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1-1 爆誕☆ロリっ子JCプロデューサー
3. ハロー、絶望
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「……で、命辛々逃げて来たと」
「ギリギリで電車飛び乗ってなんとか撒いたって感じよ……警察とロリっ子が一緒に追い掛けて来る八宮の夜はなんと素敵なことか。なぁナオヤ」
「知らんわ……」
対面の座席で日本酒を煽るノッポの癖っ毛男、伊東直哉が苦笑いで空いた左手へ顎を乗せる。
警察とロリの魔の手から辛うじて逃げ切った俺は翌日、音楽仲間のナオヤを馴染みの居酒屋へ連れ出し話を聞いて貰うことにした。
いつ誘っても必ず顔を出してくれる数少ない友人だ。一応一つ年上なんだけど。敬語とか使ったこと無い。
「……名前、なんてったっけ?」
「すばるん」
「あだ名じゃなくて本名……」
「分からん。SNSのユーザー名がそれだからずっとそう呼んでる。ていうかナオヤも良く知ってるだろ?」
「まぁ対バンも必ず顔出してるからなあの子……素顔は分からんけど……」
ナオヤは三人組のオルタナティブロックバンド『New Portland』で作詞作曲、ベースボーカルを務めるフロントマンだ。
三年前、上京してすぐ八宮waveの自主企画で出逢った俺たち。お互い売れないミュージシャンとして意気投合したのも束の間。ライブを中心に口コミが広まり、今やNew Portlandは音楽雑誌からも取り上がられる期待の若手バンド。
例のゴミ曲『Stand By You』が無ければ依然として観客一桁のステージに立ち続けていたであろう俺とは雲泥の差である。
「良かったじゃん。お前の音楽を認めてくれる奴が一人でもいるんだからさ……ミュージシャン冥利に尽きるってやつ」
「それはそうなんだけどよぉ……唯一と言っても過言じゃないファンにあれだけボロクソに言われたら流石に凹むって……」
「……まぁ酷い曲だよな」
「アァ!? お前と玲奈が嗾けたんだろォッ!? 売れるためにラブソングの一つでも書いてみろって! 言い出しっぺに関してはナオヤじゃねえかよッ!」
「はいはいはいどーどーどー……」
「ガキかッ!!」
ビールジョッキ(大)を傾けテーブルへ叩き落す。煙草の灰が行儀悪く宙を舞い、ただでさえ薄暗い地下一階のテーブル席は真っ白なライトで覆い尽くされた。
なんで八宮の繁華街はどの店も禁煙にしないんだろう。とっくに新しい条例出てるのに。いやまぁ有難いけど。超ヘビースモーカーだし。俺もナオヤも。
「……結局どうすんだよ」
「あ? なにが?」
「だから……Stand By Youだっけ。あの曲に寄せていくのか、それとも「ただのお遊びでした」で済ませるのかって……そういう話」
「……いや、後者はもう無理だろ」
「じゃあ決まってるじゃん……何に悩んでるの? いい加減売れるために自分らしさとか捨てねえとって、二週間前にユーマが言ってたことでしょ……」
煙草に火を付け背もたれに寄り掛かるナオヤ。
警察とロリに追い回された面白エピソードでは呼び出された労役と交通費に見合わないと、口に出さずとも通じるものがある。
「あの曲がこれからどんだけ伸びていくかは分からねえけどよ……それだけじゃ間違いなく一過性で終わるぜ」
「んなん分かってるっつうの……ッ」
「良いじゃん、ロリのプロデューサー。それもお前のことをお前より理解してる熱狂的なファン……頼ってみるのも手なんじゃねえの」
「本気で言ってるのか?」
「マジと読む類のアレ」
「適当じゃん……ッ!」
冗談冗談、と表情一つ変えず煙草の灰を落とす。付き合いの長さが故か、最近は真剣に相談してもこんな風に雑に返されてしまう。
昔はもっと真面目な奴だったのに。
誰に影響を受けたんだ。俺か。俺だわ。
「まぁでも、見る目あるよ。すばるん」
「アッ?」
