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カオリの罠 (シノブ46)
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シノブが部屋に戻るとカオリが袋からお菓子を取り出した。
「よかったらこれを一緒に食べましょ」
「あっありがとうございます。嬉しいです」
嬉しそうなカオルを見ながらシノブはつくづくと思う。この人と旅ができたらどれだけ苦労が減るのかと。アカイに対する妙な警戒心から解き放たれる。それだけでも旅の苦労が三割減されると推測されるがしかしとシノブは首を振った。それが駄目なんだよ。
このままだとアカイはこの人に惚れこんで旅ができなくなる。ここは使命のため私が耐え忍ばないといけないんだ。全くあいつは私の足を引っ張ってからに! 心労の種子だよ本当にあいつはさぁ。そうだお菓子を戴きお茶を飲みながら話さなければならない。今後の予定というか別れ話を。だからシノブは茶の用意をしだし準備が整うとカオルがお菓子を先に食べるのを見計らってから、ひとつ戴いた。その回転焼をばひとつ。
用心するに越したことはない。実は本当にこの人は忍者なのかもしれないとシノブは自分の作り話の確認をはじめた。悪党に追われ身の危険を顧みずに自分を救ってくれた男に好意を持ち惚れる……万人が認める文句のつけどころのない設定。これを否定する論理を我々は持てるはずがない。太古の昔からそうであり、もしかしたらもっとも古典的なドラマ性がある男女の出会いのシーンかもしれない。
なんであんな男に? がこれでは通用しない。不安が多き渡世において求められるのは男の強さでありそれを頼りにする女。助けてもらったのに惚れないということはあるし否定はできない。だが助けてもらったから惚れたもまた否定できないもの。他人がどうのこうのいうものではないのだ。とても簡単なボーイ・ミーツ・ガール並びにガール・ミーツ・ボーイ、ここから物語が始まる。
「美味しいですねこれ」
「そうでしょ? 宿の人に聞いて買ってきたのだけど美味しいわね」
カオルはそう言いながらもう一ついただき茶を飲みシノブはその喉の動きに注目していた。忍者である自分がもしも罠を仕掛けるとしたら、今夜であると。
好感度がMAX状態であり無警戒な今宵が最大のチャンスであろう。そしてその方法はまず連れのものを眠らせる。つまりはこのお茶に眠り薬を入れて……こうなるなとシノブは考えた。茶じゃなくてもいい。この回転焼きの中に仕込んで相手側に置いておくだけでもよい。好意に甘えて一ついただいたらお眠である。しかし、とシノブはその手には乗らなかった。
皿に広げられた回転焼き。カオル側に置かれたものに手を伸ばしをいただき、さり気なく自分の方の回転焼きをあちら側に移し、どれがどれだか分からなくさせた。これは忍者の通常仕草であるので、それを以って相手の反応を伺うとカオリは気づいていないようであったのでシノブは苦笑いする。
自分の作り話に自ら乗って警戒心を全開にさせるとはな、と。用心に越したことはないがシノブはカオルの一挙手一投足を観察していた。特に用意された急須を取り淹れ飲む、その一通りの動きに注目したがごく自然であった。当たり前である。自分が用意したのだから万事無事である。水は新しいのを使い、急須や入物も洗った。どこにも不審な点は無い。
さすがに茶葉に仕込まれてはどうしようもないが、そこの決め手はカオルが先に飲んだこと。効果があるのならもう出ているが、出てはいない。喉が甘い、とシノブは甘さという刺激に渇いた。茶で流したい。どう考えても考えすぎなのである。だいたい自分を騙せるほどの忍者がそういるわけがない。
身体能力は衰え切っても観察眼や洞察力はそこまで落ちてはいないはず。ここまで警戒しているこの自分を出し抜いて罠に嵌められる忍者はそうそうはおらず、いるにはいるが、その極一部がたまたま私達の前に現れる可能性なんてどれほど低いのやら。よってカオルさんは忍者ではないがアカイにとっては忍者である。これで行こう、完璧そのもの。
シノブは適度に少し温くなった茶を勢いよく飲み下した。これがいいんだこれぞ快感と言わんばかりに。そしてもう一つ回転焼きを手に取った。
「こういうのを久しぶりに食べました」
「あらそうなんだ珍しい」
珍しい? とシノブが疑問に思うと同時にカオルの目の光に戦慄を覚えた。その目は知っている人の目。
「シノブちゃんはこれ大好きだったから意外だと思ってさ」
「えっ……カオリさん?」
ウィンクで返事をされ全てを悟るもシノブの意識は薄れていき机に突っ伏してしまった。眠ったのを確認しながらカオルはシノブを布団まで運び手足を縄で縛り布団をかけそのまま寝かせてしまった。
「ふふっ私の勝ちよ。これで任務はほぼ完了ね」
つまりはこうである。罠は茶葉に混ぜておいた眠り薬。効き目は薄く少量ずつ飲むのなら気合いでどうにかなる代物。しかし一気に呑み込むと突然の眠気に襲われ耐え難い。
「シノブちゃんは甘いものを食べるときは良く一気飲みしちゃうからさ。まぁそういう飲み方をする子ってあまりいないから本人も自覚がなかったのが幸いね。では、と」
