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お説教と忍者 (シノブ26)
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探していた! シノブは腿に掛けてあるクナイに指先を触れさせた。投げるのはからっきし駄目だが接近戦に持ち込んで懐で刺すことならできる……こうなったら。
「旦那さんが捜していたぜ。あんたシノブって言うんだろ?」
えっ? 旦那? 意表を突かれ戸惑いで身体が硬直すると男は声をあげた。
「おおい旦那! 嫁さんがいたぜ! あんたの美人な嫁さんがここにいるぜ!」
まっまさかこれはもしかして! あの男による捜索!? 夫を騙るストーカーによる恐怖事件の一幕! シノブが固まっていると奥から見知った男が走って来てはしゃぎまわっている。あたかも飼い主を見つけた犬のような感じで。
「ここにいたのか! ああよかった。疲れて馬車に乗るかもと思ってきたが、よかったよかった」
今朝の憔悴感はどこへやらという表情で近づいてくるもシノブは一歩後退りする。なにか、こわい、じゃなくて、あきらかに、こわい。必死な男はやはり怖い。女の本能は何故かそこに危険を感じるように設定されがち。
「荷物を持つよ。重かっただろ」
有り難い申し出であるのにちょっとした抵抗を感じたのは何だろう? とシノブは思い手に力が入るもすぐに渡した。ここで抵抗とかしたら面倒なことになるし妙な自意識も生まれてしまう。荷物持ちには荷物持ちをさせる、そこに他の意識なんぞ生まれようはずがない。これは正しいことであり自然なことであり、変に意識をしないに限るのだ。
「こんなに買ったのかあ。他に買い物とかはないの?」
口調がどこか砕けている。さては外では夫婦のふりをするためという名目で以ってこれを行っているのかもしれない。冗談ではない。演技だとしても、お断り。同行者関係か上司部下かお嬢と下男もしくは姪叔父以外では考えたくもない。
「ないです。帰ります」
単刀直入きっぱりと告げると横に馬車が着いた。もしかしてこれって。
「では奥様どうぞ、旦那様はその次でお願いします」
奥様と呼ばれたら反応して乗らなくてはならないがそれはこの設定を認めるということであり、そこにはやはり抵抗感があると思うもののシノブは歯を食いしばり馬車へと上った。歯がすり減ったらどうしてくれるんだ! だが私は忍者である。これぐらいの演技など容易である。というか足も痛いしね。続けてアカイも乗り馬車は動き始めた。行先は宿屋。距離は少しばかりある。
「無駄、ですよね。歩いて行けばよかったのに」
狭い車内で肩越しなためにシノブは文句を言った。金以外にもこの身体的近距離に抵抗感がある。私に肩身の狭い思いをさせて……このことは覚えておくからな。必ずや後悔させてやる。あなたはきっと俺はそんなつもりはとかいうけど、そんなの通じませんよだって私がそう感じたんだからそうなの! 私とあなたの感じ方は違うんだからそっちの感じ方を押し付けるんじゃない!
