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1-1 神戸茉莉花編
11. 神戸茉莉花と黒蛇の悪夢⑦
しおりを挟む真面目な顔をしていきなり何を言い出すんだこのロリっ子は……? いやまぁ常に真顔だからその辺りの判別は付かないのだが……。
「な、なんで○ンパンマン……?」
「……負けないから……です……」
「いやだから、詳しく説明してくれない!? もう二次攻撃が目前まで迫ってるんですけどッ!?」
「…………つまり……」
「遅いッ!! もっとテキパキ喋ドボォ゛ォォ゛ォォ゛ォォォォォォーー゛ーー゛!!゛」
言動丸ごとスローリーな夜野崎に痺れを切らしたのか分からないが、巨大な黒蛇が首根っこをグルンと回し再び体当たりを仕掛けて来る。寸前のところで回避するが、またも全身へ伴うダメージ。
「いっだァァ……ッ゛!」
「……理想的な勧善懲悪なのです……どんな苦難に陥っても、最後は必ず勝利する……お前に必要なのはやな○たかしイズムなのです……」
「だから具体的に説明しろっつってんだろ!!」
「……まったく、自分なりに考えるということをする気は無いのですか……まったく……」
再び箒に跨り空中を優雅に漂う夜野崎。
無残にも地面へ横たわる俺とのコントラストは、この夢の中における明確な上下関係を突き付けられるようで激しく不愉快だ……。
(なり切れ……ってことか?)
確かにアンパ○マンというキャラクターは基本的に敗北を知らない。どれだけバイキ○マンの巧妙な罠に引っ掛かっても、最後はパンチ一発で勝利を収める。
つまり夜野崎は、自身をアン○ンマンだと信じ込むことで黒蛇を倒す力を身に付けろ……ということを言いたいのだろうか?
(普通に嫌過ぎる……ッ!)
そりゃさっきは「空を飛びたい」というイメージのもとで参考にさせては貰ったが、わざわざ優先的にチョイスするようなキャラクターではない。
もっと夜野崎みたいに、自分なりに納得出来るカッコいいキャラクターとかオリジナルの設定で華麗に闘いた……。
「多々良くん、危ないっ!!」
「ぶらっ゛しッッ゛ッッ゛!!゛!!」
気付かぬ間に接近していた黒蛇の体当たりが直撃し、身体はあっけなく宙へと吹き飛んで行く……無理ッ、痛い! 痛過ぎるッッ!!
「クッソ……本当にこれしかねえのかよ……ッ!」
夜野崎が壊した部屋の方角で幸いした。壁にぶつかっていたら即死は免れなかっただろう……もう割とひん死状態なんだけど。無理。助けて。
先ほどからノーダメージの夜野崎にはさして興味も無いのか、黒蛇のターゲットはもはや俺一人。よくしなるゴムのような身体を縦横無尽に靡かせ、トドメを刺す機会を窺っているようだ……。
不味い、今度こそやられる。
ここで死んだら、もう夢には戻れない。
(ダメだダメだ……やるんだ、やるんだ多々良達樹ッ! 神戸さんを助けられるのは、俺しかいねえだろ……ッ!!)
そうだ。見てくれに拘っている場合ではない。どんな手段を使っても、神戸さんを悪夢から解放すると。そう決めたじゃないか。
夜野崎の言う通り、他にそれらしいアイデアは思い付かない……ならば俺の持つ全身全霊の妄想力を賭けて、憎き黒蛇を討つまでだ……ッ!
「多々良くんっ、無理しちゃダメ! わたしのことは良いからっ……!」
「……ダメだ神戸さん。確かに俺は、現実世界じゃ何の役にも立たないどうしようもない人間だけど、でも、でもっ……このクソみたいな悪夢の中でくらい、神戸さんを助けたいんだよッ!」
「……多々良くんっ…………」
「ストーカーなんぞ知らんッ! んなもん警察に任せたッ!! 俺の仕事は、やるべきことは…………テメェをブチのめすことだァァッッ!!」
空間の隅々まで行き渡る絶叫に、目視出来ない何かがビリビリと伝染していく。突然の変わりぶりに、黒蛇もどこか恐れをなしているようにも見える。
今が反撃のチャンス。全神経を右脳に集中させ、かつて幼少期の頃にテレビで見たヒーローの姿は事細かくイメージする……マントに丸い頭、月まで吹っ飛ばす強烈なパンチ…………よしっ、行けるッ!!
