わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~

かみやなおあき

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分からせと忍者 (シノブ25)

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 あくる日シノブは久々に快適な朝を迎え朝日のなか背を伸ばした。

 思えばこんなに熟睡したのはあの馬車以来だったなと。最もあの時は失神による意識喪失状態であり、しかも精神面では絶望状態であったので、快適とは程遠いものであったので比較してはならない。あの時の私は仮死状態であったのだ。

 あれから辛いことやピンチはいくつもあったがすべて乗り越えている。悪党の襲撃をかわし続けこの次の町へと辿り着いた。襲いながらもこのままのペースで行けば結婚式前に城へと到着し陰謀を阻止し自分は王妃候補に返り咲ける。

 そう、私は諦めない。また決意を新たにしシノブは支度を整えて隣の部屋へと向かう。さーて荷物係りはどうしたかな? 昨日は早めに諦めて眠ってくれたか? 自分が特別だと思い込んだ普通の人は数多くいたけど、大半の人はそれに折り合いをつけるのだから、あなただってもう諦めてね。人間あきらめが肝心だ。諦めてからが人生本番。そうやってみんな大人の扉を開くんだよ、と思いながら扉をノックすると反応がない。

 いない? いや鍵がかかっていない? どこか出かけたのか? そう思いつつ扉を開けると、いた。こちらに気付かずに昨日と同じように石を握っているアカイの姿がそこに、いたのだ。

 思わず悲鳴を上げそうになるほどの異様な雰囲気のなかで、シノブは急ぎ足で近づき、観察する。生きて、いるの? 死んじゃったら誰が荷物を持つのよ? お願い生きてて! 注視すると呼吸をしている。生きているのか、なんだつまんない、惜しかったかも。

「アカイ?」
 名を呼ぶと彼の目がシノブの方を向き、それから握られた手が差し出された。

「変化、あった」
 まさかそんな、とシノブがその掌の石を見るとそこには昨晩と何の変りもない石がそこにあった。

「いいえ、ないけど?」
 シノブが告げるとアカイの身体が崩れ床へと倒れた。シノブは悲鳴を上げずにこれを呑み込みなんとか彼を床の上で仰向けにさせ上から布団を掛けた。なんて人なの、とシノブは呆れた。寝ずに石を握り続けていたようね……これは確かに普通じゃない。
 
 だが才能はない。



 シノブとアカイの現在地は目的地とはちょうど真ん中あたりに位置する街である。ここより先は人口密集率が上がりだし、これまでの街とは多少違ってくる。人の出入りが激しいことによってこれまでと違い、ここでは容易には人探しはできず悪党は苦戦を強いられるだろう。ならばそこを見越してシノブは変装をし街へと姿を現し買い物を始めた。

「一日、足止めになるけど決して無駄にはしない」
 アカイの寝落ちによって今日は行動を一時中断となった。シノブは大いに落胆したものの、すぐに気を取り直してアカイの服からがま口を抜き取り外へと出た。彼は意外にもお金持ちなんだよね、と厚みがあるがま口の頼もしい重みにシノブは唸る。

 まるでお忍び中の王子に持たされるお財布みたい、とシノブは苦笑いする。あの時は悪党に大嘘は吐いたけどもしかしたら本物の王子の親戚だったりして。そうだとしたらこれまでの行動の多くはちょっと説明がつくのかもしれない。あの過剰な自信は自分が王族であるということによるのかも、と。

 だがしかしすぐにその考えは却下された。それは無いな。王族には間違いなく魔力が備わっている。世界を支配するほどの力が。そうであるからこそ彼らは地上の支配者としてこの国を護っているのだから。あるとしたら彼は王族の血は引くが魔力がないために辺境地方に飛ばされていたとしたら。それはあるかもしれないが、さすがに想像力がそれ以上には働かない。たとえあれが王族に関係しようが王子の足元にも及ばないのは間違いないのだから考えるだけ無駄。というかあまりアカイについて考えたくはない。アカイに心が侵略されてしまう。だから美しいものを想い心を慰める必要がある。いない時であっても王子は偉大だとシノブはつくづくと感じ入った。