「結果は出てねえかもしれねえけど……ユーマの曲、俺もすげえ好きだよ」
急に褒めて来る。
なんなんお前本当に。好き。
「上手く言えねえけどさ……確かにギターの腕前は平凡レベルだし、歌も抜けて上手いってわけじゃねえ、が……」
「上げて落とすのサイテーっすナオヤさん」
「いやいや、ちゃんと褒めてるんだって……なんつうかな。艶のあるしゃがれ声っていうか……コードガシャ弾きが相乗効果で逆に魅力的っつうか……」
「褒められてる気がしねえ……」
「卑屈になんなって……いやホントに、マジで歌声は唯一無二だと思う。歌詞はちょっとアレだけど……生活感出過ぎっていうか」
「はいはい、いっつも同じ評論ありがとうございます! どーせ声以外になんも特徴ありませんよ! 時代遅れのクサいブルースと適当な歌詞で申し訳ありませんでした!! 死ねッ!!」
あーダメだ、いつもより酔いが回るのが早い。
声がどうとか音楽性がどうとか関係ないんだ……俺はこのまま誰からも見向きされず27歳で飢え死にする運命なんだぁ……助けてカート・コバーン……あーでもあの人も27で死んだんだった……なんだったら筆頭だぁ、もう終わりだぁ……。
「……幾らでもチャンスはあるだろって、そういうことだよ。21歳だろまだ。経験積んで技術磨いて行けばどうとでもなるって……」
「だからロリに指南して貰おうってか?」
「逆に何が不満なんだよ……」
「分かんねえだろうなぁナオヤさんにはッ! 世界でたった一人のファンが身内になろうとしているこの気持ちが!」
「…………あのなぁ、ユーマ」
煙草をすり潰し今日何本目かという日本酒を空にすると、ナオヤはいつになく真剣な目をして顔をグッと近付け、このように話す。
「自分のやってきたこと、貫いてきたこと……もっと信じてやれよ。やりたくないんだろ、ああいう女子どもに媚びたダサいラブソング」
「…………二度と歌いたくねえ……っ!」
「だったらそうしないで済む方法を考えろよ……いっつも言ってるけど、お前のやってる音楽はまだ完成どころか不完全なんだよ。幾らでも修正が効く……絶対に突き抜ける方法がある。例のすばるんって子のことも、チャンスと捉えるんだよ」
……突き抜ける……か。
耳が痛い、痛くて何も聞こえない……。
「一緒にバンドやろうよぉナオヤぁ……」
「機会があったらな……あとその話、玲奈が居ねえところですると怒られるぞ」
「アイツは良いよぉ……! ミスったらギターで殴られるんだろォ……っ?」
「……ったく、お前は本当に……」
茶化し半分に頭を軽く小突かれる。
飲み過ぎた。めっちゃ眠い。嗚呼、幸せだ……親友と語り合う将来の夢、現状への不満……なんて理想的で最悪な日常なんだ……無理、寝よ……。
「……俺らは身内じゃねえのかよ。アホ」
「なにぃ……っ?」
「…………なんでもね」
****
「…………ぁれ?」
目を覚ますと何やら柔らかい物の上で横になっていた。ここは……俺の家の近くだな。もしかしてナオヤ、わざわざ送ってくれたのか? なんて良い男……。
「くっさァッッ!!」
頭上から生ゴミの入った袋が落下して来て、あまりの悪臭に盛大なゲロをブチ噛ます。通りで頭のところ柔らかいと思ったら、ゴミ置き場かよッ!
「許さねえ……今度同じ目遭わせてやる……ッ」
自業自得という言葉の意味を辞書で引き直したいこの頃だが、そんなことも頭の片隅へ不法投棄。フラ付く足取りですぐ近くのアパートを目指す。
ていうかメッチャ朝だな。日光眩し過ぎる。健康かよ。何でここまで連れて来たのに部屋まで入れてくれてなかったんだよナオヤ。どうせ鍵空いてるのに。
八宮駅から二駅、徒歩で5分の安アパート。
上京してからずっと暮らし続けている部屋だ。
欲張って風呂トイレ別の物件を選んだのは失敗だった。家賃が高過ぎる。しかし滞納はしない。ガスと電気はしょっちゅう止まるが。
早く水を飲みたい。生活水準に見合わないウォーターサーバーの美味しい水が飲みたい。
(あれ……誰だ?)
