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第3部 私達でなければならない
降りましょうか?
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ハイネは微笑んでいた。安らかな笑みであるのに、そこには激情があり、血の臭いがした。
「来てください。案内しますよ」
挨拶も抜きにハイネは歩き出したのでジーナは黙って後ろをついて行くことにする。
漆黒の闇が淡い闇に。眼が慣れたのかそれとも……とジーナはハイネの腰を見ると、剣があった。
そういうことか、とジーナは左頬に触れた。そうか、だから私は迷宮であるのに迷わずに真っ直ぐここにやってこれたのかと気づく。
ここにハイネが近づいたから、ここまでハイネが剣を持ってやってきたからとジーナは思わず頭を下げるも、疑問がすぐに湧いた。
そんな馬鹿なと。ハイネが私を案内すると言ったが、どこに? あの世にか? 世界の終わりに行くとでも?
「階段ですよ。慌てずに昇ってくださいね。古いから壊れているかもしれませんし」
注意をされるが、その声はなんの悪意も含みもなくごく普通のものだった。だから、何か不安になる。
有り得るのは、違う場所に連れていかれること。それは確実にある。ここが正解ではなく誤りだと。
いいや、それこそないとジーナは心の中で首を振る。
間違いなくここが龍の祭壇に繋がる場所であり、その唯一の道だ。ジーナは顔を上げ天を睨む。
螺旋階段の背がどこまでも無限に見えるばかり。見ようによってはそれは龍の腹にも見え、すぐに目を背けた。
自分は龍の元へと近づいている。ハイネの案内によって近づきつつある。
その異様さに現実感を失いそうになりつつ、気を紛らわす為かジーナは辺りを見渡した。
明るくはないが暗くはない、闇ではないが光でもない、その中間の世界。狭間の時と空間。
螺旋階段はそんなあやふやな光彩の世界の中に入っていくようなそんな装置とさえジーナには思えた。
それは印の力によるものか? そうかもしれない。ハイネもひょっとしたら剣を持つことによってその力を得て、この中途半端な光と闇の世界を問題なく歩いていけているのかもしれない。
しかしそれにしてもハイネは黙っている。黙々と歩いている。不気味なほどに、いや、違う、もともとこういう感じだ。
それにハイネは変だというのなら、それは自分がおかしいだろう。あの扉の向こう側に彼女がいてそれに驚くも、慌てずそれを受け入れ、何も聞かない……妙だ。これはある意味でハイネならいてもおかしくはないという異様さの許容なのでは?
さっきも疑問に思ったが彼女は私を本当にそこに連れていくのか……そんな信頼があってたまるものか。
ここは確認しなければならない、が何と言えばいいのか? ハイネ、私を龍の祭壇所まで案内してくれ。と頼んだら、はいジーナ私に任せて……そんなことを言う女なわけないだろうに。そう尋ねたら返ってくるのは、これだ。
嫌ですよジーナ。私を誰だと思って? 私が連れていくのは、監獄です。
当たり前の当然である。それだというのに何をホイホイ素直に引っ掛って付いて行くのだ? この馬鹿の間抜けは。
お前みたいに頭の悪い男は今まで見たことがない。恥を知れ恥を。
そらハイネだって機嫌よく案内するものだ。こんなに素直についてくる罪人なんざどこにもいやしない。これだったら余計な口は利かないに限る。罠にかかった獲物を慎重に籠の中にいれる感じに似ている。
そうだ、それだ、だから……とジーナは頭をフル回転させて、事の真実に至ったと思い言った。
「ハイネ」
ジーナは呼びかけるとハイネは振り返り微笑みかけた。全くの邪気を感じさせずそれどころから微光さえ放っているその輝き。
そうであるからジーナは不安を深めた。いまお前が私にそういう笑みを浮かべる状況ではないだろうに。
「なんですかジーナ」
「私をどこに連れていく気だ」
考えるのがもはや耐えられず面倒になりジーナは包み隠さずに言ってしまうとハイネは失笑した。
だがそれすらも悪意の欠片を見ることも感じることもできずジーナは思ってしまう。
もしかしてそう感じるのは自分の目が何かの理由で濁っているのではないか。
「どこって……嫌ですねジーナ。私はあなたをですね、その望んでいる場所へ案内しているのですよ」
「……なら私の行きたいところとはどこなんだ?」
我ながら妙な問いだなとジーナは違和感を覚えた。これは何を問うているのか?
