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第二章 なぜ私ではないのか
『ジーナだ』
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馬車はさらに東へ進んでいく。向かってくる避難民とは逆方向へ進み、目的地に近づいたと分かったのは遠くから兵隊の姿が見えたことだった。
男は準備をしていたアリバの旗を立てた。気づいた兵たちが近づいてくると男は大声をあげた。
「アリバ商会のものだ。担当のものに会わせてもらいたい」
呆気にとられる兵隊の中から現れた上官姿のものに素早く紹介状を渡すと目を丸くしながら走っていった。
兵隊たちに案内され天幕のなかに入ろうとする前に男は陣の雰囲気から現在この軍は相当の劣勢であると感じた。
前進をしているのではなく後退に継ぐ後退を余儀なくされている状況。それでも、と男は安心している。軍の士気はまだ地には落ちていないことは分かった。
今はこうでも次の戦いでは勝ちそれで駄目ならその次の戦いで、と強い気合いと固い信仰心が伝わってくる。
それは噂の狂信者であるバルツの性格が反映されているためであろうことから、さらなる兵力の増強を図っていることは確実なため、自分は今が最大の売り時だろうと男は判断し心の中で苦笑いをする。
この思考はアリバのであるな、と。
商人と対応する顔馴染みの担当官が入って来て挨拶をしようとするとその後ろから大きな初老の男が現れた。
その場の空気が一変する存在感と雰囲気、鷹のような眼を一目見て男は分かった。バルツが、あのバルツ将軍が直々に来たと、だが何故? 疑問を抱きつつも挨拶をしようとするとバルツは手で制し睨み付けてきた。
「前口上はいらんぞ。何を持ってきた? 俺に売りたいものは何だ?」
単刀直入であり乱暴な言い方であるがそこにあるのは焦燥感だと男はバルツの言葉からそう察した。この悪化している戦局を挽回する手段は何かと日夜考え藁にもすがる思いで手あたり次第手を尽している時に、アリバの馬車が来た。
それを救世主と見たのではないのか? そうだとも、そうだ。お目が高い。その勘の良さは名将に値するだろう、と男もまたバルツの方へ進み、答えもバルツに倣い真っ直ぐに差し出した。
「商品は戦士であり、売りたいものはこの私です」
見据える刃のような瞳はより険しく輝き眼の前にいる男の全てを見渡した。きっと足の裏まで見透かしたであろうその眼光で男は安心する。この人なら見誤らないだろう、と。バルツは担当官の名を呼ぶとこれもまた心得たものか、知っている限りの男の戦歴を語りだした。
アリバから何度か聞いた話、砂漠越えから盗賊たちとの戦い等々からの彼は誰にも負けない勇敢な戦士であったいう類の、自分にとっては何の価値もないそれどころか誇張も含まれた出鱈目に過ぎない愚にもつかない話を。
だが男はそんなことを口には出さずに黙っているとバルツもまた無反応なまま終いまで聞き終わると、無感動に尋ねた。
「傭兵ということだな。だがな現実の戦争でそういった類の武勇伝における勇者が楽々と活躍できるようなものとは違うぞ」
「御心配なく。いかなる戦いにおいても私は貴軍のどの戦士よりかも強く、また東の中央の戦士よりも強いでしょう」
何故なら俺はお前たちの信仰対象を砕く存在なのだからな、と男は微かに金色となった瞳をバルツに向けた。
「ほぉ……相当な自信があるのだな」
怒りを滲ませながらバルツは睨み男は目を離さなかった。担当官は二人の真ん中で相互の顔を見て慌てたが、案外穏やかな空気の雰囲気であるのが不思議であった。
「私はあなた方の龍を中央へお連れする手助けを致します。いえ、これは私の力がなければできないことでしょう」
そうだ、とバルツはポーズとして見せている強面を外したくなってきた。一方のバルツは内心では息を呑み、神秘的な感動に震えていた。それを我慢しているのだ。
入った情報では西の砂漠地帯で霧が発生し砂が固まり道となっているという信じられない情報が入ってきているが、そこから来たのがこれだというのなら、もしかしてこれは大いなる力の導き、そう龍の力の導きなのではないかと。
つまり龍は一人の戦士をこの地に遣わすために霧を発生させ、我々のもとに届けてくださった。我らの苦境を救うひとつの手段としてこれを……と、こんな風に思う信仰深いというかもはや狂信的なバルツは男の無礼な態度なんてどこか知らないところに吹き飛び、龍に感謝するために跪きたくもなるがそこは堪えた。
まだそうだとは決まったわけではないのだから、とりあえず態度など関係なく試してみようと。
「……まぁそこまで言うのなら雇うこととするが、条件は何だ? まだ功績の無いものだから優遇はしないぞ」
「いや、条件は多々あります。まず優遇は結構ですのでそのまま一般兵のしかも前線に立つ隊に配置させていただきたい。前線の前線、最も先頭に立つ最前線に」
声も上げず足も反応させず眼も離さなかったもののバルツの心中はたじろいだ。こいつはいったい何を言っているのだ?