階段を上がると、誰かが俺の部屋の前に座り込んでいる。あぁ、またアイツか。一つ隣りの大学生の男だ。毎日のようにベロベロに酔い潰れて、手前の俺の部屋の玄関前で力尽きてるアイツ。
俺と同じく介抱されて最終的に放置されたのか……邪魔くせえな、仕方ない無理やり退かして……。
「ユーマさん、お帰りなさい。今日はライブの予定は無かった筈でしたが……もしかしてまたNew Portlandのナオヤさんと飲んでいたんですか? 駄目ですよ、お金が無いのに無駄使いして」
「えっ」
「なんて、実はツブヤイターで確認済みなのです。このお店、いっつも行ってますよね。お気に入りなんですか? あと上げていた写真、髪の毛が潰れちゃってます。自撮りをするときはしっかり髪型にも気を遣ってから…………ユーマさん?」
怖い。
「ギリギリで電車飛び乗ってなんとか撒いたって感じよ……警察とロリっ子が一緒に追い掛けて来る八宮の夜はなんと素敵なことか。なぁナオヤ」
「知らんわ……」
対面の座席で日本酒を煽るノッポの癖っ毛男、伊東直哉が苦笑いで空いた左手へ顎を乗せる。
警察とロリの魔の手から辛うじて逃げ切った俺は翌日、音楽仲間のナオヤを馴染みの居酒屋へ連れ出し話を聞いて貰うことにした。
いつ誘っても必ず顔を出してくれる数少ない友人だ。一応一つ年上なんだけど。敬語とか使ったこと無い。
「……名前、なんてったっけ?」
「すばるん」
「あだ名じゃなくて本名……」
「分からん。SNSのユーザー名がそれだからずっとそう呼んでる。ていうかナオヤも良く知ってるだろ?」
「まぁ対バンも必ず顔出してるからなあの子……素顔は分からんけど……」
ナオヤは三人組のオルタナティブロックバンド『New Portland』で作詞作曲、ベースボーカルを務めるフロントマンだ。
三年前、上京してすぐ八宮waveの自主企画で出逢った俺たち。お互い売れないミュージシャンとして意気投合したのも束の間。ライブを中心に口コミが広まり、今やNew Portlandは音楽雑誌からも取り上がられる期待の若手バンド。
例のゴミ曲『Stand By You』が無ければ依然として観客一桁のステージに立ち続けていたであろう俺とは雲泥の差である。
「良かったじゃん。お前の音楽を認めてくれる奴が一人でもいるんだからさ……ミュージシャン冥利に尽きるってやつ」
「それはそうなんだけどよぉ……唯一と言っても過言じゃないファンにあれだけボロクソに言われたら流石に凹むって……」
「……まぁ酷い曲だよな」
「アァ!? お前と玲奈が嗾けたんだろォッ!? 売れるためにラブソングの一つでも書いてみろって! 言い出しっぺに関してはナオヤじゃねえかよッ!」
「はいはいはいどーどーどー……」
「ガキかッ!!」
ビールジョッキ(大)を傾けテーブルへ叩き落す。煙草の灰が行儀悪く宙を舞い、ただでさえ薄暗い地下一階のテーブル席は真っ白なライトで覆い尽くされた。
なんで八宮の繁華街はどの店も禁煙にしないんだろう。とっくに新しい条例出てるのに。いやまぁ有難いけど。超ヘビースモーカーだし。俺もナオヤも。
「……結局どうすんだよ」
「あ? なにが?」
「だから……Stand By Youだっけ。あの曲に寄せていくのか、それとも「ただのお遊びでした」で済ませるのかって……そういう話」
「……いや、後者はもう無理だろ」
「じゃあ決まってるじゃん……何に悩んでるの? いい加減売れるために自分らしさとか捨てねえとって、二週間前にユーマが言ってたことでしょ……」
煙草に火を付け背もたれに寄り掛かるナオヤ。
警察とロリに追い回された面白エピソードでは呼び出された労役と交通費に見合わないと、口に出さずとも通じるものがある。
「あの曲がこれからどんだけ伸びていくかは分からねえけどよ……それだけじゃ間違いなく一過性で終わるぜ」
「んなん分かってるっつうの……ッ」
「良いじゃん、ロリのプロデューサー。それもお前のことをお前より理解してる熱狂的なファン……頼ってみるのも手なんじゃねえの」
「本気で言ってるのか?」
「マジと読む類のアレ」
「適当じゃん……ッ!」
冗談冗談、と表情一つ変えず煙草の灰を落とす。付き合いの長さが故か、最近は真剣に相談してもこんな風に雑に返されてしまう。
昔はもっと真面目な奴だったのに。
誰に影響を受けたんだ。俺か。俺だわ。
「まぁでも、見る目あるよ。すばるん」
「アッ?」
「結果は出てねえかもしれねえけど……ユーマの曲、俺もすげえ好きだよ」
急に褒めて来る。
なんなんお前本当に。好き。
「上手く言えねえけどさ……確かにギターの腕前は平凡レベルだし、歌も抜けて上手いってわけじゃねえ、が……」