それは向うにも伝わったのかハイネから微笑みが消え、真顔となってジーナを見る。
「あなたが望み行きたいところ」
それは、どこだ? そんなことは問うまでもないのに、私はひとつの間を置いてしまった。
その一瞬に全身に恐怖がよぎりどうしてか死を想像させた。
私はいま、死ぬのか?とジーナは息を吸い、吐くと同時に言った。
「龍のところだ」
「ヘイム様のところです」
二つの異なる声が言葉が交錯すると、ジーナの身体がよろめいた。
何故、よろめく? とジーナは思うも足はふらつき階段を一歩下に降りた。
降りる? いったいどこに行くつもりなんだ? はじめて、引き下がった。どこに? 何に対して? 私は下がろうとするのか?
もう一歩というところで手が掴まれその場で停止する。ハイネの熱が直接手に伝わり、それは胸の奥に来た。
低熱であるのに、身体に心に染み込み、自分の身体がこんなに冷えているのだということを知らせてくれるその熱。ハイネの火。
「大丈夫ですかジーナ?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとうハイネ」
「どういたしまして。なんです急によろめいてしまって……私、何か、言いましたか?」
同じ微笑みをこちらにむけてきたが今度は邪気が滲み出ており、ジーナは安心した。
元に戻ったと。戻ったところでなんだということもないがそれでもジーナの胸の動悸は治まった。
「そうだハイネ。私は龍の元にヘイム様のもとに行くわけだが……」
そう言うとハイネの周辺の闇が濃くなり空間が歪んでいるようにジーナには見えた。
だがジーナはそう、それでいいとまた安心しつつ言葉を続ける。
私の意思と言葉がお前と一緒になることなど、有り得ないのだから。
「そうだというのに、どうしてお前がその案内をするというのだ?」
「罠で、あると?」
「そうだ。お前は私を罠に掛けようとしている。忠実なる龍の側近がこの叛逆者である私を逮捕せずに親切に道を案内する、そんなことがあるはずがない」
「あるはずはないと言いますが、現にあるじゃないですか?」
「だからこれはなんらかの意図があってやっていることだと」
またハイネが笑う。今度は嘲笑じみたものであり演技がかっていた。余裕のある笑み、私を捕えているかのように。
「フフッいつも通り疑り深いですねジーナって。逃亡生活が続きましたからそうなるのも無理はありませんが、なら、やめます?」
やめる、と聞きジーナは内心焦るとその心を見透かしているようにハイネの笑みはまた一段と暗く濃くなる。
「やめる……?」
「はい、やめましょうか? 階段を昇るのをやめて降りるのです。で、さっきの迷宮に戻って第二隊の方々にお会いします。この中にジーナがいますからどうぞ捕まえに行ってくださいなと。そうすればあなたも安心しますよね? やっぱりハイネは私を罠にかけて捕まえようとしていたのだって。俺の予想は正しかった。そうだあの女は信用できない、敵だ。そうだそうだこれで良かった……と皆に捕まって監獄に放り込まれている間にそう思って満足してください。では行きますね」
そう言いながらその身を翻し階段を降りようとするハイネはどこか軽薄で背に羽が生えたようにヒラヒラと舞うようにして階段を降り、ジーナの隣を通り過ぎろうとしたその刹那、男は全身の血管に熱を感じながら反射的に叫んだ。
「待て」
ジーナはハイネの右腕を腕を掴み、動きを止める。
その掴んだ腕は熱した鉄のように熱く、ハイネの顔は妖光を放ち一瞬恍惚とした笑みを浮かんだようにジーナには見えたが、瞬きと共にそれは消えていた、幻か? その顔その次の声は、冷ややかなものであった。
「離しなさい」
「行くな」
息苦しさのなかジーナはそう告げるとハイネはまた嘲笑いながら目を背けた。
「行けと言ったのはあなたじゃあないですか」
「言ってはいない」
苦しみの中訴えるもハイネはそんなこと知らないと言わんばかりに虚空に目をやるばかりであった。
「そう言っているのも同じなんですけど……」
「そのハイネのことは信用できないが……いまは頼るしかない。頼む、私を案内してくれ」
ジーナがそう言うとハイネは無言のまま背を向けなにもない薄闇を見上げる。
顔は見えないが遠くを見ているようにジーナには思えた。ハイネが遠ざかっていく……そう感じると笑い声が響いた。
嘲笑と同じ音であるのにさっきのようにジーナに胸にはそれが届かない。
それではお前はいったい何に対して笑っているんだ? そんな大声で、そんな痛々しく、そんな不快な声を……やめろ
「そんなことをするな」
「来てください。案内しますよ」
挨拶も抜きにハイネは歩き出したのでジーナは黙って後ろをついて行くことにする。
漆黒の闇が淡い闇に。眼が慣れたのかそれとも……とジーナはハイネの腰を見ると、剣があった。
そういうことか、とジーナは左頬に触れた。そうか、だから私は迷宮であるのに迷わずに真っ直ぐここにやってこれたのかと気づく。
ここにハイネが近づいたから、ここまでハイネが剣を持ってやってきたからとジーナは思わず頭を下げるも、疑問がすぐに湧いた。
そんな馬鹿なと。ハイネが私を案内すると言ったが、どこに? あの世にか? 世界の終わりに行くとでも?
