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第二章 なぜ私ではないのか
私がいますからね
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ヘイム宛の報告書にはどこまで書いていいのだろうか? 龍の間のは駄目だろう。近衛隊との戦闘も良くないのかもしれない。だとしたらいったいなにを書けば……そもそもこの手紙はいつまで書けばいいのか?
前線の様子を報告するという名目である以上は戦争が終われば前線という概念が無くなりヘイムは中央に座り、その必要性がなくなる。
次ので最後になるのかもしれない。いや戦後は中央の修復が長期間になるかもしれない。
そうなったらまだ報告は必要かもしれないし、そちらの方だったら書くものが沢山あっていい……どうしてお前はそんなことを考える?と心の片隅から叫びが届いた。
けれども反発するようにその思いは姿を現した。もしも自分がジーナでなかったら……やめろと声が近づいてくる。
この使命がなかったとしたら……やめろと声がすぐ傍に来る。そうしたらヘイムもハイネも不幸にはならず……やめろという声は鈴の音と重なり相殺され共に消えた。
「一息入れます。呼吸だけして整えてください。あと少しです。重圧も一定のもの収まりつつあります。これが偽龍の限界なのでしょう。これならば行けます!」
ルーゲンの励ましに隊員達は明るい表情となり呼吸を整えている。ルーゲンはジーナの隣まで来て小声で話しかけてきた。
「ジーナ君。余計なことをたくさん考えていますね」
「聞こえたのですか?」
驚きつつ敢えて聞いたみたがルーゲンは冗談だと受け止め否定した。
「表情は雄弁でもある。それにしても我々には無思考になるのに君は逆に複雑思考になるとはね。」
「もともとそうですが異様に色々なことを考え出してしまって……もしかしてそれも龍の力で?」
「そうだと考えてもいいでしょう。けれども余計なことは考えてはいけません。ここで今一度確認しましょう。第二隊の使命とは、なんです?」
「この先にいる龍を討つためです」
ルーゲンは目を合わせて来てジーナの眼が微動だにしないことに安心したのか肩を叩いた。安らぎがそこにあった。
「君らしく単純明快です。それ以外の思考は必要ありません。もしかしたら龍は君の思考に攻撃をしているのかもしれません。身体に効かないなら主に心に向けて。そう重圧は身体にだけではなく心にもかかっている。気を付けて。敵は心に居ます」
ジーナはそれを聞くとルーゲンの肩に手を置く。細いながらも硬い感覚が手に触れた。
「私自身の心との戦いとも言えるか」
「それは我々も同じです。この錫杖の音で気を取り戻さないとそのまま自分を見失ってしまう。ただし連続で鳴らすことはできません。力を溜めているその間こそは己との戦いです」
「……まるで試練ですね」
呟きに答えず微笑み返したルーゲンは錫杖を軽く鳴らした。
「階段を昇り切り扉の前になりましたら鈴を鳴らします。それまで、力を振り絞ってください。偽龍の力の限界を超えましょう」
再び行動が開始され一段昇るごとに不快な心の声が大きくなりジーナは龍の代わりにハイネのことを考えることにした。異なる苦しみを思い甦らせる。
攻撃が開始される前から向うは忙殺されたのか出会う頻度は無くなっていた。ジーナもまた待機と準備のために関係者以外と会うことも絶えてなくなる。もともと人に会いたがる質ではないためにそのままずっと。
だがある日、珍しく一人で書類を、いや手紙を書いている最中に連絡なしにハイネがテントの中に入ってきた。ノックも挨拶もせず。
嫌な雰囲気を纏っているとジーナは手紙を書きながら顔をあげずにそう感じた。
空気が唸り濁り、重くなる。だから声を掛けなくても誰が入ってきたか分かった。そして顔をあげる必要が無いことも。
「あなたのようですね」
「私以外にいないだろ」
主語が無いのに即座に応えられた。あなたが、龍を討つ任務を降されたのだと。
「私には話してくれなかった」
