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第一章 なぜ私であるのか
ジーナを殺すな
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幾度となく繰り返したこの儀式をジーナは不思議な感慨を伴いながら鏡を使いながら客観視する。
正装をし身だしなみを整え、それから龍の館に行く。なんのために? そう龍身のお世話のために。
それだけ? それと儀式の準備。それだけ? あと不愉快な思いを。それだけ? たまに痛い思いを? それだけ? それだけじゃないそれだけじゃ足りない、本当に大切なのは。
ぐるぐると思考は回転させながら道を行きジーナは正面門をくぐり進み階段を昇り龍の間へと向かわねばならない。
その途上で龍のことをヘイムのことを思いながら感情を取り出す。たったひとつのジーナが抱かなければならないこの感情。
この感情が、大切なんだ。憎しみの、憎悪の、あの人に抱くこの心はそれしかありえない。
自分とは、とジーナは息を吸いながら言葉を腹の中に収めさせるように、思った。自分とはジーナであり、それは、その名の意味するものは、ひとつだけ。
足が自動的に導かれるように進む。歩き慣れすぎてしまったこの階段と廊下は目をつぶっても正確に歩けるはずだ。
ジーナはひたすらに思うことに集中しまるで決戦を前にした気持ちでいたが、それでいいのであるとジーナは声に出して自分に呪文をかける。
「私は、龍を討つものなのだから」
そうなのだから、龍を前にして行うことは……無意識にジーナの両手が空を握り、捻る。
耳の奥で音がした。何かが潰れる音が……これなのだ。自分とは、これなのだ。自分とはその音から誕生した。
生誕を祝福する音色を脳内で響かせながらジーナはそこに爽やかな解放感を覚え息を吐く。
そうすれば、と。もうこれ以上あの人のことを考えずに済むと。ヘイムのことを考えれば考えるほど、ジーナは自分が失われていく気がすると日に日にその思いを強める。
「龍を討つのは、いまなのか? これからなのか?」
自らへの問い掛けでジーナは、頷く。そして返事が口から出る。
「そうしなければならない」
戦いのあとのこの精神状態であるのなら、この意識のもとであるのなら、あれを、あの龍を早いながらも、討てる。
「ジーナであり続けるために救うんだ」
決意と同時にジーナは階上の扉を開き最後の長廊下に入った。ほぼ同時に龍の間の扉も開きジーナには誰が出てきたのかすぐに分かった。
シオンは誰が来たのか遠目だが良く見えた。見間違えるわけのないあのシルエット。
そう思っていたのだがシオンは近づいてくるにつれて誰であるのかが分からなくなってきた。
それどころかシオンはその身体をその顔をその眼を金色の光を見た瞬間に構えそしてシオンは、龍の騎士は腰から剣を抜き、その光に対し剣を向け、思う。危機が、金色が、敵が、来る。
「止りなさい。それ以上近づくのなら、あなたを斬る」
シオンの瞳はかつてないほどの澄んだ色となり金色の光りを吸収しその力を無に帰す。だからシオンの心には何の恐怖心も起こらない。
そう私にはそれが効かない。そういうものだということを血が教えてくれる。私だけはその金色に怯むことも跪くことはない。龍の騎士とはそのような存在なのだから。
「シオン、どいてくれ。このまま龍身に会わせて貰いたい」
やはり彼ではない、と今の言葉のどこで判断したのか分からないままより確信を深め、シオンは納刀し構え身体の重心を前に傾ける。
ジーナは長廊下の真ん中を無防備なまま歩いている。止めることは容易だ、と。その死で以ってこれは止る。それ以外にはない。
「もう警告はしません。間合いに入りましたら、その首を斬り落とす」
呼吸を整え龍の騎士はジーナの顔を見る。その表情は止まる気をまるで感じられなかった。
これがただの脅しと受け止めているのだろうか? いいやそうではない。今の私は完全に攻撃態勢に入りこうして構えており、それを彼も感じ取っているはずだ。
止まらなければ死が訪れると分かっている。
それなのに何故止まらない、死にたいのか、それとも、と龍の騎士に初めて迷いが生じる。
ジーナは死を望んでいるとしたら? その金色とは死を超越するなにかなのか?