自分から一般兵にさせろと言いわざわざ死地に立たせろと、はじめに死なせてくださいと、まさか西からわざわざやってきた自殺願望者なのか?
「希望するのならそうしてやるがお前はそこがどのような位置であるのか分かっているのか?」
「分かっております。そこはあちらの龍に最も近いのと同時にこちらの龍から最も遠い場所、そうですよね。ならば私はそこに立たなければなりません。私は、その為に、ここにやってきたのですから」
「龍よ……」
バルツはついに呻き声をあげ足を揺らした。このものはやはりあなたが、と増々目を強く睨みつけていると男はさらにもうひとつのことを要求しだした。
「要望の最後は私が龍に対して無信仰であることを必ず認めて頂きたい」
衝撃とともにバルツは仰け反り視線を逸らしそのまま天を仰いだ。首が折れそうなほど見上げ、目に広がるのは天幕の骨と白天井、真っ白となった思考。
静観していた担当官もあまりの要求に何かを言おうとするも言葉を失い口を動かすばかりであった。
男はそれ以上何も付け加えずにバルツの反応を待った。男はこの要求は通ると信じていた。相手は狂信者である普通の思考回路を有してはいない、そうであるのなら……
そのバルツだが、白いどころか透明となった意識の中でどこから聞こえてくる声を頭の中で響かせていた。幻聴というか妄想を聞く。
言い伝えによれば西は無信仰の地である。哀れなる地に哀しむべき民がいる。お前はその地に信仰を広めなくてはならない。ところがいまその地からものがやって来て俺にこう言った、無信仰であることを認めろ、と。
龍よ……バルツが透き通った意識に真っ新な言葉が舞い降りてきた。
『赤子に罪は無い』
そうだこの者は知らないのだけなのだ。龍の偉大さを。生まれてきたばかりのものと同じくただ知らないだけなのだ。
それは無知なるものの罪ではない。教え広めなかったものの罪だ。無信仰を理由に罰するは自分の務めではない、自分の務めとは無信仰者を教え導くことである。
それであればこそ我が信仰は龍に通じ天に通じ、世界の平和は広がっていく。ならばまずはこれぐらい純粋な奴が良い。俺は龍などというものは知らんから無信仰だからな、と。なんとも可愛らしい純真さでないか。
知らない癖に俺に取り入るために心にもなく言葉や形に物だけをもって龍の信仰を持っていますとアピールされたとしたら、善き信仰者になれるわけがない。知らないものは知らない、という態度は智であり美でもある。
赤子も初めは龍のことを知らないではないか! その点こうもはっきりと言うのなら、見込みはある。
それどころか萌芽すら感じられる。現に無信仰であるが龍のために戦うと言っている。これだ、ここからこいつの信仰は始まるのだ。
出世もあろうが自らの栄光と龍の守護という役目の一致は悪い事ではなくむしろ推奨されるべきだ。こいつが最終的に龍の信仰者となり西の地に帰り信仰を広げるとしたら……そのために龍はこの男は西の地からここに召還したのだとしたら。
バルツは天を仰いだまま妄想を拡大させ未来を夢見て、愉悦の中で結論に到達した。一方で担当官はいつまでも仰け反ったままのバルツの異様な姿に焦り、男も余裕がなくなり身構えだした。
もしも見込み違いで激怒されたとしたら……と剣の柄に手を掛けようとすると同時にバルツは顔を元に戻した。
その顔は妄想中のにやけ面ではなく厳粛そのものの面持である。しかしやたらと脂ぎり明るい。火を近づけたら燃え広がりそうである。
「この俺の前で無信仰者であると告げるとはいい度胸をしているな」
「信仰を持っておりますなどと言いましたらあなたは嘘だと見抜くでしょう」
言い返しにバルツは心の中で同意し、気に入った。
「抜かすな。まぁいい、どこの馬の骨だろうが、無信仰者だろうが戦力は欲しいところだ。それが口先が達者な西の男だとしてもな。要望は全て受け入れる。最前線がご希望とのことだが、そうなると配属は末番隊であり別名懲罰隊だ。罪人しかいないが、いいのか?」
「無信仰は罪でしょうか?」
「罪だとする狂信者もいるが、俺は馬鹿は罪ではないぐらいに無信仰も罪ではないと思っている。この俺は許す。流石にここが嫌だと言うのなら一つ前の普通の連隊に配属させてやるが」
男は首を振った。それでは駄目だ、と。龍の討つ位置は、そこではない。
「是非とも罪人連隊に配属いたしてください」
「懲罰隊だ。しかし呆れた前代未聞だぞ。無罪の身でありながらその隊を希望するとは」
無罪? この身のどこに罪が無いと言うのか、と男は思うと同時にもう一つの罪を考える。この国における龍を殺すのは、どれほどの罪なのであろうか?