「機密事項だ」
「私には話したくない」
「機密事項だと」
「機密事項でなくても私には話さなかったのではありませんか?」
今度は間が生まれあたかもそれは真実を語っているような感じがしジーナは怒りを覚えた。
沈黙に代弁させているわけではない。
「どうしてハイネにそのことを話さないといけないのか」
「私は反対しているわけではありません。ただ私には話して貰いたかっただけなのですよ」
足音が一歩二歩鳴り近づいてくるのが分かるもジーナは顔をあげない、あげてはならないと言いきかせながらうつむき、手紙を書く。
足が止まり、隣に立っているにも拘らずジーナは横すら見ない。気取られないように手だけは動かしひたすら手紙を書いていなければならない。
ゆっくりでもすこしでも、ハイネがいる間は止めてはならない。
「それでも……私がいます。私がいますからね」
「あぁ、そこにいるな」
「そういうことではないのですが、いいです。実にあなたらしい」
また無言が辺りに広がり身体の中にまで浸透し筆の動く音しかしなくなった。
筆の音が無くなったら闇が来て死が訪れそうな、そんな中で言葉はやはり不意を打ち油断をさせない。
「顔をあげないのですね」
「今は手紙を書かないといけないので顔をあげてみる暇がない」
「いいえ手紙が無くても見たくはないのですよね」
あげては駄目だという意思が手を止めないのかまたは意識と身体が分離しているのか、手から指先へ筆先から綴られる字には歪みも狂いもなかった。
字は勝手に書かれている。頭の中はハイネのことでいっぱいだというのに。見ることができない。
「なんです? そうやってわざとそんな態度をとって気を取ろうということですか? 小賢しいやり口ですね? あなたらしくもない。誰かの入れ知恵ですか?」
「私がそういう小器用なことができると思うか」
「案外……」
言葉が途切れたままハイネは少しだけそこにいた後に微かな足音と共に去っていきそれと同時に手紙は書き上がっていた。
そのヘイム宛の手紙を見ながらジーナの身体が固まり、意識は今へと階段へと帰って来る
一段とまた一段とあがりながらこの間に得た罪についてジーナは考えた。
何故あそこまで人の優しさを無下にできるのか? ハイネに対してそうしなければならない理由はあるのか? 自問するまでもなくジーナにはそれがあった。
龍を討ったら私はこの世界にいてはならない。
そのことはハイネとは無関係であり、私とジーナとの関係だけである。ジーナは龍を討ち故郷へ帰る。
それだけであり、それ以外になく、そのこと以外に私の心には何も無い。あってはならない。
だからハイネとは……だが、ここまでしなければ断ち切れないほどのものなのかと?
姿を見るどころか眼を見ることも優しい声をかけることすらしてはならない相手なのだと?
考えなくていい、とジーナは自分に言い聞かせる。それ以上何も考えなくていい。
そう龍を倒すこと以外のことなどなにも……龍を倒したとしたら自分はこの世界から一線を超える。
その時からその後の世界において私は……そのことを思うとジーナの頭には声が湧き起り響く。
欠けていた言葉が繋ぎ合わさり言葉を加え答えとして耳へと甦る。
『あなたがあれを討ったとしても……それでも』
うるさい黙れ、いなくてもいい、来なくてもいい、私の傍に寄らなくていい、想像してはならない、否定しなければならない。
そのイメージを……たまに頭の中に浮かび上がるそれは想像とはその妄想とは、印を帰る旅に彼女がいて、迎えに来たアリバと共に砂馬の馬車により、砂漠を越え西へ向かう、そのようなことはあってはならない……
鈴の音が鳴り、妄念が流され消滅する。すると音色から生まれたように扉が現れ、ジーナは扉の前に立った。龍の間にある扉と同じ模様。
「みなさん、この先に龍がいます」
隊員達は恐怖の為か足が半歩下がったように感じるもルーゲンがすかさずその脚を取った。
