18 / 42
18
しおりを挟む言われて考えてみると、たしかに夫に言うような言葉かと言われれば私の口癖は少々幼い。
「それなら、少しずつ変えていくようにする。どんな言葉を言われたら嬉しい?」
これからの彼が前向きになって嬉しくなるような言葉はどんなものかと気になって聞いてみた。
自分の中にそのボキャブラリーがあればよかったのだが、考えても思いつきそうにない。
「……聞かれていうのは……どうなんだ?」
「どう、と言われても。私が考えると変なことを言ってしまいそうだし」
「例えば?」
聞き返されて考えてみた。それから、思いつく限りで口にする。
「ハンサムとか、仕事ができるとか、凛々しいとか……だ、ダンディーとか」
大人の男性の誉め言葉を考えてて言ったが、どうにもしっくりこないし彼も困ったように首をひねった。
「たしかにあまりしっくりこないというか褒められている気もするが、日々言われたいとは思わないな」
「そうだよね」
そう考えて、じっと彼を見てみる。彼を誉めるのにふさわしい言葉とは一体何だろうかと真剣に考えた。
さらりとした赤毛に切れ長の瞳、背は高くてすらりとしていて、一見怖そうに見えるが案外気さくで話もしやすい。
そういう人を何と形容するだろうか……いい男?
間違っていないが、それを私が、やっぱりいい男ねとか言っている想像がつかない。
「考えてくれるのはうれしいが、やっぱり、俺はあんたにとって、好意的に思える人間じゃねぇだろ。……だからさっき言った通り、そう思えない事を口にされてもしっくりこないんだ」
「……うん?」
「だから、言いたいときには言っていいし、俺もフェリシアの口癖は理解した。これからは無理せずいこう。それでいいか?」
話を総括するように言われて、やっぱり思わずうんと言いそうになったが、腑に落ちない事を言われて、これは言った方がいいだろうと思い口にした。
「えっと、無理せずというのはわかった。でも……」
何と言ったらいいのかわからなくて考えた。
彼は言い淀んだ私を待ってくれて落ち着いて考える。
カイとの関係性を見直すきっかけをくれたのはヴィクトアだ。たしかに始めは私を貶めたり、カイの権力を削るための算段かもしれないと考えた。
やり方もとても遠回しだったし、好意だとは思っていなかった。
でも、そうして私に気づきを与えるようにしてくれた方法も、今では間違ってなかったと思っている。
ああしてすべてをささげていた相手を真っ向から否定されて、私の行動を間違っていると否定されたらきっと意固地になっていた。
現にあの遠回しなやり方でも彼の方に訂正してもらおうとまで思っていたぐらいだ。だからきっと正しかった。
そういう風になるように考えてくれたのだろうし、ヴィクトアはとても人をよく見ていると思う。
だから、好意的に思っていないなんてことは無いし、むしろ……。
「ヴィクトアは私を助けてくれた。これが恩義の感情だとしても私はあなたが好き。私にとって大切な人だと思ってる」
まだ、出会ったばかりで手放しに愛してるとは言えないけれど、好意は持っている。
そして私にとって、とても重要な人だ。
「だから、喜んでほしいと思う感情に嘘はない。これだけは言わせてほしかったの……って……」
きちんと伝えてヴィクトアを見ると、なぜかまた額に手を当てていて、手で隠せていないとがった耳は赤く染まっていた。
「何か、間違った事を言ってしまった?」
「……いや、嬉しい。すごく、ただ、破壊力が……」
……破壊力……?
どういう意味だろうと考えていると、彼はばっと顔をあげて、息を吐いて笑った。
「だから嬉しいけどたまににしてくれ、あんたがそうして本心から思ったことを言うのはさ」
「……」
そう返されて、ああと納得した。彼は先程まで話していた口癖で言う言葉について言っているのだろう。
そうしてやっとなんとなく腑に落ちた。彼が私の誉め言葉をしっくりこなかった理由も、思ってもいない事を言っていると言われた理由も。
……あなたが言われて嬉しい言葉は心がこもった好意の言葉なんだね。
考えてみるとそれはとても当たり前のことで、ずっとペラペラとした紙切れのような言葉を言っていた自分はもうやめようと思えた。
「わかった。教えてくれてありがとう」
「……おう」
短く男前な返事をされて、なんだかおもしろくて笑ってしまう。そのまま私たちはなんだか気恥しい雰囲気のまま、適当な話をして夜を過ごした。
楽しい夜だったと思う。
88
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる