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第五話 恥ずかしい
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「むぅ。なんか大きくなった気がする。ここ三年ぐらい全く成長しなかったのに」
思いがけず竜也と別れることとなった奈々花はすぐさま試着室へと飛び込み、かごの中の服を一心不乱に試着した。彼との別れ際に大丈夫と頷いてはみせたものの、声はずませる人々の中に一人でいることは、奈々花にとって耐え難い苦痛に他ならなかったのである。
それとは別に、彼女はある問題に直面していた。服が……きついのである。決してお腹がではない、胸がきつくなっていたのである。
「もしかしてタッツーのせいかな?」
想像以上に主張する二つの膨らみを持ち上げながら、奈々花は毎夜想像する彼との甘い日々を思い浮かべた。妄想フィルターを通した爽やかな竜也の表情に、奈々花の頬は瞬く間に赤みを増していく。まるでみずみずしい果実のようだ。
「って、私のバカ。今思いだすんじゃないよ。そんなこと考えてたらタッツーの顔まともに見れなく――」
恥じらう自分を律し、落ち着きを取り戻そうと必死になる奈々花のところに、最悪のタイミングで彼は戻ってきた。
「どうだ奈々花」
「ファ、ファイ! タタタタッツー! にゃ、にゃにゃにゃにかにゃ!」
普通に声をかけたつもりの竜也だったが、カーテン越しに聞こえてきたろれつの回っていない奈々花の声に頭を掻きむしる。
「あー。タイミング悪かったか、すま――」
「べ、別に、タイミングとか関係ないし! 私普通だし! 普通だってば!!」
「……それならもうちょい静かにしてくれないか。俺が目立つ」
店内は賑わっているが騒がしいわけではない。そんな中で大声を上げれば否が応にも注目を集めてしまう。それが竜也ともなれば、周囲からの視線は厳しいものになるのが当然だった。
「ご、ごめん」
「……それで、どんな感じだ? 気に入ったのはあったか?」
試着室越しのため表情はわからないが、声のトーンからして落ち込んでいるであろう奈々花を想像し、普段と変わらぬ様子で竜也は声を掛ける。
すると、その声に反応したかのようにカーテンが開き、中からは薄手のチェックシャツに紺色のサブリナパンツを身につけた奈々花が現れた。
夏服を買うというのに、先程よりも露出の減った奈々花の姿を見て、竜也は柄にもなく毒づいてしまう。
「また長ズボンか。少しは女の子らしくスカートとか履いたらどうだ?」
彼の心無い言葉に奈々花も苛立ち、二人の口論は徐々にエスカレートしていく。
「長ズボンって……タッツー、流石にその表現はどうかと思うよ。ファッションに興味が無いのまるわかりじゃん。そ・れ・に! 今日はミニスカ履いてるよ私」
「中身見せてるスカートをスカートって言われてもなぁ」
「良いの! あれもファッション! それにスパッツだから!」
今日の奈々花は短めのスカートに三分丈のスパッツという見せるコーデをしているのだが、彼女のそんな服装は、竜也からすれば下着を見せているのと同じようで、スカートとして認めたくなかったのである。
その、あまりにファッションに無知すぎる彼の振る舞いに、奈々花は深く肩を落とす。そして、今度は彼女が達也に対して悪態をつきはじめた。
「ねぇ、ちょっと前もスカートって言ってたけどさ。もしかしてタッツー、スカート好きなの? 昔よくスカートめくりしてたとか?」
「そりゃ女の子って言ったらスカートだろやっぱり。それに……そいつは三十年も昔の話だ。時効だよ時効」
「……変態、すけべ、エロ魔神」
「呼びたいように呼んでくれ」
竜也の古臭い考えに少々幻滅した奈々花であったが、彼女も別段スカートを嫌っているわけではない。それなら何故彼女がスカートに引け目を感じるのかと言うと、ぶっちゃけ恥ずかしいのだ。
フリルの可愛い服を着てみたい、そんな願望は奈々花にもある。でももし、何かの弾みでスカートがめくれてしまったら。そう考えてしまうと最後の一歩がどうしても踏み出せない。
今日のコーデだって、スパッツという下着を最初から見せることによって恐怖を乗り越えようとした彼女なりの勇気と努力の結晶であり、奈々花の悪態には恥ずかしさを誤魔化そうという感情も含まれているのである。
「……それで、その色欲の魔物さんは一体どんな恥ずかしい服を私に着せようって言うんですかね」
「お前なぁ。極普通だよ普通。ほれ」
そう言って竜也が差し出したのは、鮮やかな水色を基調としたとてもシンプルな花柄のワンピースだった。それを見て奈々花はなんとも言えない微妙な表情を浮かべる。
「……なんと言うか、わかりやすいと言うか、古臭いと言うか」
「悪かったな、良いものは何年経っても良いんだよ。ほれ、着てみろ」
「……わかった」
