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しおりを挟む「っ!?……」
それから、乱暴なカダン、だか、ガコンだかという音が鳴って、ますます驚く、柵に体を張り付けて、部屋の中を伺うが、あいにくレースカーテンのせいで、部屋の中を見ることができない。
また、ガコッ、と音がして、部屋の中は静まり返る。
……ご、強盗……?
去ったのだろうかと思い、カラカラと網戸にしていた窓を開けて、カーテンを少しのけてみると、そこには足、というか、見覚えのある、ピカピカの革靴があった。
「……?」
上を見上げると、キョトンとした顔で、こちらを見下ろす、セージがいた。
……今日から、西洋文化でも取り入れるのか?
靴を履いたまま彼が、部屋の中から出てきた理由が、わからなくて、ありえないことを考えてしまう。
そんな、くだらないことを考えているボクとは裏腹に、セージは少し怒ってるみたいな、イラついているような短いため息をついた。それから力が抜けたみたいに膝をついて、ボクを抱きしめる。
「ユキっ!!……ああ!よかった!……てっきり、逃げたかと思った」
……逃げるって、そんな、動物じゃあるまいし。って、ああ、いや。そういえばボクは今、セージのペットなんだっけ?
彼にとって、人間をペットにするっていうのがどういうベクトルの何なのかは、いまだにわからないが、ネコとか、イヌのそれみたいに、いなくなったら心配したりするものらしい。
そういう、演技にしては熱が入ってるような気がするが日常的に設定にはこだわる方なんだろうか。
だとすると、わんと鳴けなんて言われたりしたらどうしようか。
「……おかえり、であってるか?」
一応疑問形で聞くと、セージは少し驚いて、それから、ニコッと柔らかい笑顔を見せて「ただいま」と笑う。
……よかった、わん、とか、にゃーって言わなくていいみたいだな。
さすがに日常的にそこまで求められたらどうしようかと思っていたので安心した。
「……。はあ、……本当に、よかった、ユキ。出られないってわかってても、君を一人にしておくのは不安だったから」
「ん?何でボク出られないんだ?ああ、セージから、鍵をもらってないからか?ここ、オートロックってやつだろ。だから、出たらボクだけじゃ入れなくなるもんな」
そういう意味で言えば、確かに出られないだろう。それにこんな高級そうなマンションなのだ。もしかしたら、鍵がないと出られないなんてこともあるかもしれない。
ボクの疑問にセージは、「あはは」と少し短く笑って返す。
「ところで、どうしてバルコニーに?」
彼はボクから離れて、そのまま、バルコニーに降りる。
正直、ボクの方が先に、なんで靴を履いたままなのか聞きたかったのだが、ボクが返答を返す前に、セージはボクの胸に抱えられたままのスケッチブックと鉛筆を見つける。それについて何も言わないものの、気になりはするようでまじまじと見つめる。
「……趣味、だから。スケッチ」
答えつつ、スケッチブックを畳んで筆箱を片付ける。中を見られるのは好きじゃない。それに、またやってしまった。
……なんで、こうボクは、咄嗟に嘘を言ってしまうのだろう。
いやでも、間違ってなんかいないんだ、こんなもの、趣味であって、それ以上でもなんでもない。それに趣味以上にしようとするなんて、あってはならない事だと、まっとうな職に就いているセージは言うだろう。今この時にわざわざ、全てを話さなくたっていい。
……またこんど、聞かれたらきちんと話をすればそれでいいよな。
「そっか、いい趣味だね。俺は趣味といえるものがないから、少しうらやましいよ」
「……そう、なのか。……あ、なあ、セージ」
言いながら、彼は胸ポケットから、ライターを取り出す。ふと見れば、彼はすでに片手に煙草を持っていて、どうやらバルコニーに来たのは煙草を吸うためだったらしい。
「一本、くれない?」
自分のお金がないからと言って他人に物をねだるなんて卑しいとわかっていつつも、つい言ってしまう。そうすると彼は、なんてことがないように「いいよ」と言って一本よこしてついでに火までつけてくれる。
「悪い、ありがと」
「うん、ユキはタバコ吸うんだ?」
彼は柵に肘をついて、タバコに火をつける。ボクもセージの隣に移動して、ゆっくり煙を吸い込んだ。
「まあ、たまに。……っ、はは。ボクのより、タールがきついや、これ」
「う、ごめんね。俺もこれ少しきついんだけど、禁煙にはタール数増やすのがいいって聞いて」
「禁煙?すんの、じゃあボクここで吸えなくなる?」
「……成功したら、ね。今のところ、五回ぐらいは挑戦してるよ」
「ははっ、五回か!じゃあ、気長にかまえとくな」
「そうして」
彼はぎこちなく笑いながらそう言って、煙を吐く。ボクは久しぶりのタバコを深く味わいながら吸い込んで、糸みたいに細く煙を吐き出す。
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