私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
22 / 42

22

しおりを挟む




 ヴィクトアが交流会に出かけた日。私は彼が出かけたことを何度も確認してからまるで悪い事をするみたいにこっそりと屋敷を抜け出した。

 彼が帰ってくるのは明日以降の予定だったし使用人たちには少し出てくると伝えてあるので問題はないだろう。

 万が一、ヴィクトアが使用人たちから聞いて、どこに行っていたのかと問われたら家族に会いたくなってと言うだけでいいはずだ。

 ベルナー伯爵邸はそれほどの距離ではないから気軽に会いに行くのだってまったくおかしくないはずだ。

 実家に入り浸るのは、嫁には行った身としては良くない事だという事も重々承知しているしそれでもこの機会に向かわない手はなかった。

 馬車に乗って移動して、近くで下ろしてもらってからベルナー伯爵邸へと向かうと、何故だか入口に馬車がいくつか止まっていて、パチパチと瞳を瞬いた。

 今日向かうことは決まっていたので一応知らせておいたのだが、お茶会でも開いているのかもしれない。

 休日なのですっかり忘れていてという事ならば、それでもかまわないし、花の女神の聖女としての力を使うことが両親にとってそれほど重要ではなくなったという事だ。

 それは喜ばしい兆候だろう。

 だから私はほっとして、ゆっくりと庭園を歩いて屋敷へと向かい一応来たという証明に顔だけは出して、フェルステル公爵邸に帰ろうと考えていた。

 しかし、屋敷の玄関口の前にいた侍女が私の存在に気がつくやいなや、ものすごく急いだ様子で中へと入っていく。

 彼女を呼び止める暇もなく私が呆然としていると、バタバタという足音が聞こえてきて、バタンッと扉が開いた。

「フェリシア!! やっと来たわね、まったくこんなに待たせて、駄目じゃないの」
「そうだぞ、さあ急いで、お客様がお待ちだ!」

 飛び出してきたのは父と母で、彼らは妙に高揚しているようなそんな雰囲気を感じてぎょっとする。

 焦った様子の彼らに首をかしげて、まずは久しぶりだと挨拶をしようとすると、私の周囲を使用人が取り囲み、侍女たちに囲まれてあとにも先にも引けない。

「あの、お父さま、お母さま、どういうことなの、私はただ二人に話があっただけで、あ」

 手に持っていたバッグを使用人が「預かりますね」という一言で持ち去って、すぐに背を押されたり、手を引かれたりして屋敷の中に連れていかれる。

「良かったわ、これでしばらくは安心ね。報酬はもう貰っているから、ちゃんと働いてくるのよフェリア、私たちの顔に泥を塗るようなことはしないでね」
「なに、私に恥をか返せるようなことはしないよな。フェリシア。信じているぞ、私の可愛い娘よ」

 両親の声がして、すぐに言い返そうとしたが、使用人たちに半ば強制されるようにして連れていかれて、足を止めたら転んでしまいそうだった。

 ……報酬って……まさか。

 そんな風に思ったけれども時はすでに遅く、移動した先は外廊下につながっていて、高い塀に囲まれた大きなガラス張りの温室があった。

 ノアベルト国王陛下を癒していた時の温室より数倍広く、よく王都のこんな一等地買って立てるまで資金があったなと思う。

 それにすでに、中には人がいて不審そうにあちらこちらを確認していた。

 ……やっぱり……どうしよう。私こんなことしたくないのに、それに今日は、大切な話があるから何もせずに待っていてほしいと手紙で言ったのに!

 あんなに文面を必死で考えて、彼らに丁寧にきちんと普通の報酬の額で、長く続けて加護を与えられるような期間を設けて自分なりに力を使っていきたいから話し合いをしようと手紙を書いた。

 それなのに来訪日だけを読み取って、こんなことまでしてしまうだなんてまったく想像していなかった。

「っ~、離してください! わ、私は両親に話があってここに来ただけなんです!」

 側にいる使用人たちにそう主張するが、すると腕を掴んでいる侍女がぐっと強く二の腕を掴んでぐいぐいと引いていく。

「お願い、私もきちんと否定しなかったのは悪かったですが、今日はこれからの事をきちんとするために話し合いに来たんです! っ、だから離して」

 振りほどこうとしても四方を固められていて、背を押されて温室の中に入った。

 中にいるのは五人ほどの性別年齢バラバラの人々であり、彼らは一様に私の事を見て、その視線にこれ以上拒絶するようなことを言うのは憚られた。

 なんせ彼らは何も知らない。私がなんの女神の聖女かを知っているのは王宮にいる人たちとそれから教会の中枢人物だけだ。

 私と両親の意見が食い違っている事も、これから何が起こるのかも知らないまま、自分の障害がもしかしたら治るのかもしれないと思って、疑いながらもここに来た。

 それなのにすでにこうして、どうにかなるかもしれないという希望をもって集められているのに、私がここで彼らを拒絶したら、誰がその希望を叶えてやれるだろう。

 目の前にいる彼らを見て目が合ってしまえば、両親に対する怒りの感情も消えて、ただいまこの場だけでも彼らに何かしら恩恵を与えたくなってしまう。

 ……でも、そんなことではだめ。これからずっと加護を与えて治してあげられるわけではないんだから、だからこそ、彼らにはきちんと謝って今からでもお金を返して帰ってもらうしかない。

 そう決意をして、眉間にしわを寄せて声をかけようとした。

 しかし、この温室の中にいるうちの一番小さな男の子が用意されていた席を立ってトトトっと私の方に駆けてきた。

 ……え。

「聖女のお姉さん! 僕、お姉さんの加護を受ければ、お外で走れるようになるって聞いたんだ」

 その子はとても人懐こい子なのか、私に向かって飛びつくように抱き着いてとても元気なように思える。

 しかし抱き着いたままの姿勢から動かず、ズルっと崩れ落ちて、思わずその体を支えるように抱きとめた。

「っ、ごめんなさい。つい、はしゃいじゃって……ごめんなさい」

 酷い息切れと動悸を起こしていて顔が真っ赤だ。

「……」

 何か先天性の病気なのだろう。とても辛そうに見える。彼はそれ以上何も言わなかったけれども、その目は私に向いていて、懇願するような顔だった。

 どうしても見ていられなくて顔をあげると、その場に居る誰もが同じように私を見ていた。

 ……っ。
 
 誰も何も言わなかったけれど、彼らの感情は簡単に読み取れる。

 疑念と、希望が入り混じっていて、誰もが自分がここに来た理由が真実だったらいいのにと私に期待してた。

 ……否定……しないと。

 そう考えるのに、口を開くと別の言葉が出てきていた。

「注意事項が、いくつかあるけど……きっと元気になれます」

 そう言えば私の胸元にいた彼は目をキラキラッと輝かせて「やったぁ」とても辛そうに言った。

 ゆっくりと歩いて一緒に席に戻してあげてから、息をついて、私は彼らに他言禁止などの注意事項の後に、一番大切なこととして、この治療は今日一度だけであり今後一切はこのベルナー公爵家で治療は行わない事を了承してもらった。

 それから私たちを取り囲むようにある何も植えられていない花壇に向けて魔力をこめる。

 真っ青の美しい花が植物が育つ工程を無視していくつも出現し、それから魔法を使って彼らに加護を与えたのだった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...