渋々ながら服を受け取った奈々花は、カーテンを締め鏡へと向き直る。タッツーが選んでくれたのは嬉しい。でも、こういう女の子女の子した服とか似合う気がしない。ぶっちゃけタッツーの趣味な気もする。でも、嬉しいから着てみたい。そんな複雑な気持ちに悩まされる奈々花であったが、意を決して試着することを決めた。
着慣れるぬ形に戸惑いながらも身につけた彼女の感想は。
「……意外と悪くない」
だった。
「しかも、何げに胸がきつくないとか。もしかしてタッツーってむっつり?」
竜也が何故彼女にピッタリの大きさの服を選べたのかと言うと、奈々花が商品を選んでいる間、彼はこっそりと服のサイズを盗み見ていたのである。流石刑事。
更にいえば選んだ服に程よいサイズがなく、少し大きめの物を選んだのが功を奏しただけなのだが、奈々花にしてみればそんな竜也の観察眼も、胸をガン見するエロオヤジにしか映らないのであった。
「でも、言い換えてみればそれってタッツーが私をよく見てくれてるってことだよね。そう考えてみるとちょっと嬉しいかも」
やましい目で見られるのはちょっと嫌だけど、女として見られてるなら悪くない。そんな風に考えた奈々花は内心喜び、薄っすらと笑顔を浮かべる。とは言え、この格好を今すぐ見せる勇気は無く、竜也に悪いと思いながらも私服へと着替え直し、試着室のカーテンを開け放った。
「どうだ、似合って……着なかったのかよ」
「着た。でも、今見せたくない。でもその、買ったげるから。今日はそれで我慢して」
顔を真っ赤にする奈々花を見て何となく察した竜也は、黙ってワンピースを奪い取ると踵を返す。
「ちょ、タッツー!」
彼のそんな行動に奈々花は慌てて試着室を飛び出すと、文句の一つも言ってやろうと口を開きかける。しかし次の瞬間、彼がどこに向かっているのか気付いてしまい、出そうになった罵声を彼女は瞬時に圧し殺した。
「これください。あればで良いんですけど、なるべく可愛い袋に入れてもらえると助かります」
そう、竜也の足はこの店のレジへと向かっていたのである。
「タッツー……」
「選んだのは俺だからな、俺が出すのは当然だろ。他のは自分で買えよ」
会計を済ませた竜也はゆっくりと奈々花へと近づき紙袋を突き出す。
「ほれ」
頬を赤くする竜也から受け取った紙袋は、とても温かく、とてもいい匂いがした。
「……ありがとう」
どんな顔をしたら良いのかわからなくなった奈々花は、紙袋に顔を埋め、小さく感謝の言葉を述べる。それを聞いた竜也は、薄っすらと微笑みを浮かべつつ彼女の頭へと優しく手のひらを乗せるのだった。
思いがけず竜也と別れることとなった奈々花はすぐさま試着室へと飛び込み、かごの中の服を一心不乱に試着した。彼との別れ際に大丈夫と頷いてはみせたものの、声はずませる人々の中に一人でいることは、奈々花にとって耐え難い苦痛に他ならなかったのである。
それとは別に、彼女はある問題に直面していた。服が……きついのである。決してお腹がではない、胸がきつくなっていたのである。
「もしかしてタッツーのせいかな?」
想像以上に主張する二つの膨らみを持ち上げながら、奈々花は毎夜想像する彼との甘い日々を思い浮かべた。妄想フィルターを通した爽やかな竜也の表情に、奈々花の頬は瞬く間に赤みを増していく。まるでみずみずしい果実のようだ。
「って、私のバカ。今思いだすんじゃないよ。そんなこと考えてたらタッツーの顔まともに見れなく――」
恥じらう自分を律し、落ち着きを取り戻そうと必死になる奈々花のところに、最悪のタイミングで彼は戻ってきた。
「どうだ奈々花」
「ファ、ファイ! タタタタッツー! にゃ、にゃにゃにゃにかにゃ!」
普通に声をかけたつもりの竜也だったが、カーテン越しに聞こえてきたろれつの回っていない奈々花の声に頭を掻きむしる。
「あー。タイミング悪かったか、すま――」
「べ、別に、タイミングとか関係ないし! 私普通だし! 普通だってば!!」
「……それならもうちょい静かにしてくれないか。俺が目立つ」
店内は賑わっているが騒がしいわけではない。そんな中で大声を上げれば否が応にも注目を集めてしまう。それが竜也ともなれば、周囲からの視線は厳しいものになるのが当然だった。
「ご、ごめん」
「……それで、どんな感じだ? 気に入ったのはあったか?」
試着室越しのため表情はわからないが、声のトーンからして落ち込んでいるであろう奈々花を想像し、普段と変わらぬ様子で竜也は声を掛ける。
すると、その声に反応したかのようにカーテンが開き、中からは薄手のチェックシャツに紺色のサブリナパンツを身につけた奈々花が現れた。
夏服を買うというのに、先程よりも露出の減った奈々花の姿を見て、竜也は柄にもなく毒づいてしまう。
「また長ズボンか。少しは女の子らしくスカートとか履いたらどうだ?」
彼の心無い言葉に奈々花も苛立ち、二人の口論は徐々にエスカレートしていく。
