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第3部 私達でなければならない
『剣の記憶』
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青い光の中に入り階段を降りると途中で光が消え階段は塞がりました。
閉じ込められた? と気になったので再度戻ると、また光り出したので安心をしました。
どうやら剣が出入口の鍵みたいなもののようでこの未知なる洞窟に入るような緊張感はあるものの、結局は龍の休憩所の内部。
勝手知ったるというよりも龍の庇護下に最も近いということもあり、私はどこか楽観的な気分で階段を降りていった。
当然のことながら薄暗いもののランタンを手にして歩けば昼間同然の光景となり、こんな閉ざされた空間であるのにどこからか光が入って来る構造に驚きました。
古い階段にはどこも欠落も崩落もなく今も頑丈なまま私を迎えているようであり、そのせいか私は延々と長い階段を順調に降りていくこととなった。無限のように降っていくだけ。
螺旋階段を降りると扉があり鍵は開いているものの恐る恐る開いてみると、そこには無数の、壁一面の扉の光景が広がり思わず悲鳴がでました。
その数を数えてみるも二十を超えたあたりで、やめにしました。
そういうことか……と私は不可解さがあるもののそれを受け入れ納得する。
私が入ったのは、出口ではなく入口であったのだと。
いま開いた扉以外は全て偽物であり、何があるのかはまるで不明。
確かめる必要もなく、罠か壁とあるいは永遠にどこにも辿り着けない道を案内されてしまうかもしれない。
だから私は自分がいま開けた扉を凝視し、忘れないようにした。というかナイフで分かりにくい場所に印もつけた。扉に傷をつけ確認。
これで帰れる、と。まぁ帰れればの話だけど。さらに下に行く階段を降りていくとまた扉があり、これもまた同じように開けてみると、案の定そこにも同じような空間と扉が……なんのために?
普通に考えればそれは侵入者を防ぐためでもあるのだろう。けれどもそうでない何かの偏執的な意図を私は感じはじめた。
いまの私はとても冷静だ。しかしもしもこれが逃走中であったとしたら、慌てている時だとしたら。
ランタンといった光を持たずにここに入って降りてきたとしたら……もう戻れない。
正しい扉がどれかなんてわからない。扉をよく見て覚え傷をつけるなんてことはできないだろう。
これらは降りてきたものを戻れなくさせるためでもあるのでは? そう私は思いつつまた扉の片隅に印をつけその扉の色をよく覚えることした。
一度入ったら二度とは戻れない、まるで脱出路であり、そうであるのなら良いアィディアだと感心さえしました。
二重の扉を通り過ぎるとその後は扉は存在しなくなり螺旋階段を降りていくだけ。緩やかなカーブの作りであり疲労感はないものの、どのくらい降りたかという感覚は徐々に失われている気がしていた。
感覚的に言うといまは地上では門番がいるところか? するとあの扉の場所はいま思うといつもの休憩所のところになるのでは?
私がいないことについてちょっとした騒ぎになってはいるものの、もう予定は全て決定されているのだから問題はないだろう。
龍身様も姉様も私の不在の理由はすぐに察してくれるはず。そうです、私はジーナを捕えに来ました。
姉様の提言を龍身様は聞き入れ地下迷宮を目指して各隊が入っていった。
彼がいた第二隊が先頭に入り続いて各隊が。これまで不可侵領域であった迷宮ですので慎重を期しての捜索となりましたが、ある意味で私はその捜索の邪魔をすることとなりそうです。私以外の誰にも彼を捕まえさせはしない。捕えるのはこの私の手で。
その目的のためだとしたらさっきのあの扉はとても使えそうだと思えます。
どれが正解なのかは私以外に、もう分かりません。つまりここに彼を入れられたら、もはや監獄同然。
地下迷宮とここがどう繋がっているのかは不明ですが、最悪あの二つの扉の場に連れていき閉めてしまえれば、もうどこにも行けはしない。
既に最後の儀式は全てのシステムを発動させて開始している。誰にも止められない。
止められる可能性があるとしたらここを通って龍の広場に行くことのみ。
だけども私がここにいて姉様が広場にいるとしたら、もう詰みです。地下迷宮も増員がかかればそこから逃げ出すことも不能。
ジーナは自分の隊員に捕まるかそれとも私に掴まるかの二択なら、私に掴まる方を選ぶでしょう。
いいや、選ばせる。あなたに選択の余地はありません。
おっ階段の空気が一段と冷えてきた。これは地下へと入ったことを意味するのか?
