私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸

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 フェリシアのティーカップをベッドのサイドテーブルに置いて。改めてフェリシアを見た。

 ……俺の言葉は伝わってないな。

 それだけはわかった。伝わっていないし、きっと正しく解釈もしていないと思う。

 ただ恐れて、彼女の頭の中には自分がどうしたらいいのか、自分にもっとできることがあるはずだとひたすらに内側に刃が向いている。

 まったく少しも、これっぽっちも、自分を問題に巻き込んでいる家族のせいだとか、文句を言ってくる俺のせいだとかも考えていない。

 だからこれ以上踏み込んでも、柔らかい綿の向こうがわにいる本来の形のフェリシアをその内側に向かっている刃で傷つけるだけだと思う。

 フェリシアは、手を置いたら沈み込んでいきそうなとても柔らかい人柄をしていて、そのおかげでいつだって側にいて心地いいが、そのせいで度が過ぎると彼女の中身は滅茶苦茶になってフェリシアのせいではない事がフェリシアを傷つける。

 ……元からこうなのか。それとも誰かのせいでこうなのかわからねぇけど、気分わりぃな。

 できるだけそのままフェリシアを愛したいのに、これでは碌に喧嘩もできない。

 だからと言って他人のせいということもあるのだから覚えろと、迫れば変に押し付けることになるだろう。

 時間をかけて、フェリシア自身がそれに気がつくしかない。

 自分のせいと、他人のせいを使い分けてうまい配分を見つけていく方法は、経験しかないだろう。

 分かってはいて、何とか気づかせるようにしたいが、まったくもって傷つかないでほしいという俺の気持ちはどこへやったらいいのだろう。

 なんだか辛くなってもうフェリシアをどこにも出したく無いし、他人に触れさせたくもない。

「……泣かなくていい、ただ、俺の言った事、よく覚えておいてくれ。それでたまに思い出してみてくれると嬉しい」
「うん、っ、はぁ、わかった」

 何もかもを堪えてそういえば、フェリシアはちゃんと頷いて俺を見る。

 今だけは目が合っているような気がして、少しぐらいならばいいだろうと考えて立ち上がり彼女の隣に座った。

「あんたを傷つけたいわけじゃねぇんだ、ただ……」

 それ以上先が押し付けになってしまわないかわからなくて言い淀んだ。

 自分らしくないと思うけれど、それでも黙ってぐっと抱き寄せた。

 引き寄せればまったく抵抗なく腕の中に納まる。

 柔らかくて小さくて、さらさらとしている青い髪を撫でて、堪らなくなる。

 こうして、そばにいる権利だけでもあることに満足するべきなのかもしれない。

 ふわりと花の香りがして、そういえばいつもそばに寄るとこんなふわふわした匂いがしていたなと思う。

「……なぁ、フェリシア、あんた寝る前にも香水を振るのか?」

 気になって腕の中にいる彼女に聞いてみると、すっかり眠ってしまっているのか、意識を失っているのか、わからないフェリシアがいて、驚いて、死んでないかと咄嗟に口元に手を当てた。

 きつく抱きしめたわけではないけど、抱きしめたらぽっくり死んでしまったなんて事になっていないだろうかとドキドキしたが、呼吸はしっかりとしていて、ほっと息をつく。

「……俺の事、信用してないんじゃないのか?」

 すっかり眠っているらしい彼女につい、問いかけてから、目元をかくしている前髪を軽く払った。

 可愛い顔が見られて、滅多に見られない額に何となく触ってみたら自然と笑みがこぼれる。

 こんなに整った顔をしているのにどうして隠しているのか、そういえばこれもフェリシアの謎の一つだ。

 果たして、彼女の問題がすべて解決した時、同じく謎もすべて解けているのだろうか。








 ヴィクトアを怒らせてしまった。怒らせたというよりも、本当は叱られたに近いような気もするけれど、なんにせよ機嫌を損ねてしまったのは確かだ。

 実家の件で魔力が回復するまでの間、迷惑をかけることになってしまって、もうすでに問題を先送りにしてヴィクトアに隠していたせいでいらぬ損害を出しているのに、ヴィクトアに今更すべてを明かせなくて保身のために何も言わない私にしびれを切らしたのだと思う。

 私がきちんと今回の事で彼らに話をつけていられたら、ヴィクトアにあんな風に言わせる必要もなかったし、最初は全部正直に話そうと思っていたのにどんどんと拗れていってる気がする。

 しかし、ヴィクトアはどんなに怒っていても、私には優しかった。

 私の気持ちを考えて抱きしめてくれたり、ハーブティーを持ってきてくれたり、やっぱりとてもよくできた人格の持ち主なのだろう。

 ……それに比べて私は……。

 自分の家族の事すらまともに解決することが出来ない。数少ない自分の特技すら、他人に利用される道具と化している。

 ……次こそは、絶対……納得させないと。

 そう考えて対策を練った。まともに話し合いのテーブルにつくには私は万全でなければならないし、同じ人間なんだから話をすればきっとわかってくれるはずだ。

 そう信じて、魔力の回復を待った。

 完全に回復して眩暈がしなくなったころには既に雨が続く季節がやってきていた。

 しとしとと降りつづく雨は窓を濡らして水滴がゆっくりと落ちていく。

 すると同時に、ヴィクトアが険しい顔をしていることが増えた気がする。

 窓の外を忌々しそうに眺めているところも何度か見たし、いつだかティアナが言っていた頭痛のせいだと思う。

 けれどもなんだかそれだけではないような、複雑な重たい感情がヴィクトアの中にはあるような気がして、彼が少し心配になった。私はヴィクトアの事をまだ多く知らない。

 何か辛いことがあるのならば話してほしいと思う。

 そんな風に考えていた矢先、屋敷に来訪者が現れた。霧雨の降る休日のどんよりとした午後の事だった。




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