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桃源郷の仙女 (アカイ28)
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ノックの音がする、と俺は緊張感に襲われた。ヒィッ襲われる!
待て待て落ち着けこれは夜這いではない、と自分に言い聞かせる。何故なら俺は寝ていないからな。ハハッどうだ参ったかくのいち敗れたりだ。それにしても寝ている最中に布団にもぐり込まれるって怖くないか? と俺は不意に思った。
お化けや妖怪の類だと驚いて叫びながら殴ったり蹴ってしまったらどうしたらいいのか? かなり気まずい。あっちは好意でもって来てくれたのに拒否った感じになってしまう。怒って帰るよな。なんと恐ろしい。そもそもあれだ。寝込みを襲われるって普通の男だったら強盗を想像してしまう。まさか女が夜這いに来ると想定して寝ている男など皆無だろうに。そこで冷静に対応し致せるのはまさに英雄なのかもしれない。まさに男の中の男。だが逆にノブナガだと「おのれ曲者!」と夜這いに来た女を唐竹割りに一刀両断してしまうイメージの方が強い。それはそれで英雄だよね。殿! さすがです!
だいたい今宵女が夜這いに来るのかと分かっていたら眠れないよね。不意討、それが夜這いだ。そう考えると夜這いってあまり良くないというか怖いというか、駄目なのでは? と俺は考えを変え始めた。逆にこちらから夜這いに行った方が……あれ? もしかして本来ならこっちが夜這いっぽいなと俺はあることに気付き苦笑いする。エロ漫画やエロゲ―の読みすぎやりすぎて夜這いという概念の主客転倒となっていた。
違う違う普通は女は夜這いになんて来ないって。男が行くものなの。半分無理矢理みたいなものであるからか、最近のエロ関係だとそういうのが無くなって本来の意味が分からなくなっていた。でも待てよ。だったら女が来るのもレイプじゃないのか。えぇー男は悦ぶからいいでしょ? この意見もかつての女だって気持ちいいんだろの逆バージョンなだけであって。
またノックの音が鳴った。いけない、なんというくだらない考察をしてしまったのか。一生無縁なことに対するいらぬ考察。こんなことばかり考えているから俺の年収は低いままなんだよね。まーまー安心しろアカイ。カオルさんは夜這いになんて来ていない。ただ俺に会いに来ただけだ。お茶をしようと来たのだろう。もしくは明日の予定といった真面目な話だ。
不安がるなアカイ。カオルさんがくノ一であってもまさかそんな罠を仕掛けては来ない。だから期待するなよアカイ。俺はそこのところはちゃんと弁えている、といつものように言い訳しながら扉を開くと、先ず肌色が目に入った。
開けた谷底がそこにある。その両側に山があるのだ。意識がそこに吸い込まれていく。人と谷と俗である。丘にも見える。それが隠れている、と考えながら視線を上に向けるとそこにはカオルさんの顔があり優し気に微笑んでいた。
「あっごめんなさい。ちょっと両手が塞がっているので入らせてもらっていいですか?」
「はい、どうぞ」
と俺は努めて低い声で答えるとお邪魔しますと言いながらカオルが軽快なステップで以って入ってきた。その右手には酒瓶が、その左手にはグラスが二つ。つまりこれは。
「良かったら飲みませんか?」
酔わせて潰す作戦では? なんと安直な……こんな見え見えの……そう見えているのだ。若干はだけている着物の隙間から見える肌色の極楽が。湯上りで上気し赤みがかかった肌が。俺にはそれが桃源郷の仙女にしか見えなかった。
あの桃というのはつまりそういうことなのかもしれない。いいやそうに決まっている。俺はいま桃源郷にいるのだ。仙女が誘っている。お酒を如何ですか? その酔った勢いで……こんなの絶対に罠じゃないか! と俺は当然に気づく。
どこの誰がこんな陳腐な罠に、と思いながら俺はカオルの胸元を見る。シノブと約束したじゃないかと俺はその言葉を思い出そうとする。カオルがこちらを見つめながら一歩下がると丘が布越しで波打つ様を俺は見てそれから一歩前に出る。また一歩カオルが下がると俺もまた一歩と釣られやがて机のところで座った。もはや俺は何も考えられない。遠ざかる意識の代わりに近づいてくる無思考な衝動、そうかこれが本能とやらか。敵は本能寺にあり! チェストの意味は知恵捨てろだ!
頭を痺れさせながら俺はカオルの身体を観察する。その着物の中に隠された桃源郷を思うだけ。そこを見て触れて舐めることができるのならば俺は……その条件が酒を飲むことだとしたら俺は……だが俺にはシノブという人がいるのだ。だから俺は。
「お酌しますよ」
「美人に酌してもらうと酒が旨くなるだろうな」
「まぁお上手ね」
俺は驚愕する。口から滑り落ちるような典型的な言葉によって会話が成立してしまうなんて。だが自然とこの言葉を口にした途端の心地良さはなんだろう。幸福がここにあると感じた。カオルは俺のグラスになみなみと酒を注ぐ。これは呑んではいけないのだと俺には分かっている。痺れたり眠らされたりするのだ。
最悪死ぬのだ。馬鹿丸出しで愚かにも程がある死に方! 今年度ダーウィン賞の最有力候補にとして名を挙げてしまうだろう。
よしんばそうでなくても飲んだら俺はカオルと一線を超えてしまうのだ。
「どうぞ」
カオルが微笑みながらグラスを差し出すと俺はそれを受け取った。罠でもいい、とアカイはグラスを口に運び一気に飲み干した。騙されても良い。極楽でも地獄でもいい。生死を超越するのだ俺よ! 俺は普通の幸せをここに掴めるのだ。うぉおお甘露また天露だ!
