐっとヴィクトアの眉間にしわが寄って纏う雰囲気が一気に悪くなった。

「……フェリシア」

 低い声が私を呼んで、まさかこんなに怒るなんて思っていなくて、すぐに訂正した。

「あ、違うよ。ただこれの事かもしれないと思って」

 怒られるようなことを言ったわけでもないのに、妙に焦ってしまって慌てて言い訳を続けた。

「これはその、気遣いじゃなくて、口癖というか、ただそう思ったから言っているだけでほぼ無意識で、でも怒らせたかったわけではないの。ごめんなさい。何も言わずに頷いておけばよかったね。本当にごめんなさい」

 手を目の前にもってきて何度も謝罪する。どうして言ってしまったのだろうと今更後悔して涙がじんわり滲んできた。

 慌ててもどうしようもないので続けてさらにいい募る、そうすると言わなくていい事まで口からこぼれ出た。

「たぶん、カイにやる気や自信を持ってほしくて、自分なりに前向きで嬉しい言葉を考えて口にするようにしていたから、それが行き過ぎていたのだと思う。これからは一度考えてから発言するし、変に思われないように治すようにする」
「……」
「前の男の人の為の習慣なんて聞いたら気分も悪いよね。ごめんなさい、ちゃんと直してあなた好みに言葉も変えるから」
「……フェリシア」
「だから気分を悪くしないで欲し……」

 さらに言い訳を重ねようとするとそっと私の手に添えられるように、彼の手が触れた。

 じわっと温かくて手先が冷えていたのだと思う。顔をあげたらすごく心配そうな顔をしてヴィクトアはテーブルから乗り出して私を見つめていた。

「……」

 驚いて、その瞳を見て大丈夫かと問いたくなった。それほどに彼は悲しそうで辛そうに見えた。

 それから不器用な笑みを浮かべて、きちんと座り直してから言った。

「……そうだったんだな。ちゃんと言ってくれて助かった。勘違いしてたままだったら逆にフェリシアに気を使わせることになってただろ」

 優しい言葉だった。それを聞いてやっと落ち着けた。ほっとして私も突然取り乱してしまってよくなかったと思う。

 一度、自分を落ち着けるようにゆっくりと呼吸をして、それから自分の手を手で掴んで手を温めた。

「ごめんなさい、取り乱して……ただね。前の人の為ではあったけれど、口癖みたいになっていて、こちらに着て少し慣れたから出てしまっていたんだと思う」

 ゆっくりと間違えないように言葉にした。

 するとヴィクトアもひとつ頷いてから、ほっと息をついて、いつもの通りに気さくに返す。

「そうか。じゃあ、いい兆候だな。色々とすっ飛ばしてこっちに来ることになったから心配してたが、あんたが過ごしやすい環境になってるようで安心した」
「うん。とても……ヴィクトアが沢山、気遣いをしてくれるから、普段からとても助かってる」
「……それは、口癖の方なのか?」
「いいえ。ちゃんと思ってること」
「じゃあ、よかった」

 私たちは二人してちょっと笑って、部屋の中には和やかな雰囲気が流れた。それはなんだか少し気恥しいような雰囲気だったが、彼とだったら悪くない。

「……それで、話を戻すが、じゃあ今のあんたが素の状態って事で合ってるんだよな?」
「うん」
「それならそのままがいいっていうのが一番なんだろうが……あー、なんかな、カイ王太子殿下の事を聞いた後だとなおさら……子ども扱いっぽい感じがするなぁと思う気もするんだが」

 彼は気まずそうに耳の裏をポリポリと掻きながらそう言った。



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