「是非ともその隊に配属していただきたい」
「まっそこまでお望みなら反対はせん。手続きをしておけ。それはそうとな、お前の名前はなんだ?」
問いを聞くと男の身体は固まり、瞬きすらしなくなり、死が訪れた。
「どうした西からやってきた無信仰者。答えないのならこう呼ぶしかないが、これでは困るだろ。さぁ名乗ってくれ。その自分の名前をな」
意識が暗いところに落ちて行くなかで男は声を思い出した。君は……君は……あの声と言葉から自分の魂には名が刻まれた。
ならばその言葉をそのまま、とはじめて息を吸うように深く吸い、はじめて息を吐くように強く、産声の如く、はじめて目覚める如くに
「ジーナだ」
声量に押されたのか二人が後ずさりをするが構わず、続けた。
「私の名前はジーナだ」
二重の声が頭の中で響き渡らせると同時に使命の叫びが全身を駆け巡り血を熱くさせる。
『私は龍を討つものだ』
男は準備をしていたアリバの旗を立てた。気づいた兵たちが近づいてくると男は大声をあげた。
「アリバ商会のものだ。担当のものに会わせてもらいたい」
呆気にとられる兵隊の中から現れた上官姿のものに素早く紹介状を渡すと目を丸くしながら走っていった。
兵隊たちに案内され天幕のなかに入ろうとする前に男は陣の雰囲気から現在この軍は相当の劣勢であると感じた。
前進をしているのではなく後退に継ぐ後退を余儀なくされている状況。それでも、と男は安心している。軍の士気はまだ地には落ちていないことは分かった。
今はこうでも次の戦いでは勝ちそれで駄目ならその次の戦いで、と強い気合いと固い信仰心が伝わってくる。
それは噂の狂信者であるバルツの性格が反映されているためであろうことから、さらなる兵力の増強を図っていることは確実なため、自分は今が最大の売り時だろうと男は判断し心の中で苦笑いをする。
この思考はアリバのであるな、と。
商人と対応する顔馴染みの担当官が入って来て挨拶をしようとするとその後ろから大きな初老の男が現れた。
その場の空気が一変する存在感と雰囲気、鷹のような眼を一目見て男は分かった。バルツが、あのバルツ将軍が直々に来たと、だが何故? 疑問を抱きつつも挨拶をしようとするとバルツは手で制し睨み付けてきた。
「前口上はいらんぞ。何を持ってきた? 俺に売りたいものは何だ?」
単刀直入であり乱暴な言い方であるがそこにあるのは焦燥感だと男はバルツの言葉からそう察した。この悪化している戦局を挽回する手段は何かと日夜考え藁にもすがる思いで手あたり次第手を尽している時に、アリバの馬車が来た。
それを救世主と見たのではないのか? そうだとも、そうだ。お目が高い。その勘の良さは名将に値するだろう、と男もまたバルツの方へ進み、答えもバルツに倣い真っ直ぐに差し出した。
「商品は戦士であり、売りたいものはこの私です」
見据える刃のような瞳はより険しく輝き眼の前にいる男の全てを見渡した。きっと足の裏まで見透かしたであろうその眼光で男は安心する。この人なら見誤らないだろう、と。バルツは担当官の名を呼ぶとこれもまた心得たものか、知っている限りの男の戦歴を語りだした。
アリバから何度か聞いた話、砂漠越えから盗賊たちとの戦い等々からの彼は誰にも負けない勇敢な戦士であったいう類の、自分にとっては何の価値もないそれどころか誇張も含まれた出鱈目に過ぎない愚にもつかない話を。
だが男はそんなことを口には出さずに黙っているとバルツもまた無反応なまま終いまで聞き終わると、無感動に尋ねた。
「傭兵ということだな。だがな現実の戦争でそういった類の武勇伝における勇者が楽々と活躍できるようなものとは違うぞ」
「御心配なく。いかなる戦いにおいても私は貴軍のどの戦士よりかも強く、また東の中央の戦士よりも強いでしょう」