となるともう地下迷宮と同じ階に入るということ。ジーナのところに近づいているということか。
そう、私が捕えたとしたらまず説得はしますけれど、そこには期待しない。
この状況下ではあの人は私の言葉を聞かないでしょう。聞くはずがない。今までがそうだった。
もう私からの言葉は、無い。あるのは状況の変化を待つだけ。そうすれば彼も考えを変える。いいえそれだけではない。
彼は記憶を失うという可能性だってあるというもの。彼が求めている存在が消えていなくなる、それはもうじきなのだから。
最後の儀式を経てヘイム様が消え祭壇所に完全なる龍が現れたら、ここから出るとしましょう。
彼の様子次第ではそのまま龍にお会いしても良いかもしれない。
ルーゲン師が龍の婿となり龍の騎士である姉様がいる中でジーナが龍に頭を下げ、許しを乞う……これが最善であるとも思える。
ジーナが龍の力に屈したというのは龍にとってもルーゲン師にとっても安心の材料となり、快くその罪を許してくれるかもしれない。
ここまで上手くいかないまでも、この螺旋階段の踊り場に閉じ込めておくのも良い。
なんにせよ、ジーナ。ここに入ってしまったのならあなたの勝ち目はどこにもありません。
私がいますからね、この私が。あなたを愛するただ一人の私が……もう一人はこの先、いなくなるのですからね……
階段はやがて地下へと到達し私は仄かな闇をランタンで照らしながら歩いて行く。
埃が舞うもののそこは清潔な空間でもあった。過去に誰も踏み入れたことがないような静寂さにも包まれるも、自分がここの初めてだと思えなかった。
その証拠は何もない。床を宙を壁を照らし出しても、人の痕跡はどこにも無い。それでもここはかつて誰かが訪れたことがあるとしか私には思えてならなかった。
そうなるとここは私で二人目となる。何人が入ったかは不明ではあるものの二人三人といった大人数ではないとしたら必然的にそれは一人であり、彼女は……彼女!?と私はここに前回入ったのは男ではなく女だと悟った。
あたりの空気を嗅いでみると……いや残り香なんてあるはずがない。あれは遥か昔の……龍祖の頃の……
えっ? と私は危うくランタンを落しそうになるぐらいの衝撃を受け、その場で立ち尽くした。
瞬間、存在しない記憶が頭をよぎる。それは剣を鳴らしながら必死になって階段を降りていく誰かの記憶が……
見る光景は同じだった。同じ扉に同じ階段同じ闇。何ひとつとして違えずそれは降りていき、ここで立ち止まる。
今と同じ位置に? そこで剣が、鳴った。腰に下げている剣は青い光を放っている。
だから私は剣を抜き辺りを照らした。すると部屋の片隅から青い光が見える。それは四角く扉のような壁で……いや扉だと。
私は剣を鞘に納めそちらへと向かう。ランタンで辺りを見渡すと一面は壁のみであり、他に扉らしきものは見えない。
入口は……いや出口はここだけなのだろう。かつて誰かがここから外に出た。
いったいなんのために? 迷宮を踏破し外に出るとしてもそこは森であり更なる苦難が待っているはず。
森の外を目指したところ中央の外に出るなんて、どうして? 龍から遠く離れるだなんて……
龍から離れる? そう、あなたは龍から離れるために階段を駆けおりていき迷宮を森を抜け、平原へと脱する。
それからあなたは……いいえ私は西へと向かう……なんのために? どうして? あなたは龍と何があった?
私は龍と何があった? 無思考のまま頭の中で次々と思う浮かぶイメージを無抵抗に心を委ねていくと、無意志に手が左頬に当たっていた。
ジーナがよくやる、あの癖。どうしていま私がそれを? もしもこれがジーナと関係のある記憶であるとしたら。
この記憶の持ち主は西へと行き、遥か彼方の西の地に着く。そこは龍の支配の及ばない世界。世界で最も龍から離れた地。
だけどなにかがあり、あなたは再びに東へと向かう砂漠を越え龍の元へと目指す……それはまるで彼のように。
「違う!」
私は声を出して否定した。そんなことはない。馬鹿馬鹿しい全ては私の見た幻だ。妄想だ、有り得ないことだ。
たとえそうだとしても、西へ行ったとは限らない。そもそもジーナとは関係あるとも限らない。
大体この扉の外に迷宮はあるというのか? と私は確認をしたくなり扉に進み扉を押すも開かず引く……あっこれは内開きだと気づいた。
この感じだと外から開くことはできないな、と。やはり出口なのだと確認しながら外に出ると、見覚えのない空間だけれど勘が働く、ここは迷宮であると。
もう少し見たいなと周りを歩き見るも、すぐに戻ることにした。これは迷うに決まっている。
それに中央の城から潜入した兵隊たちと鉢合わせたら言い訳のしようがない。階段を昇らせでもしたら面倒なことになるかもしれない。
ここは身を引くか、と私はさっきの扉に戻るとそこには青い光が輝いており私を待っているようであった。
改めて扉を見るに、それは外見的には扉ではあった。でも色が多少違うだけであり闇に紛れて見えなくなっている……
それにこちらからは開かないためにか取っ手の類は何も無かった。どこまでも引き戻らせない仕様だと私はその念の入れように驚くばかりだった。
青い光があるおかげで迷わずに中に入れるが……思う。ジーナはここに来られるのか? いくらなんでも無理だ。
この暗闇の中でどうやって正確にここまで? この建物の雰囲気からして入口はここの他は有り得ない。
森からの入り口はどこかかは不明だが、すぐ隣ということはないだろうし、そうなった場合は果たして……
あっ声がする。ジーナのではない兵隊たちの声だ。いたぞ、と。ジーナがいるってこと?
そっちだ、こっちだ、と足音が近づいてくる。するとこの付近にいるということ?
扉に耳をつけて音を探っているとひとつの大きな足音が、こっちに向かってくるのが分かった。
誰であるか……そんなことは考える必要なんてないぐらい、明白で、簡単なこと。
その息遣いはあの日と同じ、その足音はあのときと同じ、ジーナが来る。
どうしてここにピンポイントでこられたのかなんて、今はどうでも良くなった。
あなたが私のいるところを目指して駆けて来る……これが全てである他はどうでもいい。
いまはそれ以外のことなんてなんだっていい。そう思っていると足音が止った。
そうだあなたは扉を見つけられない。分かるはずがない。
いや、もしかしたらここまで来れたのだから分かるかもしれないけれど……動きが止まったということは、ほら、分からない。
そうです、あなたはもっと分からないことがあります。ここにこの私がいるということ。
絶対に分かりません。分かるはずもない。はい、あなたはそこで困っていますね。
それっぽいところに着いたけれども、分からないって。わかりませんよ永遠にね。
ついでに扉に私がいるので遂に気が付いて開けようたってそうはいきません。
全体重を扉に傾けさせてつっかえ棒になる所存です。
あなたは、ここにはいれさせない。あれ?'当初の目的はどこに? ……まぁそれでもいいか。少し冷静になって考えましょうか。ここで私が開けて、はいジーナ久しぶり! と言える顔ではありませんね。
こんにちはジーナ、あなたを逮捕します、といって扉を開くのもなんだかおかしい。
一番いいのはあなたがここを開けて中を彷徨っている最中に声を掛けて案内するふりをして捕まえる……これでしたね。
わざわざ私が扉を開けるかどうか……これは少し悩みます。
声の感じからあれは第二隊の隊員達によるもの。これを邪魔して良いものか。
もとはそうするつもりでしたが、さっきのあの頭をよぎった私のではない記憶の流れ……あれは抵抗できないまま受け入れてしまったけれど、考えてみるとこの剣によるものでは? この剣に刻まれた記憶があれだとしたら。
彼が龍に出会ったとしたら、なにかが起こり、過去を繰り返すようにして階段を降りここから迷宮を出て西へ。
龍から遠く、私から遠くへ行ってしまうのでは? 駄目、そんなのは。
そもそもの話……そもそも……この人の頭の中に、いま、私は存在するのだろうか?