「長ズボンって……タッツー、流石にその表現はどうかと思うよ。ファッションに興味が無いのまるわかりじゃん。そ・れ・に! 今日はミニスカ履いてるよ私」
「中身見せてるスカートをスカートって言われてもなぁ」
「良いの! あれもファッション! それにスパッツだから!」
今日の奈々花は短めのスカートに三分丈のスパッツという見せるコーデをしているのだが、彼女のそんな服装は、竜也からすれば下着を見せているのと同じようで、スカートとして認めたくなかったのである。
その、あまりにファッションに無知すぎる彼の振る舞いに、奈々花は深く肩を落とす。そして、今度は彼女が達也に対して悪態をつきはじめた。
「ねぇ、ちょっと前もスカートって言ってたけどさ。もしかしてタッツー、スカート好きなの? 昔よくスカートめくりしてたとか?」
「そりゃ女の子って言ったらスカートだろやっぱり。それに……そいつは三十年も昔の話だ。時効だよ時効」
「……変態、すけべ、エロ魔神」
「呼びたいように呼んでくれ」
竜也の古臭い考えに少々幻滅した奈々花であったが、彼女も別段スカートを嫌っているわけではない。それなら何故彼女がスカートに引け目を感じるのかと言うと、ぶっちゃけ恥ずかしいのだ。
フリルの可愛い服を着てみたい、そんな願望は奈々花にもある。でももし、何かの弾みでスカートがめくれてしまったら。そう考えてしまうと最後の一歩がどうしても踏み出せない。
今日のコーデだって、スパッツという下着を最初から見せることによって恐怖を乗り越えようとした彼女なりの勇気と努力の結晶であり、奈々花の悪態には恥ずかしさを誤魔化そうという感情も含まれているのである。
「……それで、その色欲の魔物さんは一体どんな恥ずかしい服を私に着せようって言うんですかね」
「お前なぁ。極普通だよ普通。ほれ」
そう言って竜也が差し出したのは、鮮やかな水色を基調としたとてもシンプルな花柄のワンピースだった。それを見て奈々花はなんとも言えない微妙な表情を浮かべる。
「……なんと言うか、わかりやすいと言うか、古臭いと言うか」
「悪かったな、良いものは何年経っても良いんだよ。ほれ、着てみろ」
「……わかった」
渋々ながら服を受け取った奈々花は、カーテンを締め鏡へと向き直る。タッツーが選んでくれたのは嬉しい。でも、こういう女の子女の子した服とか似合う気がしない。ぶっちゃけタッツーの趣味な気もする。でも、嬉しいから着てみたい。そんな複雑な気持ちに悩まされる奈々花であったが、意を決して試着することを決めた。
着慣れるぬ形に戸惑いながらも身につけた彼女の感想は。
「……意外と悪くない」
だった。
「しかも、何げに胸がきつくないとか。もしかしてタッツーってむっつり?」
竜也が何故彼女にピッタリの大きさの服を選べたのかと言うと、奈々花が商品を選んでいる間、彼はこっそりと服のサイズを盗み見ていたのである。流石刑事。
更にいえば選んだ服に程よいサイズがなく、少し大きめの物を選んだのが功を奏しただけなのだが、奈々花にしてみればそんな竜也の観察眼も、胸をガン見するエロオヤジにしか映らないのであった。
「でも、言い換えてみればそれってタッツーが私をよく見てくれてるってことだよね。そう考えてみるとちょっと嬉しいかも」
やましい目で見られるのはちょっと嫌だけど、女として見られてるなら悪くない。そんな風に考えた奈々花は内心喜び、薄っすらと笑顔を浮かべる。とは言え、この格好を今すぐ見せる勇気は無く、竜也に悪いと思いながらも私服へと着替え直し、試着室のカーテンを開け放った。
「どうだ、似合って……着なかったのかよ」
「着た。でも、今見せたくない。でもその、買ったげるから。今日はそれで我慢して」
顔を真っ赤にする奈々花を見て何となく察した竜也は、黙ってワンピースを奪い取ると踵を返す。
「ちょ、タッツー!」
彼のそんな行動に奈々花は慌てて試着室を飛び出すと、文句の一つも言ってやろうと口を開きかける。しかし次の瞬間、彼がどこに向かっているのか気付いてしまい、出そうになった罵声を彼女は瞬時に圧し殺した。
「これください。あればで良いんですけど、なるべく可愛い袋に入れてもらえると助かります」
そう、竜也の足はこの店のレジへと向かっていたのである。
「タッツー……」
「選んだのは俺だからな、俺が出すのは当然だろ。他のは自分で買えよ」
会計を済ませた竜也はゆっくりと奈々花へと近づき紙袋を突き出す。
「ほれ」
頬を赤くする竜也から受け取った紙袋は、とても温かく、とてもいい匂いがした。
「……ありがとう」
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※もちろんフィクションです。
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