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しおりを挟む少しでも何か感情を読み取れないかと探ってみるが、怯えた小動物みたいになっているということ以外はまるで分らない。
フェリシア以外にだったら、なんだそのめんどくさい態度は、ぐらい言っていたと思うし、俺はそもそもこんなに会話を考えてするタイプではない。
会話というのは退屈させては終わりだ。
次から次に話をするか相手にさせるか、親密になるには相手の興味のあることを話すか、相手の好きなことに興味を持って会話を続けることだ。
どんな些細な事でも盛り上がった、楽しかった、良い人だと記憶にきざんで話が尽きないうちに別れる。
そうすれば割と長い期間、自分に対して好印象を持ってくれる。
基本的には話題を振ってくる連中の話は聞いて、そうしてこない相手には興味のありそうな話題を振ってやる。
そうして話していればたいてい相手の人となりがわかってくる。それからは、丁寧に対応してやれば基本的に信頼関係を構築できる。
という無意識のプロセスが頭の中にあるというのに、どうにもフェリシアと話をしていると彼女に興味なさそうなことまで喋ってしまったり、逆に何を考えているのかわからなくて言葉に詰まることがある。
「……」
今だって無言を気まずく思っているのか、それとも考え事をしているのかその瞳の奥の感情がわからない。
髪で目元が隠れているし、いつも朗らかにほほ笑んでいるか、瞳を伏せっているかのどちらかで目が合っていると感じることがほとんどない。
躍起になって何を考えているのか予想するが、そもそもこの子は全然自分の事を話さない。
世間知らずだとか、学がないだとか、そういう事で自分の事を話すのを恥ずかしがる人もいるということは理解しているが、それにしても主張がなさすぎる。
フェリシアの事を知りたくて踏み込むのに、手を伸ばして探ろうとするとその形に合わせるみたいにフェリシアの形が変わってしまいそうで、本当の彼女がどこにいるのかわからない。
「……ヴィクトア」
ふと名前を呼ばれて、思考を打ち切って彼女を見た。
長く沈黙してしまったから退屈してもう帰って欲しい、そう思っているのか将又、少しでも大丈夫ではない様子の理由を教えてえくれる気になったのか。
そう瞬時に予測した。
「聡い貴方の事だから、色々と感じていることはあると思う。でもあなたに損害がないように、必ずします。大丈夫です」
……損害がないように?
あんたがそんなにつらい思いをしているのに何が大丈夫だってんだ?
「だからもう少し、気にしないでいて。問題がなくなるように私、ちゃんとできるから」
そういうフェリシアが何を考えているのかは相変わらずわからなかった。
ただ、俺に手を出すな口も出すな、問題ない。そういいたいのだという事だけは理解できる。
何が問題ないというのだろう。いくら俺が信用ならないからといっても、大切な人間が傷ついていてそれを守るために止めることまで制限されるいわれはない。
それがたとえ俺自身の問題ではないのだとしても、口ぐらいは出す権利があっていいはずではないか。
「……こうなっているのもヴィクトアにはまったく責任がない事だから」
その言葉を聞いて、イラっとする。カチンときたといってもいい。
なんせ責任がないというのは関係がないという事と同意義だ。結婚までしている相手が傷ついて大きな問題を抱えているというのに、責任も関係もない?
それならなぜ縁を結んだというのだろう。お互いに支え合っていくから夫婦なのであって、関係のない相手とただ同じ屋敷で暮らすのとは訳が違う。
……俺に手を出されるのがそんなに嫌か?
「責任がない? 俺とあんたは結婚してるんだ、それなのにお互いの問題を見て見ぬふりをしていいわけねぇよな」
口にすると、その瞬間にフェリシアとの心理的距離が今までよりずっと開いた気がする。
自分の口調も声音も、不機嫌だと全面に押し出したようなもので、怖がられてしまうとわかっていても、これはそれでも伝えるべきことだと思うと言葉が止まらない。
どんどんと不幸になっていくだけのフェリシアを見ていて耐えられなかった時のように歯止めが利かない。
「あんたがどんなに望んでなくても、結婚していれば同じ責任がついて回る。夫の俺が何か犯罪を犯せばあんただって疑われるし、あんたが素晴らしい功績を残せば俺だってそれを支えたなんて言われてほめたたえられる」
「……」
「一蓮托生で同じ人生をこれから歩いてくんだろ、それなのにフェリシアは俺にその責任がないなんて言うのか?」
黙り込んで俯く彼女の手を取った。どこにいて何を考えているのかわからなくて目の前にある体だけでも引き留めて俺を見てほしかった。
フェリシアの目の前にいて、誰よりフェリシアを助けたいと望んでいるし苦しんで欲しいとなんて思っていない。
誰より幸せになってほしいし、誰より幸せにする義務を背負わせてほしい、フェリシアの家族だろうとカイ王太子殿下だろうと、フェリシアを不幸にする人を彼女から遠ざけてもいい権利が欲しい。
そのためにはまず俺が、フェリシアに認められて望まれなければ始まらない。
「あんたは本気でそう思ってるのか? 一人で全部何とかなるわけねぇだろ」
こんなに細い手足で、手折れば枯れてしまいそうな花のように脆いのに、フェリシアは守る権利を俺に渡してはくれない。
「フェリシア、あんたに何ができる。伝手があるわけでもない、あんた自身が強いわけでもない。それなのに、どうして俺に責任がないなんて言えるんだ」
無力なのを責めているんじゃない。ただ、そうだと自覚してほしい。
自分一人でどうにもならない事だから、同じ責任をかぶっている俺に頼るべきだと気がついてほしい。
フェリシアは、頑張り屋だから、体がつらくとも、心がつらくとも、折れずにめげずに抗ってより良い方向に向かおうとしている。
でもフェリシアのその考えについていける人間ばかりじゃない。
考えも違って、あんまりにずっと見捨てられずになんでも許容されて励まされると、その情に目がくらんでいつまでたっても自立できない人間もいる。
そうなったら、後はフェリシアはどこまでも食いつぶされるだけだ。奪われて利用されて、食い荒らされてそんな風になんてなってほしくない。
このままの優しいフェリシアを守らせてほしい。
「フェリシアにはできない事がある、だったら、俺が代わりにそれを手助けした方がずっと効率がいい、だろ? だから……」
それが一番、合理的で得がある。
俺にはそれとともに恋愛感情があってフェリシアが健康で幸せそうなだけでうれしいんだが、彼女にはそれは伝わらないだろうからそういう言い方をした。
しかし、彼女は言葉に詰まってぐっと眉間にしわを寄せてから涙の粒を瞼に浮かべた。
それから堪えるように震えて、ティーカップを両手で包み込むように持ったまま、涙を俺に見せないようにそっぽ向いて、涙声で言った。
「でき、ます。っ、……迷惑をかけない、ように」
彼女の手にしている、ティーカップを手に取る。すると「すみません」と短く言って急いで涙をワンピースの裾で拭って、急いで深呼吸をした。
それでも、涙は収まっていない様子だったが、フェリシアは焦ったように続けていった。
「あなたが、困らないように、気を付ける。……ちゃんとできます」
震えた声を聴いて、なんだか気持ちがゆっくりと冷めていって冷静になった。
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