「うまい、うますぎる」
展開も酒の味もと俺は思った。
待て待て落ち着けこれは夜這いではない、と自分に言い聞かせる。何故なら俺は寝ていないからな。ハハッどうだ参ったかくのいち敗れたりだ。それにしても寝ている最中に布団にもぐり込まれるって怖くないか? と俺は不意に思った。
お化けや妖怪の類だと驚いて叫びながら殴ったり蹴ってしまったらどうしたらいいのか? かなり気まずい。あっちは好意でもって来てくれたのに拒否った感じになってしまう。怒って帰るよな。なんと恐ろしい。そもそもあれだ。寝込みを襲われるって普通の男だったら強盗を想像してしまう。まさか女が夜這いに来ると想定して寝ている男など皆無だろうに。そこで冷静に対応し致せるのはまさに英雄なのかもしれない。まさに男の中の男。だが逆にノブナガだと「おのれ曲者!」と夜這いに来た女を唐竹割りに一刀両断してしまうイメージの方が強い。それはそれで英雄だよね。殿! さすがです!
だいたい今宵女が夜這いに来るのかと分かっていたら眠れないよね。不意討、それが夜這いだ。そう考えると夜這いってあまり良くないというか怖いというか、駄目なのでは? と俺は考えを変え始めた。逆にこちらから夜這いに行った方が……あれ? もしかして本来ならこっちが夜這いっぽいなと俺はあることに気付き苦笑いする。エロ漫画やエロゲ―の読みすぎやりすぎて夜這いという概念の主客転倒となっていた。
違う違う普通は女は夜這いになんて来ないって。男が行くものなの。半分無理矢理みたいなものであるからか、最近のエロ関係だとそういうのが無くなって本来の意味が分からなくなっていた。でも待てよ。だったら女が来るのもレイプじゃないのか。えぇー男は悦ぶからいいでしょ? この意見もかつての女だって気持ちいいんだろの逆バージョンなだけであって。
またノックの音が鳴った。いけない、なんというくだらない考察をしてしまったのか。一生無縁なことに対するいらぬ考察。こんなことばかり考えているから俺の年収は低いままなんだよね。まーまー安心しろアカイ。カオルさんは夜這いになんて来ていない。ただ俺に会いに来ただけだ。お茶をしようと来たのだろう。もしくは明日の予定といった真面目な話だ。
不安がるなアカイ。カオルさんがくノ一であってもまさかそんな罠を仕掛けては来ない。だから期待するなよアカイ。俺はそこのところはちゃんと弁えている、といつものように言い訳しながら扉を開くと、先ず肌色が目に入った。
開けた谷底がそこにある。その両側に山があるのだ。意識がそこに吸い込まれていく。人と谷と俗である。丘にも見える。それが隠れている、と考えながら視線を上に向けるとそこにはカオルさんの顔があり優し気に微笑んでいた。
「あっごめんなさい。ちょっと両手が塞がっているので入らせてもらっていいですか?」
「はい、どうぞ」
と俺は努めて低い声で答えるとお邪魔しますと言いながらカオルが軽快なステップで以って入ってきた。その右手には酒瓶が、その左手にはグラスが二つ。つまりこれは。
「良かったら飲みませんか?」
酔わせて潰す作戦では? なんと安直な……こんな見え見えの……そう見えているのだ。若干はだけている着物の隙間から見える肌色の極楽が。湯上りで上気し赤みがかかった肌が。俺にはそれが桃源郷の仙女にしか見えなかった。
あの桃というのはつまりそういうことなのかもしれない。いいやそうに決まっている。俺はいま桃源郷にいるのだ。仙女が誘っている。お酒を如何ですか? その酔った勢いで……こんなの絶対に罠じゃないか! と俺は当然に気づく。
どこの誰がこんな陳腐な罠に、と思いながら俺はカオルの胸元を見る。シノブと約束したじゃないかと俺はその言葉を思い出そうとする。カオルがこちらを見つめながら一歩下がると丘が布越しで波打つ様を俺は見てそれから一歩前に出る。また一歩カオルが下がると俺もまた一歩と釣られやがて机のところで座った。もはや俺は何も考えられない。遠ざかる意識の代わりに近づいてくる無思考な衝動、そうかこれが本能とやらか。敵は本能寺にあり! チェストの意味は知恵捨てろだ!
頭を痺れさせながら俺はカオルの身体を観察する。その着物の中に隠された桃源郷を思うだけ。そこを見て触れて舐めることができるのならば俺は……その条件が酒を飲むことだとしたら俺は……だが俺にはシノブという人がいるのだ。だから俺は。
「お酌しますよ」
「美人に酌してもらうと酒が旨くなるだろうな」
「まぁお上手ね」
俺は驚愕する。口から滑り落ちるような典型的な言葉によって会話が成立してしまうなんて。だが自然とこの言葉を口にした途端の心地良さはなんだろう。幸福がここにあると感じた。カオルは俺のグラスになみなみと酒を注ぐ。これは呑んではいけないのだと俺には分かっている。痺れたり眠らされたりするのだ。
最悪死ぬのだ。馬鹿丸出しで愚かにも程がある死に方! 今年度ダーウィン賞の最有力候補にとして名を挙げてしまうだろう。
よしんばそうでなくても飲んだら俺はカオルと一線を超えてしまうのだ。
「どうぞ」
カオルが微笑みながらグラスを差し出すと俺はそれを受け取った。罠でもいい、とアカイはグラスを口に運び一気に飲み干した。騙されても良い。極楽でも地獄でもいい。生死を超越するのだ俺よ! 俺は普通の幸せをここに掴めるのだ。うぉおお甘露また天露だ!
「うまい、うますぎる」
展開も酒の味もと俺は思った。
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