カオルはある準備を整え、浴衣の襟元と腰ひもをほんのちょっと緩めながら隣のアカイの部屋へと向かった。
「よかったらこれを一緒に食べましょ」
「あっありがとうございます。嬉しいです」
嬉しそうなカオルを見ながらシノブはつくづくと思う。この人と旅ができたらどれだけ苦労が減るのかと。アカイに対する妙な警戒心から解き放たれる。それだけでも旅の苦労が三割減されると推測されるがしかしとシノブは首を振った。それが駄目なんだよ。
このままだとアカイはこの人に惚れこんで旅ができなくなる。ここは使命のため私が耐え忍ばないといけないんだ。全くあいつは私の足を引っ張ってからに! 心労の種子だよ本当にあいつはさぁ。そうだお菓子を戴きお茶を飲みながら話さなければならない。今後の予定というか別れ話を。だからシノブは茶の用意をしだし準備が整うとカオルがお菓子を先に食べるのを見計らってから、ひとつ戴いた。その回転焼をばひとつ。
用心するに越したことはない。実は本当にこの人は忍者なのかもしれないとシノブは自分の作り話の確認をはじめた。悪党に追われ身の危険を顧みずに自分を救ってくれた男に好意を持ち惚れる……万人が認める文句のつけどころのない設定。これを否定する論理を我々は持てるはずがない。太古の昔からそうであり、もしかしたらもっとも古典的なドラマ性がある男女の出会いのシーンかもしれない。
なんであんな男に? がこれでは通用しない。不安が多き渡世において求められるのは男の強さでありそれを頼りにする女。助けてもらったのに惚れないということはあるし否定はできない。だが助けてもらったから惚れたもまた否定できないもの。他人がどうのこうのいうものではないのだ。とても簡単なボーイ・ミーツ・ガール並びにガール・ミーツ・ボーイ、ここから物語が始まる。
「美味しいですねこれ」
「そうでしょ? 宿の人に聞いて買ってきたのだけど美味しいわね」
カオルはそう言いながらもう一ついただき茶を飲みシノブはその喉の動きに注目していた。忍者である自分がもしも罠を仕掛けるとしたら、今夜であると。
好感度がMAX状態であり無警戒な今宵が最大のチャンスであろう。そしてその方法はまず連れのものを眠らせる。つまりはこのお茶に眠り薬を入れて……こうなるなとシノブは考えた。茶じゃなくてもいい。この回転焼きの中に仕込んで相手側に置いておくだけでもよい。好意に甘えて一ついただいたらお眠である。しかし、とシノブはその手には乗らなかった。
皿に広げられた回転焼き。カオル側に置かれたものに手を伸ばしをいただき、さり気なく自分の方の回転焼きをあちら側に移し、どれがどれだか分からなくさせた。これは忍者の通常仕草であるので、それを以って相手の反応を伺うとカオリは気づいていないようであったのでシノブは苦笑いする。
自分の作り話に自ら乗って警戒心を全開にさせるとはな、と。用心に越したことはないがシノブはカオルの一挙手一投足を観察していた。特に用意された急須を取り淹れ飲む、その一通りの動きに注目したがごく自然であった。当たり前である。自分が用意したのだから万事無事である。水は新しいのを使い、急須や入物も洗った。どこにも不審な点は無い。
さすがに茶葉に仕込まれてはどうしようもないが、そこの決め手はカオルが先に飲んだこと。効果があるのならもう出ているが、出てはいない。喉が甘い、とシノブは甘さという刺激に渇いた。茶で流したい。どう考えても考えすぎなのである。だいたい自分を騙せるほどの忍者がそういるわけがない。
身体能力は衰え切っても観察眼や洞察力はそこまで落ちてはいないはず。ここまで警戒しているこの自分を出し抜いて罠に嵌められる忍者はそうそうはおらず、いるにはいるが、その極一部がたまたま私達の前に現れる可能性なんてどれほど低いのやら。よってカオルさんは忍者ではないがアカイにとっては忍者である。これで行こう、完璧そのもの。
シノブは適度に少し温くなった茶を勢いよく飲み下した。これがいいんだこれぞ快感と言わんばかりに。そしてもう一つ回転焼きを手に取った。
「こういうのを久しぶりに食べました」
「あらそうなんだ珍しい」
珍しい? とシノブが疑問に思うと同時にカオルの目の光に戦慄を覚えた。その目は知っている人の目。
「シノブちゃんはこれ大好きだったから意外だと思ってさ」
「えっ……カオリさん?」
ウィンクで返事をされ全てを悟るもシノブの意識は薄れていき机に突っ伏してしまった。眠ったのを確認しながらカオルはシノブを布団まで運び手足を縄で縛り布団をかけそのまま寝かせてしまった。
「ふふっ私の勝ちよ。これで任務はほぼ完了ね」
つまりはこうである。罠は茶葉に混ぜておいた眠り薬。効き目は薄く少量ずつ飲むのなら気合いでどうにかなる代物。しかし一気に呑み込むと突然の眠気に襲われ耐え難い。
「シノブちゃんは甘いものを食べるときは良く一気飲みしちゃうからさ。まぁそういう飲み方をする子ってあまりいないから本人も自覚がなかったのが幸いね。では、と」
カオルはある準備を整え、浴衣の襟元と腰ひもをほんのちょっと緩めながら隣のアカイの部屋へと向かった。
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