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しおりを挟むソファーの隣に無造作に落ちているボクの黄色い草臥れた鞄を見つけて、ジッパーを開ける。色々と道具が入っているが、ボクはその奥底に埋もれてしまったスマホを取り出す。
……充電、残ってるかな。
残ってなければいいななんて、半分思いながら、電源ボタンを押す。そうすると随分長い時間をかけて、スマホが起動する。ぱっと、ホーム画面に切り替わると、途端にバイブ音が鳴り響く。
「っつ!……う、うるさいな。もうっ。やめてくれよ」
今、着信があって鳴っているわけではない。この音は着信の通知音だ。電源を切っていた時の着信がすべて今、通知になって、スマホをうるさく鳴らしているのだ。
その通知に記載されている名前を見て、今すぐに電源を落としたくなるがとにかく、メモだけでも確認しなければ、描くものだって描けない。
それに、電話に出さえしなければ、あいつの声を聴くことも会うこともしなくていいのだ。このスマホに何が仕込んであるかは知らないが、ここならあいつだって入ってこられないだろう。
そう自分を落ち着かせて、メモにしているアプリをタップして、内容を確認する。それからすぐに電源を落として、スマホをソファーに放る。
「……、」
……ミノルのやつ。嫌がらせのつもりだろうな。
けど、やることさえやってれば良いだろ。そう、言われた。そのはずだ、ボクはもう戻らないし、絶対に、折れるつもりもない。
「っ、~……はぁ」
決意を新たにした所で落ち込んだ、気分は戻らない。それでも、そうして、気分に任せて落ち込んでいたって、大概はもっと考えすぎて落ち込んでいやな気持になるだけだ。
自分で切り替えなければ、時間が無駄になるだけ。
鞄の中の、小分けのジッパーをあけて、ヘアゴムを取り出す。伸ばしている襟足を手櫛で梳いてそれから、三つ編みにしていく。慣れているので鏡を見なくてもできるのだが、昔はいちいち面倒で、やめてしまおうかと、思ったことは数えきれないほどあった。がしかし今では、気分を切り替えるのにちょうどよくて、重宝している。
「……風景ならなんでもいいんだっけ」
先ほど、見ていたメモの内容を思い出して、モチーフを決める。といっても、すでに、最初から決めていたようなものなのだが、やはり目的というのも大事だ。
鞄を持ち上げて、ついでに玄関から靴を持ってきて、リビングの大きな掃き出し窓から、バルコニーへと出る。思った通りのいい景色で、都会の一等地で人目を気にせず描けるなんてなんて贅沢だろうと思う。
「風が、きもちいいな」
高所だからか、都会らしい色々なのもが混じった風ではなく、どこか地元を思わせるような澄んだ風が頬を撫でる。
早速スケッチブックを出して、パラパラとページをめくっていく。なんとなくデッサンしたものから、意味のない形もない模様まで色々な物が描かれている。
そのどれもが眺めているだけで、その時の情景、気持ち、匂いなんかが思い出せて懐かしい。まあ、このスケッチ、卸して間もないんだけど。
ここ一か月ぐらいが怒涛の日々だったせいもあるだろう。だから、ほんの二週間前でも懐かしい。
バルコニーの床に座り込んで柵の向こう側に広がる景色の中で、その中でも目を引くものを構造を想像しながら、描き進めていく。鉛筆がシャカシャカ音を立てて、紙の感触が指先から、伝わってくる。
ところどころ、細部にこだわってみたりしてけれど、精巧さだけを求めては描かない。美術の課題ではないのだ。誰もボクの描いたものの矛盾を責めたりしない。
思わず鼻歌を歌ってしまいそうな、心地だった。こうして集中できるもの何日ぶりだろう。自分の描く、世界が心地いい。
頭の中にある世界が可視化されていって、お気に入りが増えていく。
これなら、セージが返ってくるまで暇しないだろう。というか、何時間後かわからないが、むしろ、丸一日ぐらい帰ってこなくても問題ない。
と、この家の家主に失礼なことを考えたタイミングで、バタンッ!!と大きな音がして、途端には飛び上がった。
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