 そんなことを思いながら買い物を、とシノブは薬草屋や道具屋へと入っていった。身体能力はいまだに戻らないが、頭の中は劣化していないのが不幸中の幸いであるとシノブは常々思った。こんな身体がよわよわになった上におつむもふにゃふにゃになったら本当におしまいだなと更に気を引き締める。襲い掛かってくる敵が内にも外にもいるのだから。常に警戒を怠らず迎撃の準備をしておかねば。

 傷薬や眠り薬……それ以外にも爆薬やら毒薬やらなにやらを調合によって作るための元の材料も買ったりと、気付けば中々の買い物となった。おかげで買い物袋が重い。いや重くはないのだ。所詮は干し草と粉に小道具。だがこの身となってしまっては、重い。

 こういう時にあの男がいてくれたらといつの間にか自分がアカイを頼っていることにシノブは気づき愕然とする。無意識に奴が侵入してきている! あんまり頼ってはならないとシノブは自らに告げた。その依存心がそのうち身体と心を奪われてしまうのだと。

 あれが、そこまで頼りにならない男であることにシノブは改めてホッとした。もしも通常の男で強い男であったら手籠めにされてしまう可能性がすこぶる高い、恐ろしい! それよりもそんな頼りがいのある男であったらこちらの心も動いてしまうかもしれない。

 なんということだ。この私がそんな普通の弱い女みたいなメンタリティになる恐れがあるだなんて……実際にそうなのだよ。今の私は、弱い! そんじょそこらにいる運動音痴なガリでちびな女よりも圧倒的に、弱い。子供にだって勝てるかどうか分からない。

 この弱さが社会への恐れとなり頼るものを探し、そこで知り合った男に信頼しその心が愛情へと変化し支配されてしまう。そこなのよ、そこ。弱いから不安で強い何かに依存し愛されたくなってしまう。支配されることを愛と錯覚する。冗談ではない、自分はそんなところからずっと距離を置き続けて来ていた。王子以外の男は歯牙にもかけずにきたのに、ここにきてアカイなんかに身も心も奪われてたまるものか。

 そうあの男は幸いといっていいのか女には弱そうだ。ここをなんとか突いて利用して、とちょっと酷いようにも思えるが、考えてみると彼は私といると幸せそうな顔を見せて来るので、もう少し図々しいことをしても大丈夫そうとも思えてしまう。所詮あれもただの男。若くて綺麗な女には弱いし私に対して好意を抱いているのなら頼られて嬉しいはず。

 問題は自分の心。頼り過ぎて依存しそれを愛だと錯覚してはならない。クレバーに打算的に利用しきられねばならない。より残酷により過酷に取り扱い分からせなければならない、所詮は荷物夫なのよあなたは。身分を弁えよ!

 王子のため心を強くあらねば、とシノブは力を入れて買い物袋を持ち上げた。こんなのは軽い軽い! 息を切らしながら歩いていると馬車の停留場があり、シノブの足が止まった。馬車かぁ……お金はあるしこれで行けたら楽だな。いや駄目だ、とシノブはすぐに諦める。ここから先の国道は検問が掛けられている。

 あの大臣一族の化け物たちはそこに手を入れているに決まっている。途中までならいいがずっと馬車という選択肢は取れない。それに馬車を使う業者も手配書には目を通す。怪しい奴を乗せたら同罪になるからだ。やはり歩くしかない。山道を選んだりしてまだまだ先はあるが。

 考えているとシノブはその隣に冒険者ギルドといったものがあることに気付き身を隠した。悪党どもの拠点。ゴロツキの巣窟。あそこに自分の手配書が張られている可能性がある。ここにあるのか、なら遠ざかって以後近寄らないことにして……そう思いつつ道を歩くと不意に馬車屋から人が出て来て近づいてきて声が掛かった。

 あの感じからしてまずい! 私を探しているものだ、シノブは焦るも無視して歩くと今度は走ってきた。やるしかない、とシノブは構えると男は言った。

「おっ! たぶんあんただな。探していたんだぜ」
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