「俺は…………アンパン○ンだアア゛ああぁ゛ぁ゛ァァーーー゛ーッッ゛ッッ!!」
その瞬間、自身の身体に明確な変化が起きた。足元から眩しい光が巻き起こり、制服ごとみるみるうちに俺の身体を覆い尽くしていく。
「勇気100倍じゃあアァァァァァァッッ!!!!」
「……た、多々良くん……っ?」
唖然とした様子で俺を見つめる神戸さん。改めて自身の姿を確認してみると…………赤が基調のピチっとしたインナーに黄色いベルト。手先はぬいぐるみのように丸みを帯びている。
「……っと、これはいけませんね……」
「夜野崎?」
箒に跨りこちらへ飛んで来た夜野崎がパチンと指を鳴らす。同時にどこからか取り出した小さな手鏡を放り投げて来た。
「……何から何まで模倣では差し支えますので……少し配慮を……」
「あれ!? 顔っ!?」
「夢の中とはいえ……著作権には注意しなければなりません……」
「だからってモザイク処理は必要なのか!?」
最大の特徴的であるまん丸のキャラクターフェイスが、テレビ番組で犯罪者の顔を隠す際に使用されるモザイクのようなもので加工されていた。
まぁ処理されてしまったものは仕方がない。少々出鼻を挫かれる形とはなったが、俺は完全にアン○ンマンへ変身することに成功したのだ……!
「それともう一つ……お前はお前であってアンパ○マン当人ではありませんので……なにか別の名前を使った方が良いかと……」
「……じゃあ、タタパンマンで」
「…………まぁ、なんでも構いませんが……っ」
「笑ったな? いま完全に笑ったな!?」
「そ、そんなわけは……っ」
黒マントで顔を覆いプルプルと震えている。クソ、馬鹿にしやがって。タタパンマンと夢泥棒メアなら恥ずかしさ的にはどっこいどっこいだからな。あとで覚えてろ。
「こうなりゃトコトンヒーローになり切ってやるよ! 行くぞメア!」
「頭に夢泥棒も付けていただけると……」
「んなもん知ったことかッ!」
半分ヤケクソなのは一先ず置いておいて。
先手必勝。突然現れたモザイク加工済みの世界的ヒーローに明らか動揺している黒蛇へ向かって一気に地面を蹴り飛び込んで行く。
凄い、身体が軽い。ていうか、なんだこの跳躍力。さっき空を飛んだときの比じゃない……やはり具体的にイメージするとそれだけ能力も上乗せされるのか!
「喰らえ……ッッ!!」
頭頂部目掛け一閃、強烈な右ストレートが襲う。恐るべきパワーに黒蛇の身体は大きく揺れ蠢き、超音波にも聞き惑う悲鳴が上がった。
どうやら効果は抜群のようだ。
よし、この調子で一気にケリをつける!
「メアっ! 神戸さんを頼む!」
「……まったく、調子に乗るのも大概にするべきです……行きますよステファノー、トリンキュロー……!」
続いてメアと僕たちも黒蛇に向け飛び立つ。
まずステファノーが馬鹿デカいトンカチのようなものを取り出し、黒蛇の胴体を狙って一心不乱に振り回す。武術の心得もなにも無い無茶苦茶な振り回しだが、確実に黒蛇へダメージを与えていく。
トリンキュローは肩にバズーカのようなものを携え、神戸さんを拘束しているとぐろに向け砲弾を放つ。花火のような爆破音に黒蛇の痛々しい叫びが続いた。
絶え間ない反撃に黒蛇が自由を失っている間、メアは颯爽ととぐろの中央で拘束されている神戸さんのもとへ飛び込んでいく。
「夜野崎さんっ!」
「なるほど……拘束で椅子も壊れましたか…………激しい執着が裏目に出たというわけですね……」
神戸さんの右腕を掴み引っ張り上げる。俺たちの攻撃に抵抗しつつ彼女を拘束し続けるのは無理があったようで、いとも簡単に引き抜くことに成功した。
「……ッ!? な、なんだ……ッ!」
グレーの空間に轟く黒蛇の甲高い絶叫。今までも十分に恐ろしい存在ではあったが、今一度ギアを上げたというか……どこか雰囲気にも変化が見て取れる。
そ、そうか……黒蛇の正体はストーカーの執念そのもの。神戸さんの身体を奪われるのは、黒蛇によって最も危惧すべき事態なのだ……!
「トリンキュロー……!?」
更にスピードを上げ首を振り回す黒蛇。間近を浮遊していたトリンキュローへ強烈な体当たりを噛まし、その先にいたステファノーもろとも吹き飛ばされてしまった。
奥の壁へ激しく打ち付けられる二体の僕。思わず声を上げ彼らのもとへ近付こうとするメア。だが箒に乗った彼女と神戸さんの姿を、黒蛇は見逃さなかった。
「――――危ないッッ!!」
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