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しおりを挟むルーシャは幸運の女神の聖女だ。加護はまるで本人がとても幸運だったがために起こったかのように見える事態ばかりだったのだろう。
だから、彼らは勘違いをした。そして天罰は、不運として訪れる。運が悪かった、そういうしかないような出来事ばかりだったはずだ。
「本当に不運だった、そう思うしかできないようなことばかりだったのではないですか?」
「っ、……」
アンジェリカは言葉に詰まってルーシャをにらみつける。図星をつけたらしい。
それでも納得できないとばかりにアンジェリカはカッと目を見開いてルーシャに掴みかかった。
「それでもっ、あんな急にたくさんの事が起こるのがただの不運だなんてありえないわ!」
がくがくとルーシャの肩をゆすって勢いのまま口にする。
「魔法学校での成績が急に落ちたり! 馬車が何度も溝にはまって動けなくなったり! 慣れた王宮の中で階段で躓いて怪我をしたり! そんなっ、そんな不運が重なるなんてこと非現実的ですわ! ありえないのよ!」
……結構いろいろな方向から不運が降りかかるんですね。
彼女の形相は追い詰められた人間そのもので、それでも現実逃避をしようと必死に言葉を重ねる。
「貴方が何かをしているんでしょう! それ以外にはありえませんわ! ありえないのよ!現実的に考えてその可能性が一番高いわ! この性悪女!!」
怒鳴りつけられてキーンと耳鳴りがする。それにアンジェリカの長い爪が肩にぐっと食いこんでいて痛い。普通なら顔をしかめて冷静になろうとで言う所だったがルーシャももはや普通ではなかった。
彼女が、クリフがどんな風に天罰を受けているのかを具体的に教えてくれてその様子を想像するだけで笑みがこぼれてくる。
「っふ、あははははっ!!!」
叫ぶ彼女と同じぐらいの大きな声で笑った。こんなに爽快な事は二度とないだろう、そう思うぐらい気持ちがいい。
「あはっあはははっ!!天罰です!!ちゃんと叶ったんです!!私の願いは聞き届けられたんです!!!あはははははっ!!嬉しい!!!」
目を見開いてルーシャも彼女の胸ぐらをつかんでごつんと額をぶつけた。
人間、振り切ってしまえば案外なんでもできるものだとか冷静な自分が頭の端っこでそんな風に考えたが、やめるつもりはさらさらない。
「でもまだまだずっと足りません!! これからずっと苦しんでくれなきゃ釣り合わない!!」
顔を歪めて威圧するように大きな声を出す。今の自分はとても醜いと自覚している。
それでもそれを見られたくないと思う相手すらいないのだから、歯止めがきかなかった。
「これからが楽しみです! いつか私に謝罪に来てください! その時を楽しみに待っていますから!」
力いっぱい彼女を揺らしてそういって思い切り突き飛ばした。躊躇はない、自分の中の倫理観の箍が音を鳴らしていくつもはじけ飛ぶ。
最初の印象から全くかけ離れたルーシャの姿に、アンジェリカは言葉を失って黙り込んだ。ルーシャの言葉や行動を頭の中で処理して、しばらく呆けてから忌々げにやっと睨みつける。
何度も体をゆすったので、髪型が崩れてまるで乱暴をされた後のようになっている。
きっとルーシャも同じように乱れているのだろう。
「…………狂ってる。そんなことして何になるというのかしら」
絞り出したような声は低く、憎しみを孕んでいた。でも怖くなんてない、ルーシャのように天罰が下せるわけがないのだから。
「私が報われます。ただそれだけです」
「……貴方、不細工だわ」
「……」
「顔も性格も何もかも不細工だわ。だから嫌われたのですわ。醜悪な女」
…………。
どっちが。
奪っておいて、罵っておいて貶しておいて。真実を知らず、ルーシャの苦悩を怠惰だと言って。
復讐をして何が悪い、何もかもを奪われて、何も顧みることが出来ないルーシャを作ったのはそちら側だろう。
アンジェリカは踵を返して去っていく。
それをみてただ見送って、どこかに帰っていく彼女がうらやましかった。こんな場所でもルーシャの唯一の居場所だ。どこにも帰れない。
……帰れないんです、行く当てなんてないんです、やるべきこともないですし。
この出来事でどう自分の気持ちを変えればいいのか分からない。変えた方がいいのか変えるべきなのかわからない。
しかし、これで満足して復讐を終えたら、そのあとはどうなる、後ろ盾もない、生活の保障もない、家族もない生きる意味もない。そうなったらルーシャはどうなる。
……まだ……まだまだ、足りません。私が受けた悲しみも苦しみも、すべてを返せていません。復讐を続けなければ……。
これが気持ちを変える機会なのだと理解はできた。しかし、理性の部分ではなく感情の方に耳を傾けて、ルーシャは、アンジェリカにも酷い事が起きますようにと祈りをささげる。
何が正解で何が間違っているのか分からないままルーシャの復讐は進んでいった。
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