何故なら俺はお前たちの信仰対象を砕く存在なのだからな、と男は微かに金色となった瞳をバルツに向けた。
「ほぉ……相当な自信があるのだな」
怒りを滲ませながらバルツは睨み男は目を離さなかった。担当官は二人の真ん中で相互の顔を見て慌てたが、案外穏やかな空気の雰囲気であるのが不思議であった。
「私はあなた方の龍を中央へお連れする手助けを致します。いえ、これは私の力がなければできないことでしょう」
そうだ、とバルツはポーズとして見せている強面を外したくなってきた。一方のバルツは内心では息を呑み、神秘的な感動に震えていた。それを我慢しているのだ。
入った情報では西の砂漠地帯で霧が発生し砂が固まり道となっているという信じられない情報が入ってきているが、そこから来たのがこれだというのなら、もしかしてこれは大いなる力の導き、そう龍の力の導きなのではないかと。
つまり龍は一人の戦士をこの地に遣わすために霧を発生させ、我々のもとに届けてくださった。我らの苦境を救うひとつの手段としてこれを……と、こんな風に思う信仰深いというかもはや狂信的なバルツは男の無礼な態度なんてどこか知らないところに吹き飛び、龍に感謝するために跪きたくもなるがそこは堪えた。
まだそうだとは決まったわけではないのだから、とりあえず態度など関係なく試してみようと。
「……まぁそこまで言うのなら雇うこととするが、条件は何だ? まだ功績の無いものだから優遇はしないぞ」
「いや、条件は多々あります。まず優遇は結構ですのでそのまま一般兵のしかも前線に立つ隊に配置させていただきたい。前線の前線、最も先頭に立つ最前線に」
声も上げず足も反応させず眼も離さなかったもののバルツの心中はたじろいだ。こいつはいったい何を言っているのだ?
自分から一般兵にさせろと言いわざわざ死地に立たせろと、はじめに死なせてくださいと、まさか西からわざわざやってきた自殺願望者なのか?
「希望するのならそうしてやるがお前はそこがどのような位置であるのか分かっているのか?」
「分かっております。そこはあちらの龍に最も近いのと同時にこちらの龍から最も遠い場所、そうですよね。ならば私はそこに立たなければなりません。私は、その為に、ここにやってきたのですから」
「龍よ……」
バルツはついに呻き声をあげ足を揺らした。このものはやはりあなたが、と増々目を強く睨みつけていると男はさらにもうひとつのことを要求しだした。
「要望の最後は私が龍に対して無信仰であることを必ず認めて頂きたい」
衝撃とともにバルツは仰け反り視線を逸らしそのまま天を仰いだ。首が折れそうなほど見上げ、目に広がるのは天幕の骨と白天井、真っ白となった思考。
静観していた担当官もあまりの要求に何かを言おうとするも言葉を失い口を動かすばかりであった。
男はそれ以上何も付け加えずにバルツの反応を待った。男はこの要求は通ると信じていた。相手は狂信者である普通の思考回路を有してはいない、そうであるのなら……
そのバルツだが、白いどころか透明となった意識の中でどこから聞こえてくる声を頭の中で響かせていた。幻聴というか妄想を聞く。
言い伝えによれば西は無信仰の地である。哀れなる地に哀しむべき民がいる。お前はその地に信仰を広めなくてはならない。ところがいまその地からものがやって来て俺にこう言った、無信仰であることを認めろ、と。
龍よ……バルツが透き通った意識に真っ新な言葉が舞い降りてきた。
『赤子に罪は無い』
そうだこの者は知らないのだけなのだ。龍の偉大さを。生まれてきたばかりのものと同じくただ知らないだけなのだ。
それは無知なるものの罪ではない。教え広めなかったものの罪だ。無信仰を理由に罰するは自分の務めではない、自分の務めとは無信仰者を教え導くことである。