「でもシノブは歩くのが大変だしそれに俺達はあまり人目につかない方が良いと思って」
その通りである、とシノブは唇を噛んだ。町の中であれば馬車は最適な手段であり近距離でも積極的に利用した方が良いに決まっている。目撃者は業者のみだが歩けば目撃者は複数人でありその差は圧倒的だ。シノブは自分の筋の悪い考えに腹が立つ。しかもこれは自分の生理的嫌悪感といった本能が理性に勝ってしまったということ。ただ相手が嫌いだからという理由から言い負かしたいという下らない考えから言ったこと。そういうつまらない感情を先ず抹殺することが修行であり訓練であったのに……もっともシノブはその訓練だけは苦手ではあったが。感情を優先させるとか馬鹿でろくに教育を受けていない子供みたいなことをしてしまってとシノブは自分の愚かさにイラついた。そしてそれに気づかせたのが他ならぬ愚かなアカイであることにも怒りを募らせる。
「……そういう見方もできますね」
だがやはり悔し紛れの言葉が口から漏れるもアカイはそれ以上何も返さない。隣にシノブがいるということだけで頭いっぱいなのであろう。
「ところで、体調は大丈夫なのですか? 昨晩は寝ていないようでしたが」
引きずるのが嫌なので話を変えたところアカイが鼻で笑った。こいつわたしのことを馬鹿にしているのかな、とシノブは目尻の筋肉が痙攣した。その一挙手一投足が癇に障る。
「恥ずかしいところを見られたね。ごめん心配を掛けて」
別に心配はしていないし照れなくていいし、なにより荷物を持つ人がいなくなるとこの先は苦労が増えるからですと心中で素早く返事をした後にシノブは言った。
「まだこの先は長いのですから休める時に十分に休まないと。無理は禁物です」
「いやあ昨晩は徹夜で石に念を送り続けて一睡もしていないんだ」
だからなに? そういう無駄なことをするなと言ったんだけど? どうして誇らしげに言うの? もしかして寝ていない自慢? それで結果が出ていないのだから無駄の極みでは? そんな無駄な二重の極みはやめて。その二重の極みじゃ小石も砕けないんでしょ?
ひょっとして結果は出なかったけど徹夜したという努力は認めてくれという複雑なメッセージ? そういうの私はまったく聞きたくないし自分の才能に見切りをつけて本来の仕事のためにちゃんと休んで体調を整えてくれた方がどれだけ評価が上がったか。こちらはそういう小さなところもちゃんと見ていますからね。そこが大事なの。私のことが好きで私の役に立ちたいとか思うのなら、そういった自分の私欲を捨てるのが大切なことであって、そうしたくないということは所詮あなたは自分のことを優先的に考えているということではありませんか? 私のためとかいう名目をつけての自分勝手な行動をした後に君のためを思っての行動だから誉めてとか、結局は私への愛よりも自己愛が勝っているのが丸見えです。少しはこちらの感情を考えてみてはいかがでしょうか? あとついでにこの際だから言っておきますが……シノブは頭の中で沢山の言葉と説教を発した後に言った。
「御苦労さまでしたね」
「旦那さんが捜していたぜ。あんたシノブって言うんだろ?」
えっ? 旦那? 意表を突かれ戸惑いで身体が硬直すると男は声をあげた。
「おおい旦那! 嫁さんがいたぜ! あんたの美人な嫁さんがここにいるぜ!」
まっまさかこれはもしかして! あの男による捜索!? 夫を騙るストーカーによる恐怖事件の一幕! シノブが固まっていると奥から見知った男が走って来てはしゃぎまわっている。あたかも飼い主を見つけた犬のような感じで。
「ここにいたのか! ああよかった。疲れて馬車に乗るかもと思ってきたが、よかったよかった」
今朝の憔悴感はどこへやらという表情で近づいてくるもシノブは一歩後退りする。なにか、こわい、じゃなくて、あきらかに、こわい。必死な男はやはり怖い。女の本能は何故かそこに危険を感じるように設定されがち。
「荷物を持つよ。重かっただろ」
有り難い申し出であるのにちょっとした抵抗を感じたのは何だろう? とシノブは思い手に力が入るもすぐに渡した。ここで抵抗とかしたら面倒なことになるし妙な自意識も生まれてしまう。荷物持ちには荷物持ちをさせる、そこに他の意識なんぞ生まれようはずがない。これは正しいことであり自然なことであり、変に意識をしないに限るのだ。
「こんなに買ったのかあ。他に買い物とかはないの?」
口調がどこか砕けている。さては外では夫婦のふりをするためという名目で以ってこれを行っているのかもしれない。冗談ではない。演技だとしても、お断り。同行者関係か上司部下かお嬢と下男もしくは姪叔父以外では考えたくもない。
「ないです。帰ります」
単刀直入きっぱりと告げると横に馬車が着いた。もしかしてこれって。
「では奥様どうぞ、旦那様はその次でお願いします」
奥様と呼ばれたら反応して乗らなくてはならないがそれはこの設定を認めるということであり、そこにはやはり抵抗感があると思うもののシノブは歯を食いしばり馬車へと上った。歯がすり減ったらどうしてくれるんだ! だが私は忍者である。これぐらいの演技など容易である。というか足も痛いしね。続けてアカイも乗り馬車は動き始めた。行先は宿屋。距離は少しばかりある。
「無駄、ですよね。歩いて行けばよかったのに」
狭い車内で肩越しなためにシノブは文句を言った。金以外にもこの身体的近距離に抵抗感がある。私に肩身の狭い思いをさせて……このことは覚えておくからな。必ずや後悔させてやる。あなたはきっと俺はそんなつもりはとかいうけど、そんなの通じませんよだって私がそう感じたんだからそうなの! 私とあなたの感じ方は違うんだからそっちの感じ方を押し付けるんじゃない!