「階段ですよ。慌てずに昇ってくださいね。古いから壊れているかもしれませんし」
注意をされるが、その声はなんの悪意も含みもなくごく普通のものだった。だから、何か不安になる。
有り得るのは、違う場所に連れていかれること。それは確実にある。ここが正解ではなく誤りだと。
いいや、それこそないとジーナは心の中で首を振る。
間違いなくここが龍の祭壇に繋がる場所であり、その唯一の道だ。ジーナは顔を上げ天を睨む。
螺旋階段の背がどこまでも無限に見えるばかり。見ようによってはそれは龍の腹にも見え、すぐに目を背けた。
自分は龍の元へと近づいている。ハイネの案内によって近づきつつある。
その異様さに現実感を失いそうになりつつ、気を紛らわす為かジーナは辺りを見渡した。
明るくはないが暗くはない、闇ではないが光でもない、その中間の世界。狭間の時と空間。
螺旋階段はそんなあやふやな光彩の世界の中に入っていくようなそんな装置とさえジーナには思えた。
それは印の力によるものか? そうかもしれない。ハイネもひょっとしたら剣を持つことによってその力を得て、この中途半端な光と闇の世界を問題なく歩いていけているのかもしれない。
しかしそれにしてもハイネは黙っている。黙々と歩いている。不気味なほどに、いや、違う、もともとこういう感じだ。
それにハイネは変だというのなら、それは自分がおかしいだろう。あの扉の向こう側に彼女がいてそれに驚くも、慌てずそれを受け入れ、何も聞かない……妙だ。これはある意味でハイネならいてもおかしくはないという異様さの許容なのでは?
さっきも疑問に思ったが彼女は私を本当にそこに連れていくのか……そんな信頼があってたまるものか。
ここは確認しなければならない、が何と言えばいいのか? ハイネ、私を龍の祭壇所まで案内してくれ。と頼んだら、はいジーナ私に任せて……そんなことを言う女なわけないだろうに。そう尋ねたら返ってくるのは、これだ。
嫌ですよジーナ。私を誰だと思って? 私が連れていくのは、監獄です。
当たり前の当然である。それだというのに何をホイホイ素直に引っ掛って付いて行くのだ? この馬鹿の間抜けは。
お前みたいに頭の悪い男は今まで見たことがない。恥を知れ恥を。
そらハイネだって機嫌よく案内するものだ。こんなに素直についてくる罪人なんざどこにもいやしない。これだったら余計な口は利かないに限る。罠にかかった獲物を慎重に籠の中にいれる感じに似ている。
そうだ、それだ、だから……とジーナは頭をフル回転させて、事の真実に至ったと思い言った。
「ハイネ」
ジーナは呼びかけるとハイネは振り返り微笑みかけた。全くの邪気を感じさせずそれどころから微光さえ放っているその輝き。
そうであるからジーナは不安を深めた。いまお前が私にそういう笑みを浮かべる状況ではないだろうに。
「なんですかジーナ」
「私をどこに連れていく気だ」
考えるのがもはや耐えられず面倒になりジーナは包み隠さずに言ってしまうとハイネは失笑した。
だがそれすらも悪意の欠片を見ることも感じることもできずジーナは思ってしまう。
もしかしてそう感じるのは自分の目が何かの理由で濁っているのではないか。
「どこって……嫌ですねジーナ。私はあなたをですね、その望んでいる場所へ案内しているのですよ」
「……なら私の行きたいところとはどこなんだ?」
我ながら妙な問いだなとジーナは違和感を覚えた。これは何を問うているのか?