それであればこそ我が信仰は龍に通じ天に通じ、世界の平和は広がっていく。ならばまずはこれぐらい純粋な奴が良い。俺は龍などというものは知らんから無信仰だからな、と。なんとも可愛らしい純真さでないか。
知らない癖に俺に取り入るために心にもなく言葉や形に物だけをもって龍の信仰を持っていますとアピールされたとしたら、善き信仰者になれるわけがない。知らないものは知らない、という態度は智であり美でもある。
赤子も初めは龍のことを知らないではないか! その点こうもはっきりと言うのなら、見込みはある。
それどころか萌芽すら感じられる。現に無信仰であるが龍のために戦うと言っている。これだ、ここからこいつの信仰は始まるのだ。
出世もあろうが自らの栄光と龍の守護という役目の一致は悪い事ではなくむしろ推奨されるべきだ。こいつが最終的に龍の信仰者となり西の地に帰り信仰を広げるとしたら……そのために龍はこの男は西の地からここに召還したのだとしたら。
バルツは天を仰いだまま妄想を拡大させ未来を夢見て、愉悦の中で結論に到達した。一方で担当官はいつまでも仰け反ったままのバルツの異様な姿に焦り、男も余裕がなくなり身構えだした。
もしも見込み違いで激怒されたとしたら……と剣の柄に手を掛けようとすると同時にバルツは顔を元に戻した。
その顔は妄想中のにやけ面ではなく厳粛そのものの面持である。しかしやたらと脂ぎり明るい。火を近づけたら燃え広がりそうである。
「この俺の前で無信仰者であると告げるとはいい度胸をしているな」
「信仰を持っておりますなどと言いましたらあなたは嘘だと見抜くでしょう」
言い返しにバルツは心の中で同意し、気に入った。
「抜かすな。まぁいい、どこの馬の骨だろうが、無信仰者だろうが戦力は欲しいところだ。それが口先が達者な西の男だとしてもな。要望は全て受け入れる。最前線がご希望とのことだが、そうなると配属は末番隊であり別名懲罰隊だ。罪人しかいないが、いいのか?」
「無信仰は罪でしょうか?」
「罪だとする狂信者もいるが、俺は馬鹿は罪ではないぐらいに無信仰も罪ではないと思っている。この俺は許す。流石にここが嫌だと言うのなら一つ前の普通の連隊に配属させてやるが」
男は首を振った。それでは駄目だ、と。龍の討つ位置は、そこではない。
「是非とも罪人連隊に配属いたしてください」
「懲罰隊だ。しかし呆れた前代未聞だぞ。無罪の身でありながらその隊を希望するとは」
無罪? この身のどこに罪が無いと言うのか、と男は思うと同時にもう一つの罪を考える。この国における龍を殺すのは、どれほどの罪なのであろうか?
「是非ともその隊に配属していただきたい」
「まっそこまでお望みなら反対はせん。手続きをしておけ。それはそうとな、お前の名前はなんだ?」
問いを聞くと男の身体は固まり、瞬きすらしなくなり、死が訪れた。
「どうした西からやってきた無信仰者。答えないのならこう呼ぶしかないが、これでは困るだろ。さぁ名乗ってくれ。その自分の名前をな」
意識が暗いところに落ちて行くなかで男は声を思い出した。君は……君は……あの声と言葉から自分の魂には名が刻まれた。
ならばその言葉をそのまま、とはじめて息を吸うように深く吸い、はじめて息を吐くように強く、産声の如く、はじめて目覚める如くに
「ジーナだ」
声量に押されたのか二人が後ずさりをするが構わず、続けた。
「私の名前はジーナだ」
二重の声が頭の中で響き渡らせると同時に使命の叫びが全身を駆け巡り血を熱くさせる。
『私は龍を討つものだ』
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