リトルラバー

鏡紫郎

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第六話 いたずら

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「さぁ、タッツー! 次はここだ!」

 奈々花の洋服を購入し終えた竜也達は、イセリアの散策をゆったりと続けていた。そんな中、奈々花が突然声を上げある店の看板を指し示す。彼女の声につられ視線を向けた竜也であったが、店名と内装に言葉を失ってしまう。

「あれ~、タッツー、あまりの眩しさに見惚れちゃったかな~?」

「……呆れて物が言えないだけだ。なんで下着売り場なんだよ」

 そう、奈々花が提案した店というのは、女性客専門のランジェリーショップだったのである。

「なんでって、服を買ったら次は下着でしょ。当然じゃないか」

 と、彼の言葉に得意満面にふんぞり返る奈々花。そんな彼女から視線を逸らしつつ、竜也は後方へと下がっていく。

「……すまん、俺は疲れたからそこのベンチで休んで」

「は~い、だめで~す。今日は最後まで私に付き合ってくれるんでしょ?」

「付き合うとは言ったが、流石にここは」

 緊急回避を試みた竜也であったが、結局奈々花に腕を引かれ再び店内を覗き込む形となってしまう。そこにはやはり色鮮やかな下着が並んでおり、竜也は苦々しい笑いを浮かべるしかなかった。

「ん? 今どき下着売り場に彼氏同伴とか普通でしょ?」

 先程から何だかんだと理由を付けて竜也を引き込もうとする奈々花であったが、彼女にはある理由がある。とは言え、それはほんとに些細なこと、ちょっとした悪戯心なのだが。

 それが一体何なのかというと、所謂仕返しである。先程奈々花は竜也に服をプレゼントされるというサプライズを受け恥ずかしい思いをしたのであるが、今度はそれを竜也に味あわせてやろうという子供じみた悪ふざけなのである。

「彼氏ってお前なぁ……せ、せめて入口で待ってちゃだめか?」

「それに、お店の前に一人で立ってるほうが変質者っぽいけどな~」

 歳上のおっさんを彼氏と弄ぶ行為は不服であったが、奈々花の言うことも一理ある。刑事の自分がランジェリーショップの前で不審者扱いされ、警備員に取り押さえられるとか目も当てられない。これはもう入るしか無いのか……

「わかったよ。そのかわり、なるべく早く済ませろよ」

 最悪の事態を避けるためやむなしと覚悟を決めた竜也は、渋々ながらに店内へと足を踏み入れる。その瞬間、展示されている下着の色や形の豊富さに彼はつい感嘆の声を上げてしまった。そんな竜也の隙を奈々花が見逃すはずもなく、すかさず彼にからかいの言葉を投げかける。

「あんまりエッチなのが多くて、興奮したんでしょ? いやだも~へ~んた~い」

「……純粋に種類の多さに驚いてるだけだ」

「え~、ほんとに~? じゃあさ、タッツーはどれがいいと思う? 邪なこと考えて無いなら選べるよね~」

 彼女も年頃の女の子だ、大人をからかいたくなるのも仕方がないとある程度我慢をしていた竜也であったが、小馬鹿にし続ける奈々花の態度に流石の彼もむしゃくしゃしはじめる。

「わかったよ。じゃあ、これなんてどうだ!」

 そして、怒りに任せて竜也が掴んだ物は、何故ここに置いてあるのかとツッコミを入れたくなるような布面積の少ないレースのブラジャーだった。

「いや、その、えっと……さ、流石にそれは……うん」

「……すまん」

 こっちまで恥ずかしくなるからマジ照れするなよと竜也は思いながら元の場所へと下着を戻す。その最中、周囲の下着をあらかた見回してみたが同じタイプの下着は見当たらず、バストを覆い隠せるような普通のブラが並んでいるだけだった。誰かが面倒くさがってここに置いたのだろうが、二人にとっては最悪である。

「ま、まあその、タッツーの趣味はわかったとして。とりあえず私は普通のだよ! こういうのとか、ほら」

 恥ずかしさをごまかそうと奈々花はフックから水色のブラを一枚取り、服の上から自らのバストへとおもむろに被せる。

「ほら、って言われてもな」

 直でないとはいえ、下着を付ける姿を堂々と見せつけられても困るというのが彼の本音である。そんな行為をされた所で可愛いと言うわけにもガン見するわけにもいかず、竜也は参ってしまい視線を天井へと向け電球の数を数え始める。それが彼なりの精一杯の抵抗であった。

 再び気まずい雰囲気となりどうしたものかと視線を逸らし合っていると、二人の間に軽快な声が割り込んできた。

「いらっしゃいませ~。どんな商品をお探しですか~。私としましては~、この辺がオススメなんですけど~」

 二十代半ばと思われる女性店員が奈々花へと声をかけてきたのである。周りにもそれなりの客がいるというのにあえて奈々花を選んだということは、この女性竜也を無理やり付きまとう変態かなにかと認識したのだろう。竜也もそれを感じ取ったのかチラチラと笑顔で睨みつけてくる店員の視線に四苦八苦している。

 流石に居心地が悪いと判断し、最悪追い出される覚悟で竜也は自分が置物であることを主張する。

「その、俺はこいつの保護者みたいなもんでして。だからですね、えー……気にしないでください」

 しかし、誤魔化すという行動はやはり逆効果であった。どもってしまったおかげで更に不信感は募り、女性店員は顔色一つ変えず竜也の顔を凝視しはじる。

 これはまずい、このままでは本当に刑事である自分が捕まってしまう。慌てる竜也が知恵を絞るものの、十年以上かけて培った刑事としての知識もこんな状況では全く役に立たない。万事休すかと竜也が諦めかけたその時、救いの手は差し伸べられた。

「あの、この人こんな風に照れてますけど、実は私達付き合ってるんです」

 奈々花が助けに入ったのである。始めこそ彼女の言葉に訝しげな表情を見せる店員であったが、赤面して恥じらう奈々花を見る内に徐々に明るい笑顔を取り戻していく。

「だから、その。本当は選んでほしいんですけど、恥ずかしいって。でも、やっぱり私がどんなの付けてるのか見て欲しいなって」

「あらあら、そうだったんですね。大変失礼いたしました。何かございましたらいつでもお声、かけてくださいね~」

 最後に、頑張ってくださいねと奈々花に耳打ちをして店員は去っていった。

 店員の対応に正直納得のいかない竜也ではあったが、平穏無事が一番だと大人の対応をとることに決める。決めたのだが、誠実な竜也に無条件で呑み込むことなどできるわけがなかった。

「なぁ、俺達って、そういう関係に見える……のか?」

「そういうことなんじゃないかな。歳の差カップルも多いし、むしろ彼氏って言い張っちゃったほうが得だと思うよ? そのほうが自由に行動できるし!」

 俺がこんなに心配しているというのに、しれっとした振る舞いをとる奈々花に釈然としない物を感じる竜也ではあったが、彼女のことを考えればなるべく近くに居てやりたいというのが本音である。そして、こういう自体を想定すれば偽りの関係を築いてしまったほうが楽なのかも知れない。しかし、真面目で刑事な竜也には騙すという行為をどうしても認めることができなかったのだ。

「さてさて、それじゃ公認になったところで、今度は真面目に下着を」

「選ばないからな」

 真剣に悩む彼を尻目に笑顔で荒唐無稽な発言をする奈々花。その脳天めがけて竜也は軽くチョップを入れるのであった。
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