それは向うにも伝わったのかハイネから微笑みが消え、真顔となってジーナを見る。
「あなたが望み行きたいところ」
それは、どこだ? そんなことは問うまでもないのに、私はひとつの間を置いてしまった。
その一瞬に全身に恐怖がよぎりどうしてか死を想像させた。
私はいま、死ぬのか?とジーナは息を吸い、吐くと同時に言った。
「龍のところだ」
「ヘイム様のところです」
二つの異なる声が言葉が交錯すると、ジーナの身体がよろめいた。
何故、よろめく? とジーナは思うも足はふらつき階段を一歩下に降りた。
降りる? いったいどこに行くつもりなんだ? はじめて、引き下がった。どこに? 何に対して? 私は下がろうとするのか?
もう一歩というところで手が掴まれその場で停止する。ハイネの熱が直接手に伝わり、それは胸の奥に来た。
低熱であるのに、身体に心に染み込み、自分の身体がこんなに冷えているのだということを知らせてくれるその熱。ハイネの火。
「大丈夫ですかジーナ?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとうハイネ」
「どういたしまして。なんです急によろめいてしまって……私、何か、言いましたか?」
同じ微笑みをこちらにむけてきたが今度は邪気が滲み出ており、ジーナは安心した。
元に戻ったと。戻ったところでなんだということもないがそれでもジーナの胸の動悸は治まった。
「そうだハイネ。私は龍の元にヘイム様のもとに行くわけだが……」
そう言うとハイネの周辺の闇が濃くなり空間が歪んでいるようにジーナには見えた。
だがジーナはそう、それでいいとまた安心しつつ言葉を続ける。
私の意思と言葉がお前と一緒になることなど、有り得ないのだから。
「そうだというのに、どうしてお前がその案内をするというのだ?」
「罠で、あると?」
「そうだ。お前は私を罠に掛けようとしている。忠実なる龍の側近がこの叛逆者である私を逮捕せずに親切に道を案内する、そんなことがあるはずがない」
「あるはずはないと言いますが、現にあるじゃないですか?」
「だからこれはなんらかの意図があってやっていることだと」
またハイネが笑う。今度は嘲笑じみたものであり演技がかっていた。余裕のある笑み、私を捕えているかのように。
「フフッいつも通り疑り深いですねジーナって。逃亡生活が続きましたからそうなるのも無理はありませんが、なら、やめます?」
やめる、と聞きジーナは内心焦るとその心を見透かしているようにハイネの笑みはまた一段と暗く濃くなる。
「やめる……?」
「はい、やめましょうか? 階段を昇るのをやめて降りるのです。で、さっきの迷宮に戻って第二隊の方々にお会いします。この中にジーナがいますからどうぞ捕まえに行ってくださいなと。そうすればあなたも安心しますよね? やっぱりハイネは私を罠にかけて捕まえようとしていたのだって。俺の予想は正しかった。そうだあの女は信用できない、敵だ。そうだそうだこれで良かった……と皆に捕まって監獄に放り込まれている間にそう思って満足してください。では行きますね」
そう言いながらその身を翻し階段を降りようとするハイネはどこか軽薄で背に羽が生えたようにヒラヒラと舞うようにして階段を降り、ジーナの隣を通り過ぎろうとしたその刹那、男は全身の血管に熱を感じながら反射的に叫んだ。
「待て」
ジーナはハイネの右腕を腕を掴み、動きを止める。
その掴んだ腕は熱した鉄のように熱く、ハイネの顔は妖光を放ち一瞬恍惚とした笑みを浮かんだようにジーナには見えたが、瞬きと共にそれは消えていた、幻か? その顔その次の声は、冷ややかなものであった。
「離しなさい」
「行くな」
息苦しさのなかジーナはそう告げるとハイネはまた嘲笑いながら目を背けた。
「行けと言ったのはあなたじゃあないですか」
「言ってはいない」
苦しみの中訴えるもハイネはそんなこと知らないと言わんばかりに虚空に目をやるばかりであった。
「そう言っているのも同じなんですけど……」
「そのハイネのことは信用できないが……いまは頼るしかない。頼む、私を案内してくれ」
ジーナがそう言うとハイネは無言のまま背を向けなにもない薄闇を見上げる。
顔は見えないが遠くを見ているようにジーナには思えた。ハイネが遠ざかっていく……そう感じると笑い声が響いた。
嘲笑と同じ音であるのにさっきのようにジーナに胸にはそれが届かない。
それではお前はいったい何に対して笑っているんだ? そんな大声で、そんな痛々しく、そんな不快な声を……やめろ
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