「シオン! 入れさせよ」
事態を察したのか扉越しの龍の間からヘイムの大声が聞こえるも龍の騎士は姿勢を崩さない。今の私はその名ではない。
「駄目です! これを中に入れさせるわけにはいかない」
もう間合いに入るのを睨みながら龍の騎士は答えた。
「入れさせろと言っているのだ!」
「入れさせるわけにはいかない!」
四歩三歩二歩、とジーナは近づき龍の騎士は足に力を入れた動き出そうとする。
「やめろシオン!」
「ヘイム!それはもう」
零歩、とジーナの足が間合いに入ろうとするその同時に龍の騎士は床を蹴り宙に飛跳ねる間に、叫びが耳に届く。
「止れ龍の騎士! これは龍の命令だ! ジーナを殺すな!」
頭を言葉で射抜かれるも、剣を抜きながら龍の騎士は思う。ここで止められるか? ここで足を地につけて? だが動きは止められず必殺の一撃となるその剣は狙い誤らずジーナの首筋に向かい鞘から展開し、寸前で止まる。
さっきまで怒鳴り合っていた喧騒の空間であったはずなのに、今ここには奇妙な沈黙が降りていた。
全ては停止している。ジーナの足もシオンの剣も、そしてヘイムの口も。
シオンは剣を引くこと無くそのまま睨んでいる。そのジーナも剣を避けもどけようともせずに前だけを見ている。
それは斬られたも同然だったかもしれない。腕を動かせば、その剣は命に届き、その命を断つ。
「このまま帰りなさい」
「それはできない」
その静かな声にシオンが息を呑むとジーナは続ける。
「今日だけはどうか中に入れさせてもらいたい。次は止まらずにこの首を落としていいから」
「あなたに命じられることではない」
「シオン、入れさせろ。大丈夫だ。大丈夫だから」
背後からヘイムの声が聞こえ数秒の時間を置いてからシオンは諦めため息をつきながら剣を鞘に納めた。
「すまないシオン」
「あなたは公務のために来たが私が昂ってこの剣であなたを殺害しようとした。客観的に見てこういうことです。でも私はそれが誤っていたとは思ってはいません。正当な行為でした」
シオンの冷ややかな態度に言葉に対しジーナは頷いた。
「シオンは何ひとつとして間違えてはいない」
「あなたは、病気なのですか? だから今日はそのような状態で?」
シオンの問いにジーナは首を動かさなかった。
「ヘイム様に、どうか会わせて貰いたい」
シオンは今度はここにいるのがジーナであると突然理解した。何処からどう見てもジーナでありそんなのは当たり前だと自分に対して言うも、すると奇妙な気分となり不安となった。
もしかして変になっていたのは剣を持っていた私で、ひょっとしてこの剣は呪われていたからソグに置かれていたのでは?
しかしさっきのあの金色の光りは? 今は光っていないジーナの瞳のあれも幻覚だとしたら……
「私がおかしくなっていたかもしれませんね」
「いやシオンはおかしくないって」
ジーナの答えにも納得ができずにシオンは脇にどき道を開けた。
「ヘイム様が待っています。入りなさい」
シオンは気に病みながら廊下を歩いて行きジーナは扉の前に立つと中から声がした。
「入れ」
正装をし身だしなみを整え、それから龍の館に行く。なんのために? そう龍身のお世話のために。
それだけ? それと儀式の準備。それだけ? あと不愉快な思いを。それだけ? たまに痛い思いを? それだけ? それだけじゃないそれだけじゃ足りない、本当に大切なのは。
ぐるぐると思考は回転させながら道を行きジーナは正面門をくぐり進み階段を昇り龍の間へと向かわねばならない。
その途上で龍のことをヘイムのことを思いながら感情を取り出す。たったひとつのジーナが抱かなければならないこの感情。
この感情が、大切なんだ。憎しみの、憎悪の、あの人に抱くこの心はそれしかありえない。
自分とは、とジーナは息を吸いながら言葉を腹の中に収めさせるように、思った。自分とはジーナであり、それは、その名の意味するものは、ひとつだけ。
足が自動的に導かれるように進む。歩き慣れすぎてしまったこの階段と廊下は目をつぶっても正確に歩けるはずだ。
ジーナはひたすらに思うことに集中しまるで決戦を前にした気持ちでいたが、それでいいのであるとジーナは声に出して自分に呪文をかける。
「私は、龍を討つものなのだから」
そうなのだから、龍を前にして行うことは……無意識にジーナの両手が空を握り、捻る。
耳の奥で音がした。何かが潰れる音が……これなのだ。自分とは、これなのだ。自分とはその音から誕生した。
生誕を祝福する音色を脳内で響かせながらジーナはそこに爽やかな解放感を覚え息を吐く。
そうすれば、と。もうこれ以上あの人のことを考えずに済むと。ヘイムのことを考えれば考えるほど、ジーナは自分が失われていく気がすると日に日にその思いを強める。
「龍を討つのは、いまなのか? これからなのか?」
自らへの問い掛けでジーナは、頷く。そして返事が口から出る。
「そうしなければならない」
戦いのあとのこの精神状態であるのなら、この意識のもとであるのなら、あれを、あの龍を早いながらも、討てる。
「ジーナであり続けるために救うんだ」
