私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸

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 言われて考えてみると、たしかに夫に言うような言葉かと言われれば私の口癖は少々幼い。

「それなら、少しずつ変えていくようにする。どんな言葉を言われたら嬉しい?」

 これからの彼が前向きになって嬉しくなるような言葉はどんなものかと気になって聞いてみた。

 自分の中にそのボキャブラリーがあればよかったのだが、考えても思いつきそうにない。

「……聞かれていうのは……どうなんだ?」
「どう、と言われても。私が考えると変なことを言ってしまいそうだし」
「例えば?」

 聞き返されて考えてみた。それから、思いつく限りで口にする。

「ハンサムとか、仕事ができるとか、凛々しいとか……だ、ダンディーとか」

 大人の男性の誉め言葉を考えてて言ったが、どうにもしっくりこないし彼も困ったように首をひねった。

「たしかにあまりしっくりこないというか褒められている気もするが、日々言われたいとは思わないな」
「そうだよね」

 そう考えて、じっと彼を見てみる。彼を誉めるのにふさわしい言葉とは一体何だろうかと真剣に考えた。

 さらりとした赤毛に切れ長の瞳、背は高くてすらりとしていて、一見怖そうに見えるが案外気さくで話もしやすい。

 そういう人を何と形容するだろうか……いい男?
 
 間違っていないが、それを私が、やっぱりいい男ねとか言っている想像がつかない。

「考えてくれるのはうれしいが、やっぱり、俺はあんたにとって、好意的に思える人間じゃねぇだろ。……だからさっき言った通り、そう思えない事を口にされてもしっくりこないんだ」
「……うん?」
「だから、言いたいときには言っていいし、俺もフェリシアの口癖は理解した。これからは無理せずいこう。それでいいか?」

 話を総括するように言われて、やっぱり思わずうんと言いそうになったが、腑に落ちない事を言われて、これは言った方がいいだろうと思い口にした。

「えっと、無理せずというのはわかった。でも……」

 何と言ったらいいのかわからなくて考えた。

 彼は言い淀んだ私を待ってくれて落ち着いて考える。

 カイとの関係性を見直すきっかけをくれたのはヴィクトアだ。たしかに始めは私を貶めたり、カイの権力を削るための算段かもしれないと考えた。

 やり方もとても遠回しだったし、好意だとは思っていなかった。

 でも、そうして私に気づきを与えるようにしてくれた方法も、今では間違ってなかったと思っている。
 
 ああしてすべてをささげていた相手を真っ向から否定されて、私の行動を間違っていると否定されたらきっと意固地になっていた。

 現にあの遠回しなやり方でも彼の方に訂正してもらおうとまで思っていたぐらいだ。だからきっと正しかった。

 そういう風になるように考えてくれたのだろうし、ヴィクトアはとても人をよく見ていると思う。

 だから、好意的に思っていないなんてことは無いし、むしろ……。

「ヴィクトアは私を助けてくれた。これが恩義の感情だとしても私はあなたが好き。私にとって大切な人だと思ってる」

 まだ、出会ったばかりで手放しに愛してるとは言えないけれど、好意は持っている。

 そして私にとって、とても重要な人だ。

「だから、喜んでほしいと思う感情に嘘はない。これだけは言わせてほしかったの……って……」

 きちんと伝えてヴィクトアを見ると、なぜかまた額に手を当てていて、手で隠せていないとがった耳は赤く染まっていた。

「何か、間違った事を言ってしまった?」
「……いや、嬉しい。すごく、ただ、破壊力が……」

 ……破壊力……?

 どういう意味だろうと考えていると、彼はばっと顔をあげて、息を吐いて笑った。

「だから嬉しいけどたまににしてくれ、あんたがそうして本心から思ったことを言うのはさ」
「……」

 そう返されて、ああと納得した。彼は先程まで話していた口癖で言う言葉について言っているのだろう。
 
 そうしてやっとなんとなく腑に落ちた。彼が私の誉め言葉をしっくりこなかった理由も、思ってもいない事を言っていると言われた理由も。

 ……あなたが言われて嬉しい言葉は心がこもった好意の言葉なんだね。

 考えてみるとそれはとても当たり前のことで、ずっとペラペラとした紙切れのような言葉を言っていた自分はもうやめようと思えた。

「わかった。教えてくれてありがとう」
「……おう」

 短く男前な返事をされて、なんだかおもしろくて笑ってしまう。そのまま私たちはなんだか気恥しい雰囲気のまま、適当な話をして夜を過ごした。

 楽しい夜だったと思う。



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