アフターアーダン 闇堕ち英雄の後日譚

かみやなおあき

文字の大きさ
60 / 64

回想 ディータVSアーダン(第二次聖戦完)

しおりを挟む
 ただしこれには前例はない。

 出来るかもしれないという可能性があるという伝説の呪文だ。

 そもそもあれは龍ではない。もしも龍の契約を結んでいたらあれは勇者となってしまう。

 だったら勇者の仕事をしろってんだ! 特定の個人の命を狙うこちらとしては人の妻を殺しにかかるだけの勇者ってなんだ? 
 
 いてたまるものか。

 だからそうではないのだが、しかしあれの力は勇者に匹敵するほどだから困ったものだ。まぁそこは魔王との契約があまりにもうまくいったと解釈するしかないのだろう。 

 もしくはあいつの邪悪さ故の力。

 龍の勇者にも匹敵する奇跡の力を有するのだからそれを封じる方法はこれしかない。

 だがこれは危険だ。理論は分かるしそれを可能にする力は僕にはあるし道具も用意できるが、実験は出来ずぶっつけ本番となる。

 効くかどうかも確信もなく命を賭ける、想像するだけでそのあまりにも困難かつことは分かると同時に我ながら理解に苦しんだ。

 どうしてそこまでしてしなければならないのか?

 どうして僕は……すると想像の中で彼女の顔が現れた。かつて僕がアーダンについて詰った際に似た表情がそこにある。

 いまでも彼女はあの顔をするのだろうか? もう何年も経って、もうこんなに長い時が経った。

 それなら、お願いします……と言ってくれれば。僕は首を振り魔術書を読み返す。

 オヴェリアは、そういう女ではないとそれは僕は分かっている。そしてこのことを相談したら喜ばずにやめてということも、分かっている。

 こうなったら自分の感情を優先しないことをよく分かっている。そう、分かっているからこそ僕は君の言葉に逆らい、僕自身の意思を、感情を、わがままを貫くこととする。

 君ではなく僕の意思で以ってことを行う。


 こうして決戦が始まった。

 あの男は今日も禍禍しく形となって現れし人災がそこに、邪悪な神がそこにいた。

 闇堕ちをした英雄といって良いかもしれない。軍での今後の歴史的な方針の中にこれのことも含まれていた。

 アーダン・ヤヲは先の聖戦にて英雄として戦い戦死をしたこととする。友であるオヴェリア・シャナンを庇っての死という美談として。

 なんという皮肉な話だ。

 二人の関係はこれほどまでにあべこべの逆であるというのに。この提案に僕は驚いたが反対はしなかった。

 君がそういうことにしたいのなら、そんな夢を見たいのなら僕から言うことなどはない。

 この魔戦士アーダンを歴史に残せないのならそうせざるをえないだろう。何らかの役目を与えなければならない。

 まさか愛したものと恋敵を殺し闇堕ちし、友をも殺そうとしたものとして残すわけにもいくまい。

 そうであるから妻の肚は決まったのだ。

 自身で闇堕ちをした友を救うという物語の放棄を、再び元に戻るという夢を叶えることをやめたことを意味している。

 一人で決めて一人でそれを受け止めようとしている。

 受け止め背負うものとは? それはあの男の死、そして抱くは罪悪感。

 ……だが罪とはなんだ、罪とは?

 オヴェリアは十年もの間にわたりお前を救おうと身体を張り命を賭してきたのに、結局お前はそれに報いずに彼女に死だけを与え、それからその先は罪として憑りつこうとするのか?

 お前に何の権利があってそんなことをするのだ?

 愛されているからそうしていいとでも?

 まぁそうだろうな、お前はそう思っていると考えても差し支えないはあるまい。

 己の罪を全うするために彼女を殺そうとして、そうでないのなら彼女の手で引導を渡して貰い救われようとしている。

 恐ろしいほどに甘ったれた依存心の塊そのものな思考と行動。

 まことにお前らしい

 そうでないかもしれないが、僕の目から見たお前はそういう存在だ。

 このことを彼女が知ったらどうなる?

 呆れるか反発をするか? しない。そんなことは絶対にしない。オヴェリアはその罪を背負い後半生を生きていく。

 新たな悔いと罪というものを背負い、アーダンの呪いを受けて生きる。

 あたかもそれを望んでいるような次の段階となるが、そんな生を僕は望まない。

 たとえ君がそれを望み受け入れても、僕はそうさせない。

 何故ならそれは君の人生ではあるが、君は僕の人生の一部でもあるのだ。

 そのような姿の君にはさせない。僕の望みはただひとつ、愛する君をそうはさせない。

 そのような姿にさせるつもりは絶対にない。僕はもうこの問題については第三者ではない、もう当事者の一人だ。ずっと前から、あいつと出会った頃からだ。


「ディータ? なにをディータ!」

 戦闘中の妻に僕は拘束系の術を使い動きを止めた。両者互角の戦いが続く中で、魔戦士アーダンは手負い状態で動きが鈍く現在は間合いを大きく取っている。

 このタイミングなら効果があるかもしれない。既に準備の結界は張り巡らせており、あの禁呪を発動させられるかもしれない。

「これより魔戦士アーダンを封印する!」

 僕はオヴェリアに宣言をし用意していた術式に取り掛かる。

 機会は一度だけ、失敗したら攻撃をした僕の身は危険であるが、それがどうした? それよりも大切なものがある

「やめてディータ! もういいのです! 私はこのままあの人をこの私の手で……完成させるのです」

 彼女の言葉が僕の中で爆発する。決着ではなく完成?