決意と同時にジーナは階上の扉を開き最後の長廊下に入った。ほぼ同時に龍の間の扉も開きジーナには誰が出てきたのかすぐに分かった。
シオンは誰が来たのか遠目だが良く見えた。見間違えるわけのないあのシルエット。
そう思っていたのだがシオンは近づいてくるにつれて誰であるのかが分からなくなってきた。
それどころかシオンはその身体をその顔をその眼を金色の光を見た瞬間に構えそしてシオンは、龍の騎士は腰から剣を抜き、その光に対し剣を向け、思う。危機が、金色が、敵が、来る。
「止りなさい。それ以上近づくのなら、あなたを斬る」
シオンの瞳はかつてないほどの澄んだ色となり金色の光りを吸収しその力を無に帰す。だからシオンの心には何の恐怖心も起こらない。
そう私にはそれが効かない。そういうものだということを血が教えてくれる。私だけはその金色に怯むことも跪くことはない。龍の騎士とはそのような存在なのだから。
「シオン、どいてくれ。このまま龍身に会わせて貰いたい」
やはり彼ではない、と今の言葉のどこで判断したのか分からないままより確信を深め、シオンは納刀し構え身体の重心を前に傾ける。
ジーナは長廊下の真ん中を無防備なまま歩いている。止めることは容易だ、と。その死で以ってこれは止る。それ以外にはない。
「もう警告はしません。間合いに入りましたら、その首を斬り落とす」
呼吸を整え龍の騎士はジーナの顔を見る。その表情は止まる気をまるで感じられなかった。
これがただの脅しと受け止めているのだろうか? いいやそうではない。今の私は完全に攻撃態勢に入りこうして構えており、それを彼も感じ取っているはずだ。
止まらなければ死が訪れると分かっている。
それなのに何故止まらない、死にたいのか、それとも、と龍の騎士に初めて迷いが生じる。
ジーナは死を望んでいるとしたら? その金色とは死を超越するなにかなのか?
「シオン! 入れさせよ」
事態を察したのか扉越しの龍の間からヘイムの大声が聞こえるも龍の騎士は姿勢を崩さない。今の私はその名ではない。
「駄目です! これを中に入れさせるわけにはいかない」
もう間合いに入るのを睨みながら龍の騎士は答えた。
「入れさせろと言っているのだ!」
「入れさせるわけにはいかない!」
四歩三歩二歩、とジーナは近づき龍の騎士は足に力を入れた動き出そうとする。
「やめろシオン!」
「ヘイム!それはもう」
零歩、とジーナの足が間合いに入ろうとするその同時に龍の騎士は床を蹴り宙に飛跳ねる間に、叫びが耳に届く。
「止れ龍の騎士! これは龍の命令だ! ジーナを殺すな!」
頭を言葉で射抜かれるも、剣を抜きながら龍の騎士は思う。ここで止められるか? ここで足を地につけて? だが動きは止められず必殺の一撃となるその剣は狙い誤らずジーナの首筋に向かい鞘から展開し、寸前で止まる。
さっきまで怒鳴り合っていた喧騒の空間であったはずなのに、今ここには奇妙な沈黙が降りていた。
全ては停止している。ジーナの足もシオンの剣も、そしてヘイムの口も。
シオンは剣を引くこと無くそのまま睨んでいる。そのジーナも剣を避けもどけようともせずに前だけを見ている。
それは斬られたも同然だったかもしれない。腕を動かせば、その剣は命に届き、その命を断つ。
「このまま帰りなさい」
「それはできない」
その静かな声にシオンが息を呑むとジーナは続ける。
「今日だけはどうか中に入れさせてもらいたい。次は止まらずにこの首を落としていいから」
「あなたに命じられることではない」
「シオン、入れさせろ。大丈夫だ。大丈夫だから」
背後からヘイムの声が聞こえ数秒の時間を置いてからシオンは諦めため息をつきながら剣を鞘に納めた。
「すまないシオン」
「あなたは公務のために来たが私が昂ってこの剣であなたを殺害しようとした。客観的に見てこういうことです。でも私はそれが誤っていたとは思ってはいません。正当な行為でした」
シオンの冷ややかな態度に言葉に対しジーナは頷いた。
「シオンは何ひとつとして間違えてはいない」
「あなたは、病気なのですか? だから今日はそのような状態で?」
シオンの問いにジーナは首を動かさなかった。
「ヘイム様に、どうか会わせて貰いたい」
シオンは今度はここにいるのがジーナであると突然理解した。何処からどう見てもジーナでありそんなのは当たり前だと自分に対して言うも、すると奇妙な気分となり不安となった。
もしかして変になっていたのは剣を持っていた私で、ひょっとしてこの剣は呪われていたからソグに置かれていたのでは?
しかしさっきのあの金色の光りは? 今は光っていないジーナの瞳のあれも幻覚だとしたら……
「私がおかしくなっていたかもしれませんね」
「いやシオンはおかしくないって」
ジーナの答えにも納得ができずにシオンは脇にどき道を開けた。
「ヘイム様が待っています。入りなさい」
シオンは気に病みながら廊下を歩いて行きジーナは扉の前に立つと中から声がした。
「入れ」
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