「ここからは、何もせずには帰れません。武器を持ち龍の間に入り扉の前に立った以上、既にその身の罪は極限に近いものです。扉に背を向け駆け降りようとしても鈴の音が無き状態では膨れ上がった信仰心が龍の重圧に負け破裂し、身体が硬直し階段を転がり落ちて階下に死体となって横たわるでしょう。いわばここは絞首台の頂上です。首に縄が掛けられている状態であり、もう後戻りはできません。我々の為すべきことはただ一つです、ただ一つ……」
息が切れたのかルーゲンは言葉を失い呼吸を整えようとしている間にジーナはあとを引き取った。
「ルーゲン師の言葉の続きだが、第二隊はこれより龍を討ち、罪を滅し故郷に帰る、それだけだ、以上。まっここまで苦労したのだから早く片付けて褒美をたくさん貰って帰ろうか」
言った瞬間ジーナは久しぶりに故郷を思い出した。次の季節は収穫祭が行われ肉を食べ……想像の中にアリバはともかくハイネもいてジーナは自分のしょうこりもない妄想に失笑しながら首を振ると隊員達も釣られて微笑んだ。
彼らはジーナのその心中は知らないがいまのはたぶん冗談を言ったのだと受け止める。
冗談になっていないがあの隊長がここに来て冗談を言うなんて……内容よりもその心に隊員達は微笑みそして思った。
これが本当に最後の戦いなのだと。
「最後の仕事だ。みんな、行こうか」
隊員達が頷くと同時に頷いたルーゲンが錫杖を床に叩いた。
「鈴の音の残響の中で開いてください」
隊員全員が扉に手をあて力を込めて押すと、いとも容易く扉が開きその先にある闇が眼前に現れるに伴って、薄らとずっと漂わせていた不快な臭いが濃くなり鼻孔を突いた。
龍はいるとジーナはすぐに分かった。おまけに負傷していると。しかもかなりの深手であると。
先頭にジーナが入り前へ進むと後方からルーゲンの声がした。
「龍の座は部屋の角や壁際ではなく、中央にあります」
言われなくてもジーナには臭いの位置でそれが分かり、歩き出したその中央に、または世界の中心へと。
懐かしきその存在の元へ。
前線の様子を報告するという名目である以上は戦争が終われば前線という概念が無くなりヘイムは中央に座り、その必要性がなくなる。
次ので最後になるのかもしれない。いや戦後は中央の修復が長期間になるかもしれない。
そうなったらまだ報告は必要かもしれないし、そちらの方だったら書くものが沢山あっていい……どうしてお前はそんなことを考える?と心の片隅から叫びが届いた。
けれども反発するようにその思いは姿を現した。もしも自分がジーナでなかったら……やめろと声が近づいてくる。
この使命がなかったとしたら……やめろと声がすぐ傍に来る。そうしたらヘイムもハイネも不幸にはならず……やめろという声は鈴の音と重なり相殺され共に消えた。
「一息入れます。呼吸だけして整えてください。あと少しです。重圧も一定のもの収まりつつあります。これが偽龍の限界なのでしょう。これならば行けます!」
ルーゲンの励ましに隊員達は明るい表情となり呼吸を整えている。ルーゲンはジーナの隣まで来て小声で話しかけてきた。
「ジーナ君。余計なことをたくさん考えていますね」
「聞こえたのですか?」
驚きつつ敢えて聞いたみたがルーゲンは冗談だと受け止め否定した。
「表情は雄弁でもある。それにしても我々には無思考になるのに君は逆に複雑思考になるとはね。」
「もともとそうですが異様に色々なことを考え出してしまって……もしかしてそれも龍の力で?」
「そうだと考えてもいいでしょう。けれども余計なことは考えてはいけません。ここで今一度確認しましょう。第二隊の使命とは、なんです?」
「この先にいる龍を討つためです」
ルーゲンは目を合わせて来てジーナの眼が微動だにしないことに安心したのか肩を叩いた。安らぎがそこにあった。
「君らしく単純明快です。それ以外の思考は必要ありません。もしかしたら龍は君の思考に攻撃をしているのかもしれません。身体に効かないなら主に心に向けて。そう重圧は身体にだけではなく心にもかかっている。気を付けて。敵は心に居ます」
ジーナはそれを聞くとルーゲンの肩に手を置く。細いながらも硬い感覚が手に触れた。
「私自身の心との戦いとも言えるか」
