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しおりを挟む……喜ぶだろうか。
そんなことを考えながら、買ったばかりのセージへのプレゼントの入った小さな紙袋を見つめる。有名な時計のブランドのロゴが入ったそれは、袋だけでもとても高級に見えて、それが自分の手にあるのに違和感があるのだ。
こんな高級品、持ったこともなければ、買ったこともなかったので当然ではあるが、これをセージに渡すとなるとこれまた緊張する。
部屋に入れば、彼はまたリビングで待っているだろう。これはうまく隠して、どうにか自分の部屋に戻れればいいが、ボクが画材以外を買っているのを見てどうしたのと聞いてくる可能性もある。そうなったら、もうその場で告白して渡してしまってもいいと思っている。
覚悟は出来ているはずなのに、緊張から玄関の扉を開けられずにいた。
……お、おかしなことしてないよな?ボク、大丈夫だよな?
扉の前で突っ立っていると、なんだか些細な事が気になってきて、気持ちが焦る。バーでは自信満々に、振られるなんてありえないとばかりの事を言ったくせに今更、心配になってきてしまう。
出会ってから一か月半。一緒に暮らして、セックスして、酒飲んで、一緒に眠った、どこぞのカップルなんかよりずっとボクらは仲が良かったと思う。けれどもお互いに一度だって、好きも、愛してるも言わなかった。
ボクらは、その感情だけは求めず、言わず、存在すらしないように無視してきた。
バーで話をした時は、セージがきっと今のままでは不安だろうなんて言ったけれど、言ってしまえばそれはボクだって同じだった。
……ボクだって、それが欲しい。ただでさえ、とても優しくて、大切にしてくれてこんなボクでも、何も言わずにそばにおいてくれる。それが、どうにもならないぐらいには嬉しくて……だから、ボクの思いを伝えるから、彼からの、愛情だってほしいのだ。
それで間違ってない筋は通ってる。……はず。
息を大きく吸って吐く、心臓の音は大きくなっていて、もう一度、小さな紙袋を見る。サイズやセージの好みなんかは、リクが助言をしてくれた。大きな買い物になったので、保証がどうのとかショップ会員の制度がどうという話が非常に長く辟易したけれど、それらもきちっと説明を聞いて、何とか購入してきた逸品だ。
ボクとしても、とてもかっこいいデザインだと思うし、セージも気に入ってくれると思う。
……大丈夫。がんばろう、ボク。
紙袋の取っ手をきゅっと握りしめて、片手で玄関扉を開く。
すると、玄関をすぐの上がったところに、セージの姿があった。見慣れているスーツ姿ではなく、シンプルなシャツの私服姿で腕を組み、みていたスマホからぱっとこちらに視線を向けた。
「……」
「……」
思わぬ場所で出迎えられて、ボクは固まりセージは、真顔でこちらを見る。
……あ、なんか怒ってる。
ふと、佇まいからそう感じてしまい、咄嗟に紙袋を後ろに隠してパタンと扉を閉めた。中には入っていない。マンションの廊下、また振り出しに戻ってしまったわけだが、先程よりはるかに状況がわるい。
「……??」
……ボクなんかしたか?洗い物わすれた?それとも画材を散らかしっぱなしだった??
必死に頭を回して考えるのだが、それらしいことが思い浮かばない。というか、そもそも、今考えた事ですらセージが怒ったことなんて一度だってない。それに、ボクに彼が怒ったのなんて一回きりだ。
……どうしよう。全く心当たりがないぞ。でも確実に怒ってた。
心臓の音がバクバク鳴り響いて主張する。
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