「でもシノブは歩くのが大変だしそれに俺達はあまり人目につかない方が良いと思って」
その通りである、とシノブは唇を噛んだ。町の中であれば馬車は最適な手段であり近距離でも積極的に利用した方が良いに決まっている。目撃者は業者のみだが歩けば目撃者は複数人でありその差は圧倒的だ。シノブは自分の筋の悪い考えに腹が立つ。しかもこれは自分の生理的嫌悪感といった本能が理性に勝ってしまったということ。ただ相手が嫌いだからという理由から言い負かしたいという下らない考えから言ったこと。そういうつまらない感情を先ず抹殺することが修行であり訓練であったのに……もっともシノブはその訓練だけは苦手ではあったが。感情を優先させるとか馬鹿でろくに教育を受けていない子供みたいなことをしてしまってとシノブは自分の愚かさにイラついた。そしてそれに気づかせたのが他ならぬ愚かなアカイであることにも怒りを募らせる。
「……そういう見方もできますね」
だがやはり悔し紛れの言葉が口から漏れるもアカイはそれ以上何も返さない。隣にシノブがいるということだけで頭いっぱいなのであろう。
「ところで、体調は大丈夫なのですか? 昨晩は寝ていないようでしたが」
引きずるのが嫌なので話を変えたところアカイが鼻で笑った。こいつわたしのことを馬鹿にしているのかな、とシノブは目尻の筋肉が痙攣した。その一挙手一投足が癇に障る。
「恥ずかしいところを見られたね。ごめん心配を掛けて」
別に心配はしていないし照れなくていいし、なにより荷物を持つ人がいなくなるとこの先は苦労が増えるからですと心中で素早く返事をした後にシノブは言った。
「まだこの先は長いのですから休める時に十分に休まないと。無理は禁物です」
「いやあ昨晩は徹夜で石に念を送り続けて一睡もしていないんだ」
だからなに? そういう無駄なことをするなと言ったんだけど? どうして誇らしげに言うの? もしかして寝ていない自慢? それで結果が出ていないのだから無駄の極みでは? そんな無駄な二重の極みはやめて。その二重の極みじゃ小石も砕けないんでしょ?
ひょっとして結果は出なかったけど徹夜したという努力は認めてくれという複雑なメッセージ? そういうの私はまったく聞きたくないし自分の才能に見切りをつけて本来の仕事のためにちゃんと休んで体調を整えてくれた方がどれだけ評価が上がったか。こちらはそういう小さなところもちゃんと見ていますからね。そこが大事なの。私のことが好きで私の役に立ちたいとか思うのなら、そういった自分の私欲を捨てるのが大切なことであって、そうしたくないということは所詮あなたは自分のことを優先的に考えているということではありませんか? 私のためとかいう名目をつけての自分勝手な行動をした後に君のためを思っての行動だから誉めてとか、結局は私への愛よりも自己愛が勝っているのが丸見えです。少しはこちらの感情を考えてみてはいかがでしょうか? あとついでにこの際だから言っておきますが……シノブは頭の中で沢山の言葉と説教を発した後に言った。
「御苦労さまでしたね」
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