「それは我々も同じです。この錫杖の音で気を取り戻さないとそのまま自分を見失ってしまう。ただし連続で鳴らすことはできません。力を溜めているその間こそは己との戦いです」
「……まるで試練ですね」
呟きに答えず微笑み返したルーゲンは錫杖を軽く鳴らした。
「階段を昇り切り扉の前になりましたら鈴を鳴らします。それまで、力を振り絞ってください。偽龍の力の限界を超えましょう」
再び行動が開始され一段昇るごとに不快な心の声が大きくなりジーナは龍の代わりにハイネのことを考えることにした。異なる苦しみを思い甦らせる。
攻撃が開始される前から向うは忙殺されたのか出会う頻度は無くなっていた。ジーナもまた待機と準備のために関係者以外と会うことも絶えてなくなる。もともと人に会いたがる質ではないためにそのままずっと。
だがある日、珍しく一人で書類を、いや手紙を書いている最中に連絡なしにハイネがテントの中に入ってきた。ノックも挨拶もせず。
嫌な雰囲気を纏っているとジーナは手紙を書きながら顔をあげずにそう感じた。
空気が唸り濁り、重くなる。だから声を掛けなくても誰が入ってきたか分かった。そして顔をあげる必要が無いことも。
「あなたのようですね」
「私以外にいないだろ」
主語が無いのに即座に応えられた。あなたが、龍を討つ任務を降されたのだと。
「私には話してくれなかった」
「機密事項だ」
「私には話したくない」
「機密事項だと」
「機密事項でなくても私には話さなかったのではありませんか?」
今度は間が生まれあたかもそれは真実を語っているような感じがしジーナは怒りを覚えた。
沈黙に代弁させているわけではない。
「どうしてハイネにそのことを話さないといけないのか」
「私は反対しているわけではありません。ただ私には話して貰いたかっただけなのですよ」
足音が一歩二歩鳴り近づいてくるのが分かるもジーナは顔をあげない、あげてはならないと言いきかせながらうつむき、手紙を書く。
足が止まり、隣に立っているにも拘らずジーナは横すら見ない。気取られないように手だけは動かしひたすら手紙を書いていなければならない。
ゆっくりでもすこしでも、ハイネがいる間は止めてはならない。
「それでも……私がいます。私がいますからね」
「あぁ、そこにいるな」
「そういうことではないのですが、いいです。実にあなたらしい」
また無言が辺りに広がり身体の中にまで浸透し筆の動く音しかしなくなった。
筆の音が無くなったら闇が来て死が訪れそうな、そんな中で言葉はやはり不意を打ち油断をさせない。
「顔をあげないのですね」
「今は手紙を書かないといけないので顔をあげてみる暇がない」
「いいえ手紙が無くても見たくはないのですよね」
あげては駄目だという意思が手を止めないのかまたは意識と身体が分離しているのか、手から指先へ筆先から綴られる字には歪みも狂いもなかった。
字は勝手に書かれている。頭の中はハイネのことでいっぱいだというのに。見ることができない。
「なんです? そうやってわざとそんな態度をとって気を取ろうということですか? 小賢しいやり口ですね? あなたらしくもない。誰かの入れ知恵ですか?」
「私がそういう小器用なことができると思うか」
「案外……」
言葉が途切れたままハイネは少しだけそこにいた後に微かな足音と共に去っていきそれと同時に手紙は書き上がっていた。
そのヘイム宛の手紙を見ながらジーナの身体が固まり、意識は今へと階段へと帰って来る
一段とまた一段とあがりながらこの間に得た罪についてジーナは考えた。
何故あそこまで人の優しさを無下にできるのか? ハイネに対してそうしなければならない理由はあるのか? 自問するまでもなくジーナにはそれがあった。
龍を討ったら私はこの世界にいてはならない。
そのことはハイネとは無関係であり、私とジーナとの関係だけである。ジーナは龍を討ち故郷へ帰る。
それだけであり、それ以外になく、そのこと以外に私の心には何も無い。あってはならない。
だからハイネとは……だが、ここまでしなければ断ち切れないほどのものなのかと?