閉じ込められた? と気になったので再度戻ると、また光り出したので安心をしました。
どうやら剣が出入口の鍵みたいなもののようでこの未知なる洞窟に入るような緊張感はあるものの、結局は龍の休憩所の内部。
勝手知ったるというよりも龍の庇護下に最も近いということもあり、私はどこか楽観的な気分で階段を降りていった。
当然のことながら薄暗いもののランタンを手にして歩けば昼間同然の光景となり、こんな閉ざされた空間であるのにどこからか光が入って来る構造に驚きました。
古い階段にはどこも欠落も崩落もなく今も頑丈なまま私を迎えているようであり、そのせいか私は延々と長い階段を順調に降りていくこととなった。無限のように降っていくだけ。
螺旋階段を降りると扉があり鍵は開いているものの恐る恐る開いてみると、そこには無数の、壁一面の扉の光景が広がり思わず悲鳴がでました。
その数を数えてみるも二十を超えたあたりで、やめにしました。
そういうことか……と私は不可解さがあるもののそれを受け入れ納得する。
私が入ったのは、出口ではなく入口であったのだと。
いま開いた扉以外は全て偽物であり、何があるのかはまるで不明。
確かめる必要もなく、罠か壁とあるいは永遠にどこにも辿り着けない道を案内されてしまうかもしれない。
だから私は自分がいま開けた扉を凝視し、忘れないようにした。というかナイフで分かりにくい場所に印もつけた。扉に傷をつけ確認。
これで帰れる、と。まぁ帰れればの話だけど。さらに下に行く階段を降りていくとまた扉があり、これもまた同じように開けてみると、案の定そこにも同じような空間と扉が……なんのために?
普通に考えればそれは侵入者を防ぐためでもあるのだろう。けれどもそうでない何かの偏執的な意図を私は感じはじめた。
いまの私はとても冷静だ。しかしもしもこれが逃走中であったとしたら、慌てている時だとしたら。
ランタンといった光を持たずにここに入って降りてきたとしたら……もう戻れない。
正しい扉がどれかなんてわからない。扉をよく見て覚え傷をつけるなんてことはできないだろう。
これらは降りてきたものを戻れなくさせるためでもあるのでは? そう私は思いつつまた扉の片隅に印をつけその扉の色をよく覚えることした。
一度入ったら二度とは戻れない、まるで脱出路であり、そうであるのなら良いアィディアだと感心さえしました。
二重の扉を通り過ぎるとその後は扉は存在しなくなり螺旋階段を降りていくだけ。緩やかなカーブの作りであり疲労感はないものの、どのくらい降りたかという感覚は徐々に失われている気がしていた。
感覚的に言うといまは地上では門番がいるところか? するとあの扉の場所はいま思うといつもの休憩所のところになるのでは?
私がいないことについてちょっとした騒ぎになってはいるものの、もう予定は全て決定されているのだから問題はないだろう。
龍身様も姉様も私の不在の理由はすぐに察してくれるはず。そうです、私はジーナを捕えに来ました。
姉様の提言を龍身様は聞き入れ地下迷宮を目指して各隊が入っていった。
彼がいた第二隊が先頭に入り続いて各隊が。これまで不可侵領域であった迷宮ですので慎重を期しての捜索となりましたが、ある意味で私はその捜索の邪魔をすることとなりそうです。私以外の誰にも彼を捕まえさせはしない。捕えるのはこの私の手で。
その目的のためだとしたらさっきのあの扉はとても使えそうだと思えます。
どれが正解なのかは私以外に、もう分かりません。つまりここに彼を入れられたら、もはや監獄同然。
地下迷宮とここがどう繋がっているのかは不明ですが、最悪あの二つの扉の場に連れていき閉めてしまえれば、もうどこにも行けはしない。
既に最後の儀式は全てのシステムを発動させて開始している。誰にも止められない。
止められる可能性があるとしたらここを通って龍の広場に行くことのみ。
だけども私がここにいて姉様が広場にいるとしたら、もう詰みです。地下迷宮も増員がかかればそこから逃げ出すことも不能。
ジーナは自分の隊員に捕まるかそれとも私に掴まるかの二択なら、私に掴まる方を選ぶでしょう。
いいや、選ばせる。あなたに選択の余地はありません。
おっ階段の空気が一段と冷えてきた。これは地下へと入ったことを意味するのか?
