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第3部 私達でなければならない

『印』

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『お前にこれを授ける。どうか身体に刻んでくれ』

「そう言うのならあなたが私にそれを刻んでください。私はこれから西に行き二度とあなたに会うことはないのだから。永遠に、です。ならばせめて一度でも、今だけでもあなたの指先で私に触れてください」

『すまない……このようなことを命じてしまって。よりによってお前に』

「謝らないでください。それはあなたではない。私は西に行きましたらあなたのことを忘れます。忘れてしまいます。ただその使命だけを記憶しあなたに捧げるでしょう。名も命も力も、それになるあなたのために」

『そうだ俺はあれになる。だからこの俺は君に許す。私と同じ力を持つことを、そしてそれは……俺をすら討つことができる力だということだ』

「私はそんなことは決してしない。そうするぐらいなら私は自分でこの身に剣を貫き通します」

『それは俺が許さない。この使命と力と与えるのだから、このぐらい当然のことだ。俺も捧げなくてはならない、その使命に。それを背負う君に許可を与える。その任に非ざれば、俺は望む。龍を討つその力で以って、滅ぼされることを。もう時間が無い。だから手を』

「いいえ頬にそれを。一目見て最初に見える場所に。もしもその時が訪れてしまったらあなたが私にすぐに気づくように。もう一度、永遠の先があるとしたら……姿形の全てが変わったとしても、私だと気づけるために。気づいてもらいたいがためにです。私は今のこの心をこれから忘れてしまうのだから」

『……分かった。その時が来ないことを願いつつ再会の時を、待とう』

「約束したのなら、もうこれ以上語り合うことはありません。どうかあなたのその手で私の頬に印を刻んでください」
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