「上げて落とすのサイテーっすナオヤさん」
「いやいや、ちゃんと褒めてるんだって……なんつうかな。艶のあるしゃがれ声っていうか……コードガシャ弾きが相乗効果で逆に魅力的っつうか……」
「褒められてる気がしねえ……」
「卑屈になんなって……いやホントに、マジで歌声は唯一無二だと思う。歌詞はちょっとアレだけど……生活感出過ぎっていうか」
「はいはい、いっつも同じ評論ありがとうございます! どーせ声以外になんも特徴ありませんよ! 時代遅れのクサいブルースと適当な歌詞で申し訳ありませんでした!! 死ねッ!!」
あーダメだ、いつもより酔いが回るのが早い。
声がどうとか音楽性がどうとか関係ないんだ……俺はこのまま誰からも見向きされず27歳で飢え死にする運命なんだぁ……助けてカート・コバーン……あーでもあの人も27で死んだんだった……なんだったら筆頭だぁ、もう終わりだぁ……。
「……幾らでもチャンスはあるだろって、そういうことだよ。21歳だろまだ。経験積んで技術磨いて行けばどうとでもなるって……」
「だからロリに指南して貰おうってか?」
「逆に何が不満なんだよ……」
「分かんねえだろうなぁナオヤさんにはッ! 世界でたった一人のファンが身内になろうとしているこの気持ちが!」
「…………あのなぁ、ユーマ」
煙草をすり潰し今日何本目かという日本酒を空にすると、ナオヤはいつになく真剣な目をして顔をグッと近付け、このように話す。
「自分のやってきたこと、貫いてきたこと……もっと信じてやれよ。やりたくないんだろ、ああいう女子どもに媚びたダサいラブソング」
「…………二度と歌いたくねえ……っ!」
「だったらそうしないで済む方法を考えろよ……いっつも言ってるけど、お前のやってる音楽はまだ完成どころか不完全なんだよ。幾らでも修正が効く……絶対に突き抜ける方法がある。例のすばるんって子のことも、チャンスと捉えるんだよ」
……突き抜ける……か。
耳が痛い、痛くて何も聞こえない……。
「一緒にバンドやろうよぉナオヤぁ……」
「機会があったらな……あとその話、玲奈が居ねえところですると怒られるぞ」
「アイツは良いよぉ……! ミスったらギターで殴られるんだろォ……っ?」
「……ったく、お前は本当に……」
茶化し半分に頭を軽く小突かれる。
飲み過ぎた。めっちゃ眠い。嗚呼、幸せだ……親友と語り合う将来の夢、現状への不満……なんて理想的で最悪な日常なんだ……無理、寝よ……。
「……俺らは身内じゃねえのかよ。アホ」
「なにぃ……っ?」
「…………なんでもね」
****
「…………ぁれ?」
目を覚ますと何やら柔らかい物の上で横になっていた。ここは……俺の家の近くだな。もしかしてナオヤ、わざわざ送ってくれたのか? なんて良い男……。
「くっさァッッ!!」
頭上から生ゴミの入った袋が落下して来て、あまりの悪臭に盛大なゲロをブチ噛ます。通りで頭のところ柔らかいと思ったら、ゴミ置き場かよッ!
「許さねえ……今度同じ目遭わせてやる……ッ」
自業自得という言葉の意味を辞書で引き直したいこの頃だが、そんなことも頭の片隅へ不法投棄。フラ付く足取りですぐ近くのアパートを目指す。
ていうかメッチャ朝だな。日光眩し過ぎる。健康かよ。何でここまで連れて来たのに部屋まで入れてくれてなかったんだよナオヤ。どうせ鍵空いてるのに。
八宮駅から二駅、徒歩で5分の安アパート。
上京してからずっと暮らし続けている部屋だ。
欲張って風呂トイレ別の物件を選んだのは失敗だった。家賃が高過ぎる。しかし滞納はしない。ガスと電気はしょっちゅう止まるが。
早く水を飲みたい。生活水準に見合わないウォーターサーバーの美味しい水が飲みたい。
(あれ……誰だ?)
階段を上がると、誰かが俺の部屋の前に座り込んでいる。あぁ、またアイツか。一つ隣りの大学生の男だ。毎日のようにベロベロに酔い潰れて、手前の俺の部屋の玄関前で力尽きてるアイツ。
俺と同じく介抱されて最終的に放置されたのか……邪魔くせえな、仕方ない無理やり退かして……。
「ユーマさん、お帰りなさい。今日はライブの予定は無かった筈でしたが……もしかしてまたNew Portlandのナオヤさんと飲んでいたんですか? 駄目ですよ、お金が無いのに無駄使いして」
「えっ」
「なんて、実はツブヤイターで確認済みなのです。このお店、いっつも行ってますよね。お気に入りなんですか? あと上げていた写真、髪の毛が潰れちゃってます。自撮りをするときはしっかり髪型にも気を遣ってから…………ユーマさん?」
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