23 / 42
23
しおりを挟む今日集められた五人を回復するのはそれだけの時間がかかり、魔力が底をつく限界で終了して貧血のような症状に襲われながらも温室を出た。
私はすぐにでも休みたかったが、今日は、彼らに話があってここに来た。この機会を絶対に逃すわけには行かないので屋敷の中で両親を探した。
住んでいたこともあるお屋敷なので、どこに誰がいるのかぐらいはわかる。
家族が集まるのはいつも父の執務室だ。重たい体を引きずって階段を上り、ノックをして部屋へと入った。
すると部屋の中には、あまり会わないカリスタの姿まであって、可愛いドレスを纏った彼女と両親は、皆機嫌が悪い様子だった。
「だからどうしてお父さまが一番取り分が多いのよ。わたくしが一番若くて美しくてお金がかかるだからもっとお小遣いをちょうだいよ!」
「何言ってるんだ、私は家長だぞ、お前より取り分が少ないわけないだろう。そもそもお前は何もしていないではないか、そんなに金が欲しいなら姉に頼めばいいだろう」
「そうよ、だって今では立派な公爵夫人だものね? フェリシア、立派なご身分なのだから可愛い妹に恵んであげたらいいじゃない!」
なんだか棘のある言い方に、もしかして母は自分より身分が高くなった娘に嫉妬しているのではないだろうかと思う。
「あら、お姉さまいたの? 本当相変わらずぼんやりした顔、見てるとフェルステル公爵の美的センスを疑いたくなるわ」
「ふふふっ、やだ、カリスタ。そんなこと言ってはダメよ。物好きだってこの世には沢山いるのだわ」
お母さまはカリスタに同調するようにそういって、お父さまは、布袋から金貨を取り出して、一枚二枚、と丁寧に数えていた。
……お金を手に入れた途端に、これ……か。
私が必要な時だけは愛している、可愛い我が子だといいながらも、用済みになれば、家族としての顔など忘れてただの他人のように振る舞う。
これが私の家族だと認識すると、心が重たくなってきて、ただでさえそのお金と引き換えに酷い体調なのに誰も気遣うつもりはない様子だった。
心の底から、疲れた時のような長いため息が出て、頭がくらくらした。
しかし、だから何だというのだろう。これが私の家族だ。そして今日は、私の言い分を聞いてもらうために来た。
「……話があるの。……聞いて」
真剣な声で言った。しかし彼らは私に興味はない様子で、ちらっとこちらに視線を送るだけだった。
「私は、昔から魔力を使いすぎていたせいで、魔力の回復も遅いし、聖女の力を使ってめいっぱい人を癒すことはできない」
父は、お金を数える手を止めていない。母とカリスタは私を馬鹿にするようににやにやしながらこちらを見ている。
「だから、この家の稼ぎ頭として皆を養っていくなんてことは、到底無理だし、心底困っている人たちから、お金を巻き上げるなんて方法、やってはいけない事だと思う」
それでも、伝えられるように、酷い眩暈をこらえてつづける。
今日ここに来るにあたって調べてきたこともある。
聖女の力の私物化はとても重い罪になる。例えそれが一時的にノアベルト国王陛下の為に使われるように大衆に隠されていたのだとしても、今はその大義名分もない。
その状態でこんな荒稼ぎをしていたら普通は、どこからか情報が洩れて捕まってしまう。
そんなことになってほしくないと思う。私自身犯罪に手を貸すつもりもない。
「本当は、お母さまもお父さまもわかっている事でしょう? 女神さまに与えられた人を救うための力を自分が贅沢をするためだけに使っていいわけがない」
「……」
「……」
「私は、もう、フェルステル公爵家に行った、フェルステル公爵夫人です。だから、手を貸すことはできない。温室は壊して今回のお金だけで、自分たちで領地の収益や自分の仕事で生計を立てて、暮らしてください」
懇願するように言った。彼らは、いつの間にか私を見ていてくれて、言葉が届いたような気がした。
しかし、その瞳はどこか冷ややかで、探り合うように三人は視線を交わして、それから長い沈黙の後、くすっと笑ってカリスタが、口を開いた。
「っ、ふふ、アハハ! やだ、お姉さま、なに深刻な事言っちゃって、ごめんねぇ? 私がお母さまと仲良くしてるから、寂しくなっちゃってそんな気を引くようなこと言いたくなっちゃったのね?」
……違う。
「なぁにそれ、やだもう、フェリシアったら、さっきのは冗談よ。良いのよ貴方はずっと昔からいい子だったのもね。私たちを困らせる様な事言いたくなっちゃったんでしょう? まったく可愛くないわねもう」
ぐっと奥歯をかみしめた。ぎりっと音がして、最後の望みをかけて父を見た。
すると父は、ふんぞり返って座っていたソファーからゆっくりと立ち上がって、のしのしと歩いて私のそばまで来た。
「……」
「……」
無言の父に、彼の心は動いただろうかとその瞳を見つめているとバシンッと耳に響く音がして衝撃が頬を打った。
「親を見捨てるやつがどこにいる!! このグズ!! 女神さまがそんな不義理なことを望んで堪るか!!」
怒鳴り声を浴びせられて、途端に体がすくみあがった。
「あらヤダ」
「きゃあ、お父さまこわぁい」
頬が痛くて、体が震えて涙が出た。頬を伝って涙が落ちていくのが惨めで仕方ない。
「あーあ、お姉さま泣いちゃったわ」
「ちょっと、貴方。ダメよ、手をあげちゃ、だって今はほらこの子はよそ様の家の娘になったのだから……でもね」
言いながら母が寄ってくる。彼女は私の頬に手を添えて、わがままを言った子供を宥めるように優しく口にした。
「お父さまが怒るのも無理ないのよ。私たちは貴方に期待しているのだから、反省しなさい、さ、馬車を用意するから、フェルステル公爵家に帰るのよ、今日はそれでいいわね、あなた」
「フンッ、好きにしろ」
……私は何も間違ったことは言っていない。何も……決して。
そう思うのにこれ以上、食い下がることは出来ず、乱暴に涙をぬぐって母の手を振り払い、そのまま必死に足を動かして屋敷を出た。
何も伝えられなかったことが悔しくて、惨めでとめどなく涙があふれてきたけれど、なにより辛かったのは、こんなことではヴィクトアに顔向けができないという事だった。
私の問題をかくして、一度彼らにいい思いまでさせてしまって、今まで、秘密にしてしてしまった。もうあとには引けない、何とかするしかないのだ。
手立ては、思い浮かばなかったけれど屋敷に戻るまでに何とか気持ちを落ち着けて、平静を保てるようにしてフェルステル公爵邸に戻ったのだった。
42
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる