私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸

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 窓の外には霧雨が降っている。小さな雨音がなっているような気がして耳を澄ませて目をつむった。

 しかし握っていたやせ細った手がピクリと動いてぱっと目を開く。

 ぼんやりとしたような瞳でこちらを見やるノアベルトお父さまは、しばらく意識がはっきりとしない様子でうつろな瞳をしていたが、私がそばにいるのだと気がつくと一度目をつむってからこちらを見やった。

「着ていたか、アンジェラ」
「はい、お父さま。体調は如何ですか?」
「……そうだな。フェリシアの加護がまだ効いているのだろう大きく崩すようなことは無い」
「良かった。最近は天気もどんよりとしていますから、お父さまの気も滅入ってしまっていないか心配していたんです!」

 骨と皮だけになってしまっている父の手の甲を温めるように摩って、本当に体調は悪くなさそうだと思う。

 こうして病に臥してばかりの父だが、これでも一国の王として立派に責務を果たしていた時はあった。

 しかし、最愛の人であるコーデリアと、その娘である私を亡くした時から徐々に弱り始めて今では老人のようだった。

 元から体が弱かった、父は心も弱ってしまってエリカは、自分のせいで国王までも失うのを恐れ、様々な治療を施した。しかしそのどれもが心因性の症状に対処できるものではない。

 死は目前に迫っていた。しかし、そんなところに丁度良く、花の女神の聖女であるフェリシアが現れた。

 まだ加護を使うには十分に成長していない幼い聖女だったが、それでも、酷使するためにエリカは大金をはたいて、フェリシアをカイの婚約者にした。

 案の定、その体に負担をかけて加護を使ったフェリシアには、代償として人よりも魔力が回復しずらいという障害を負うことになった。それについて父は何も知らないし私も言うつもりはない。

「アンジェラ。カイの教育の進捗はどうかね。あの子はまじめにやっているかな」
「! ええ、それはとても、体を動かすのが元から好きだったようで、使用を制限されていた風の魔法も授業が始まって、教師には魔力の扱いはうまくないけれどセンスはいいと褒められました」
「……それは素晴らしいことであるな」
「はい! 今までのロスがある分、カイには全力で頑張ってもらわないといけませんから」
「……」

 私は喜ばしい事を報告したつもりだったが、お父さまは一言そう言っただけであまりうれしそうではない。

 何か気になることでもあるのだろうか。少し不安になって、私は、父に縋るように問いかけた。

「ノアベルトお父さま、具合が悪いのですか? お医者様を呼びましょうか?」
「……アンジェラ、其方、無理をしてはいないか?」

 私が心配すると、同じく彼もとても心配そうにそう問いかけてきた。その言葉に目を見開いてパチパチと瞬きした。

 無理と言われて考えてみる。今の生活を振り返ってみた。

 しかし、この地位に戻ってくるまでの間の方が私はよっぽど無理をしてきた。

 母の敵を討つために死力を尽くして生きてきた。無理はしまくった。しかし結果的に目標を達成しているのだから何の問題もない。この状況で無理していることなどない。

「エリカの息子であるカイの面倒を見て、其方に教育を任せるなど、余は其方の親として情けない。二人の間に因縁が生まれてしまう事すら阻止できなかった」
「……」
「おいでアンジェラ。……カイも其方も私にとってはどちらも血を分けた大切な子だ。しかし、無理をして弟の面倒を見てほしいなどとは望んではいないから其方は其方の思うように、国を導く指導者としての道を歩いても良いのだ」

 おいでと言われて、手を広げられたので迷うことなくその胸の中にそっと飛び込んだ。人に抱きしめられるということは温かく、そしてとても嬉しい。

 それが体が弱く滅多にあえない親ならばなおさらだ。

「ノアベルトお父さま」

 母が愛した人、それだけで私は彼の事が好きだ。母を愛してくれた人、私の家族。

 生きているだけでとてもうれしい大切な人。あと何回触れ合えるだろう、いついなくなってしまうだろう。

 不安にはなるけれど、今ここに生きているそれが私を強くしてくれる。

「ありがとうございます!」

 パッと離れて、私は笑みを浮かべた。

 確かに私には女王という道もある。色々と面倒なプロセスが必要になるけれど、そのための後ろ盾も伝手も母が残してくれたし、自分でも作ってきた。

 こんな体をしているけれど、これでもそれなりの年数を生きているのだ。今更、母の敵の息子の面倒を見ているだけで心がやんだりしない。

「心配してくれてありがとうございます。でも、私は、無理なんてしていません。カイは嫌いですけど……嫌いなんですけど、嫌ではないんですよ」
「……」
「それに、私はただ、大切な友人に報いてやりたいんです。私の大切なフェリシアの為に、彼女が信じたカイを、立派にしてどうか胸を張ってほしいんです」

 私はずっと自分の為に動いていて、今だって望むままにカイを王にしたいだけだ。

「…………やはり、其方はコーデリアの子だな。彼女を思い出す。意志が強く行動に迷いのない人だった」
「はい、母は私の誇りです!」
「元気がいいな。そのうち、カイとも会えたらいいのだが……」
「では、体調が万全でなくてはいけませんね。フェリシアに予定を開けられるか確認をしてみます」
「ああ、助かる。其方も体調に気をつけて日々を過ごすのだぞ」
「はい!」

 言われて元気よく返した。

 カイは、エリカに制限されていて自分の父親に会ったことがない。きっと会うことが出来れば彼のやる気にもつながるだろうと思う。

 自分のルーツを知るというのは自分の理解にも役立つ。カイはもう少し、大人になるために母親から自立した自分がどういう人間なのかを知る必要がある。

 戻ってフェリシアとの予定を確認するために、私は父にお別れの挨拶をして部屋を出た。

 この日の為に、風邪をうつされないように三日間ほど誰とも接触せずに居たのでやることが満載だ。

 特にカイがうっぷんを溜めているだろうと考えて、すぐに彼の部屋へと向かった。



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