となるともう地下迷宮と同じ階に入るということ。ジーナのところに近づいているということか。
そう、私が捕えたとしたらまず説得はしますけれど、そこには期待しない。
この状況下ではあの人は私の言葉を聞かないでしょう。聞くはずがない。今までがそうだった。
もう私からの言葉は、無い。あるのは状況の変化を待つだけ。そうすれば彼も考えを変える。いいえそれだけではない。
彼は記憶を失うという可能性だってあるというもの。彼が求めている存在が消えていなくなる、それはもうじきなのだから。
最後の儀式を経てヘイム様が消え祭壇所に完全なる龍が現れたら、ここから出るとしましょう。
彼の様子次第ではそのまま龍にお会いしても良いかもしれない。
ルーゲン師が龍の婿となり龍の騎士である姉様がいる中でジーナが龍に頭を下げ、許しを乞う……これが最善であるとも思える。
ジーナが龍の力に屈したというのは龍にとってもルーゲン師にとっても安心の材料となり、快くその罪を許してくれるかもしれない。
ここまで上手くいかないまでも、この螺旋階段の踊り場に閉じ込めておくのも良い。
なんにせよ、ジーナ。ここに入ってしまったのならあなたの勝ち目はどこにもありません。
私がいますからね、この私が。あなたを愛するただ一人の私が……もう一人はこの先、いなくなるのですからね……
階段はやがて地下へと到達し私は仄かな闇をランタンで照らしながら歩いて行く。
埃が舞うもののそこは清潔な空間でもあった。過去に誰も踏み入れたことがないような静寂さにも包まれるも、自分がここの初めてだと思えなかった。
その証拠は何もない。床を宙を壁を照らし出しても、人の痕跡はどこにも無い。それでもここはかつて誰かが訪れたことがあるとしか私には思えてならなかった。
そうなるとここは私で二人目となる。何人が入ったかは不明ではあるものの二人三人といった大人数ではないとしたら必然的にそれは一人であり、彼女は……彼女!?と私はここに前回入ったのは男ではなく女だと悟った。
あたりの空気を嗅いでみると……いや残り香なんてあるはずがない。あれは遥か昔の……龍祖の頃の……
えっ? と私は危うくランタンを落しそうになるぐらいの衝撃を受け、その場で立ち尽くした。
瞬間、存在しない記憶が頭をよぎる。それは剣を鳴らしながら必死になって階段を降りていく誰かの記憶が……
見る光景は同じだった。同じ扉に同じ階段同じ闇。何ひとつとして違えずそれは降りていき、ここで立ち止まる。
今と同じ位置に? そこで剣が、鳴った。腰に下げている剣は青い光を放っている。
だから私は剣を抜き辺りを照らした。すると部屋の片隅から青い光が見える。それは四角く扉のような壁で……いや扉だと。
私は剣を鞘に納めそちらへと向かう。ランタンで辺りを見渡すと一面は壁のみであり、他に扉らしきものは見えない。
入口は……いや出口はここだけなのだろう。かつて誰かがここから外に出た。
いったいなんのために? 迷宮を踏破し外に出るとしてもそこは森であり更なる苦難が待っているはず。
森の外を目指したところ中央の外に出るなんて、どうして? 龍から遠く離れるだなんて……
龍から離れる? そう、あなたは龍から離れるために階段を駆けおりていき迷宮を森を抜け、平原へと脱する。
それからあなたは……いいえ私は西へと向かう……なんのために? どうして? あなたは龍と何があった?