姿を見るどころか眼を見ることも優しい声をかけることすらしてはならない相手なのだと?
考えなくていい、とジーナは自分に言い聞かせる。それ以上何も考えなくていい。
そう龍を倒すこと以外のことなどなにも……龍を倒したとしたら自分はこの世界から一線を超える。
その時からその後の世界において私は……そのことを思うとジーナの頭には声が湧き起り響く。
欠けていた言葉が繋ぎ合わさり言葉を加え答えとして耳へと甦る。
『あなたがあれを討ったとしても……それでも』
うるさい黙れ、いなくてもいい、来なくてもいい、私の傍に寄らなくていい、想像してはならない、否定しなければならない。
そのイメージを……たまに頭の中に浮かび上がるそれは想像とはその妄想とは、印を帰る旅に彼女がいて、迎えに来たアリバと共に砂馬の馬車により、砂漠を越え西へ向かう、そのようなことはあってはならない……
鈴の音が鳴り、妄念が流され消滅する。すると音色から生まれたように扉が現れ、ジーナは扉の前に立った。龍の間にある扉と同じ模様。
「みなさん、この先に龍がいます」
隊員達は恐怖の為か足が半歩下がったように感じるもルーゲンがすかさずその脚を取った。
「ここからは、何もせずには帰れません。武器を持ち龍の間に入り扉の前に立った以上、既にその身の罪は極限に近いものです。扉に背を向け駆け降りようとしても鈴の音が無き状態では膨れ上がった信仰心が龍の重圧に負け破裂し、身体が硬直し階段を転がり落ちて階下に死体となって横たわるでしょう。いわばここは絞首台の頂上です。首に縄が掛けられている状態であり、もう後戻りはできません。我々の為すべきことはただ一つです、ただ一つ……」
息が切れたのかルーゲンは言葉を失い呼吸を整えようとしている間にジーナはあとを引き取った。
「ルーゲン師の言葉の続きだが、第二隊はこれより龍を討ち、罪を滅し故郷に帰る、それだけだ、以上。まっここまで苦労したのだから早く片付けて褒美をたくさん貰って帰ろうか」
言った瞬間ジーナは久しぶりに故郷を思い出した。次の季節は収穫祭が行われ肉を食べ……想像の中にアリバはともかくハイネもいてジーナは自分のしょうこりもない妄想に失笑しながら首を振ると隊員達も釣られて微笑んだ。
彼らはジーナのその心中は知らないがいまのはたぶん冗談を言ったのだと受け止める。
冗談になっていないがあの隊長がここに来て冗談を言うなんて……内容よりもその心に隊員達は微笑みそして思った。
これが本当に最後の戦いなのだと。
「最後の仕事だ。みんな、行こうか」
隊員達が頷くと同時に頷いたルーゲンが錫杖を床に叩いた。
「鈴の音の残響の中で開いてください」
隊員全員が扉に手をあて力を込めて押すと、いとも容易く扉が開きその先にある闇が眼前に現れるに伴って、薄らとずっと漂わせていた不快な臭いが濃くなり鼻孔を突いた。
龍はいるとジーナはすぐに分かった。おまけに負傷していると。しかもかなりの深手であると。
先頭にジーナが入り前へ進むと後方からルーゲンの声がした。
「龍の座は部屋の角や壁際ではなく、中央にあります」
言われなくてもジーナには臭いの位置でそれが分かり、歩き出したその中央に、または世界の中心へと。
懐かしきその存在の元へ。
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