 あの日あの時あの場所で生まれたそのままの炎がこの時も変わらず心中に渦巻く。

 その言葉には彼女の奴への純粋な愛しかない。僕の炎を生みだしたその真心がそこに、ある。

 そうだこれは君の奴への愛によって僕の中で生まれたもの。その火種は消滅せずに僕の中にいつまでもあった。

 消えないということは僕はずっと負け続けてきた証であるのかもしれない。

 僕はあの男との勝負にずっと負け続けてきた。それどころか戦いにもなってはいない。奴は僕を敵だと認定していないのだ。

 そして僕はこの戦いに勝てるかどうかは分からない。それでも僕は初めて勝負を挑む。最初で最後の戦い、そうでなければならない。

「黙れオヴェリア! 君に殺させはしない!」

 自ら殺めることでその愛を完成させはしない。そうさせないことが僕の勝利であり、僕とあの男との因縁の決着とも言える。

 因縁? と僕はその時はじめて気が付いた。

 僕は無意識にまたは意図的に考えなくしていたが、僕もまたあの男にずっと支配されていた。

 あの男の陰にずっと悩まされていた。だからこれはもともと僕とあの男の戦いでもあったのだ。

 妻とあの男のは愛ゆえのものであるが、僕とあの男のは憎しみと怒りによるもの。

 だから本当に戦わなければならなかったのは、命を賭けなければならなかったのは、その方法が見つかったのなら、対峙するのはこの僕でしかない。

「勝負だアーダン!」

 僕はやつの名をはじめて呼び四本の指を立て術式を展開させる。

 龍の封印は四段階あり、薬指を曲げる一段階から小指を曲げる二段階へとすぐさま移行させた。

 すると効果が現れだしたのか、あのあらゆる拘束呪文をはねのけてきた魔戦士アーダンの動きが鈍くなり、止った。

 伝説では神をも龍をも封印できる禁呪、これでようやく効果があるというのならアーダンよ。

 お前はいったいになんであるのか?

 魔王との契約で闇堕ちした分際で、龍の血を引く勇者に匹敵するとでもいうのか?

 そこから人差し指の曲げる三段階に移行すると僕の全身は痛みで軋みだした。

 痛みで震え血管は破裂しだし口からは血の味がした。禁呪の反動か? もう限界か? 封印を完成させる最後の指が抵抗が掛かったかのように曲がらない。

「もうやめてください! あなたが死んだら、あなたまで死んだら私は」

 彼女の嘆きを耳に入り振り返ると泣き顔のオヴェリアの顔に一本の縦線が入っている。幻視だ。彼女はあの死の入れ墨を入れていないし、アーダンが死んでも入れはしないが、僕には嫉妬から見えるだけだ。

 僕だけに見える愛の証、そんなものを。

「見てたまるものか!」

 僕は曲がらぬ最後の中指を左手で掴む。曲がれ曲がれ、曲がらないというのなら、こうするまで。

「曲げる!」

 僕は吠えながら中指を左手でもって折り曲げ、いやへし折った。

 瞬間的な激痛はすぐさま快感に上周り僕は意識が遠のきながら叫ぶと眼前が真っ赤に変わりゆく光景の中で最終の第四段階へと術式が展開されていく。

 すると魔戦士アーダンが全身から金色の光を放ち、僕の方へと目を向けこちらに飛び出してきた。

 剣を僕に向けての突撃、僕を敵だと意識した、ついにしたのだな!

 近づいてくる剣の切っ先を見つめながら僕は奴の顔を見た。

 憎悪で歪み光る眼でこちらを見つめているのを見て僕は笑った。

 歓喜で全身からかつてないほどの力が漲って来る。僕はお前のその顔を見たかった、その目を見たかった、その心が欲しかった。

 お前にその目で見られたかった。そうだ、だから、僕の勝ちだ。

「禁ッ!」

 奴に突き出した掌の親指を閉じ術式の完成を宣言すると魔戦士アーダンの全身はクリスタルによって包まれ封印されだすも、最後に投げ出された剣が僕へと向かってくる。

 それは狙い過たずに僕の胸へと突き刺さるだろう。

 だが勝利した僕のこれが運命であるのなら……もはや、と観念すると身体が宙を浮き衝撃が背中に来た。

「あなた! 大丈夫ですか!?」

 オヴェリアの声がし彼女の涙に濡れた表情を見た。どうやら拘束の術が切れて動いて僕の救出に来てくれたらしい。そしてその顔には縦線が走ってはいなかった。

 その背後にあるあの男の姿が目に入る。クリスタルの中に封印された魔戦士がそこに、禁呪の完了がそこに。

 アーダン、お前はそうあり続けろ。

 目覚めないのなら死なずに生き続けるのだ、それがオヴェリアへのせめてもの償いだと僕は満足しながら気を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます

ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」 医療体制への疑問を口にしたことで、 公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、 医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から 一方的に婚約を破棄される。 ――素人の戯言。 ――体制批判は不敬。 そう断じられ、 “医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、 それでも引かなかった。 ならば私は、正しい医療を制度として作る。 一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。 彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。 画一的な万能薬が当然とされる現場で、 彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、 最適な調剤を次々と生み出していく。 「決められた万能薬を使わず、  問題が起きたら、どうするつもりだ?」 そう問われても、彼女は即答する。 「私、失敗しませんから」 (……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞) 結果は明らかだった。 患者は回復し、評判は広がる。 だが―― 制度は、個人の“正 制度を変えようとする令嬢。 現場で結果を出し続ける薬師。 医師、薬局、医会、王宮。 それぞれの立場と正義が衝突する中、 医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。 これは、 転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。 正しさとは何か。 責任は誰が負うべきか。 最後に裁かれるのは―― 人か、制度か。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

処理中です...