私は龍と何があった? 無思考のまま頭の中で次々と思う浮かぶイメージを無抵抗に心を委ねていくと、無意志に手が左頬に当たっていた。
ジーナがよくやる、あの癖。どうしていま私がそれを? もしもこれがジーナと関係のある記憶であるとしたら。
この記憶の持ち主は西へと行き、遥か彼方の西の地に着く。そこは龍の支配の及ばない世界。世界で最も龍から離れた地。
だけどなにかがあり、あなたは再びに東へと向かう砂漠を越え龍の元へと目指す……それはまるで彼のように。
「違う!」
私は声を出して否定した。そんなことはない。馬鹿馬鹿しい全ては私の見た幻だ。妄想だ、有り得ないことだ。
たとえそうだとしても、西へ行ったとは限らない。そもそもジーナとは関係あるとも限らない。
大体この扉の外に迷宮はあるというのか? と私は確認をしたくなり扉に進み扉を押すも開かず引く……あっこれは内開きだと気づいた。
この感じだと外から開くことはできないな、と。やはり出口なのだと確認しながら外に出ると、見覚えのない空間だけれど勘が働く、ここは迷宮であると。
もう少し見たいなと周りを歩き見るも、すぐに戻ることにした。これは迷うに決まっている。
それに中央の城から潜入した兵隊たちと鉢合わせたら言い訳のしようがない。階段を昇らせでもしたら面倒なことになるかもしれない。
ここは身を引くか、と私はさっきの扉に戻るとそこには青い光が輝いており私を待っているようであった。
改めて扉を見るに、それは外見的には扉ではあった。でも色が多少違うだけであり闇に紛れて見えなくなっている……
それにこちらからは開かないためにか取っ手の類は何も無かった。どこまでも引き戻らせない仕様だと私はその念の入れように驚くばかりだった。
青い光があるおかげで迷わずに中に入れるが……思う。ジーナはここに来られるのか? いくらなんでも無理だ。
この暗闇の中でどうやって正確にここまで? この建物の雰囲気からして入口はここの他は有り得ない。
森からの入り口はどこかかは不明だが、すぐ隣ということはないだろうし、そうなった場合は果たして……
あっ声がする。ジーナのではない兵隊たちの声だ。いたぞ、と。ジーナがいるってこと?
そっちだ、こっちだ、と足音が近づいてくる。するとこの付近にいるということ?
扉に耳をつけて音を探っているとひとつの大きな足音が、こっちに向かってくるのが分かった。
誰であるか……そんなことは考える必要なんてないぐらい、明白で、簡単なこと。
その息遣いはあの日と同じ、その足音はあのときと同じ、ジーナが来る。
どうしてここにピンポイントでこられたのかなんて、今はどうでも良くなった。
あなたが私のいるところを目指して駆けて来る……これが全てである他はどうでもいい。
いまはそれ以外のことなんてなんだっていい。そう思っていると足音が止った。
そうだあなたは扉を見つけられない。分かるはずがない。
いや、もしかしたらここまで来れたのだから分かるかもしれないけれど……動きが止まったということは、ほら、分からない。
そうです、あなたはもっと分からないことがあります。ここにこの私がいるということ。
絶対に分かりません。分かるはずもない。はい、あなたはそこで困っていますね。
それっぽいところに着いたけれども、分からないって。わかりませんよ永遠にね。
ついでに扉に私がいるので遂に気が付いて開けようたってそうはいきません。
全体重を扉に傾けさせてつっかえ棒になる所存です。
あなたは、ここにはいれさせない。あれ?'当初の目的はどこに? ……まぁそれでもいいか。少し冷静になって考えましょうか。ここで私が開けて、はいジーナ久しぶり! と言える顔ではありませんね。
こんにちはジーナ、あなたを逮捕します、といって扉を開くのもなんだかおかしい。
一番いいのはあなたがここを開けて中を彷徨っている最中に声を掛けて案内するふりをして捕まえる……これでしたね。
わざわざ私が扉を開けるかどうか……これは少し悩みます。
声の感じからあれは第二隊の隊員達によるもの。これを邪魔して良いものか。
もとはそうするつもりでしたが、さっきのあの頭をよぎった私のではない記憶の流れ……あれは抵抗できないまま受け入れてしまったけれど、考えてみるとこの剣によるものでは? この剣に刻まれた記憶があれだとしたら。
彼が龍に出会ったとしたら、なにかが起こり、過去を繰り返すようにして階段を降りここから迷宮を出て西へ。
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サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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