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第七話 ラブプリズン
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奈々花の悪戯に付き合わされ疲労困憊といった様子の竜也を心配し、二人は休憩がてら昼食を取ることにした。
どうせならお洒落なお店に入ってみたいという奈々花の提案で本格パスタの店を選んだのは良いが、商品名がわからず七転八倒。仕方がなく竜也はミートソース、奈々花はナポリタンを頼むことにしたのだが、ファミレスチェーン店を遥かに超える想像を絶した美味しさに二人は大満足、当たりだねと口々に言い合った。
そんなこんなで昼食を終えた二人が店を出ると、朝方よりも通路は賑わい行き交う人々もかなり増えていた。動きにくいという程ではないが、午前中に比べ誰かとすれ違う回数は格段に増えている。そんな人混みの多さに竜也は小さく舌打ちをした。決して人の多さに嫌気がさしたわけじゃない。では何故なのかというと……
「あっ」
奈々花の体が揺れたのはそんな時だった。すれ違った男性に彼女は押され竜也の体へと抱きついてくる。
「おっと、奈々花だいじょう……」
彼女を両手で受け止めると全身が震えていることに竜也は気付く。奈々花に起きた異常事態にやはり来たかと、竜也は心の中で苦虫を噛み潰した。何故、彼女にこのような異変が起きるのか。それはある事件に起因している。
ここ数年、鳩場市内ではラブプリズンと言う名の違法ドラッグが流行っている。この薬普通の麻薬とは少々違い、粉に媚薬を染み込ませるというかなり危険な代物なのだ。
この薬の効果は近くに居る者への依存度を大幅に上げるというもので、友情や愛情を糧に気分を高めると言われている。そんなわけで普通の麻薬とは違うなんて評判で持ち上げられてはいるが、実際のところ他のドラッグと大差は無い。しかし、愛や友情を深めるという耳障りのいい言葉が少年少女たちの安息に一役買っているのだ。
薬に頼らなければ安心すらも確保できない。それ程までに他人に対して疑義の念を抱く若者が増えている。そして、奈々花もラブプリズンに魅入られた若者の一人だった。
未来を担う子供達に十分な平和と安らぎを与えてやれない今の大人達を情けないと思いながらも、目の前の奈々花を見ていると自分もその一人であることを竜也は痛感させられる。
「うっ、ううっ、たっつー」
そんな鬱屈した気分に苛まれている竜也であったが、悲壮感漂う奈々花のうめき声により現実へと引き戻される。とにかく、今は彼女を落ち着かせるのが最優先と竜也は力強く奈々花を抱きしめ、彼女を守るようにゆっくりと近くのベンチまで移動する。
周りの人間から見れば、今の二人は堂々と人前で抱き合う熱烈なカップルに映るかも知れない。しかし、状況はそれほど楽観的なものじゃない。奈々花は心臓に病を抱えており、極度の精神的負担やパニック症状は死に直結する可能性が高い。更に麻薬の摂取によって肺の機能も低下しており、呼吸困難にも陥りやすいのである。
「大丈夫か? 辛いなら、無理しなくて良いんだぞ?」
少しでも彼女がリラックス出来るようにと竜也は優しく声を掛ける。すると、奈々花も苦しいながらに精一杯の声を絞り出す。
「う、うん。だいじょうぶ、だいじょうぶだから。だから、帰ろうなんて言わないで」
今から遡ること二ヶ月前、竜也は署のメンツと共にラブプリズンの使用現場を抑えたことがある。その時、その場に居た男女数十名の中で最後に薬を服用しようとしたのが彼女、奈々花だった。そして、強引に服用しようとする彼女を止めようとしたのが竜也である。しかし、彼の行動も虚しく奈々花は薬を飲み込んでしまった。
先程説明したとおりラブプリズンには媚薬並に依存値を上げる効果があり、服用時に最も近くに居た人間を運命の相手と思い込む。奈々花は当然抑え込もうとしていた竜也を安住の地として選び、それ以来竜也の側にいる時が彼女の一番落ち着く場所となったのだ。その後、彼女は一度たりとも薬を服用していないため、依存対象も変化していない。
そう、ラブプリズンの効果は服用する度に対象を変える不安定なもの、魅力的に見えるのは所詮まやかしの感情なのである。
だが、彼女が自分に懐いてしまった以上竜也は放って置く事ができなかった。これは自分にしかできないことと竜也は彼女の身元引受人になったのである。本来ありえないことなのだが、奈々花の現状も考慮して掛け合ってくれた課長には今でも感謝している。それが今の竜也の思いだった。
「ほ、ほらね、だいじょうぶだよ。私泣いてないよ、取り乱してないよ」
「そうだな、偉いぞ奈々花」
ベンチへと座らせてから五分も経った頃、奈々花は平常心を取り戻し竜也へといつもの声音で声を掛けた。腕の中から恐る恐る見上げてくる彼女の瞳、そこに涙が浮かんでいることに気づきながらも竜也は黙って奈々花の頭を優しく撫で回す。
「えへへ、だからタッツー大好き」
屈託のない無邪気な笑顔で自分を慕う少女、その体を竜也は再び強く強く抱きしめる。たとえそれが紛い物だとしても、今だけは彼女のことを守りたかった。
どうせならお洒落なお店に入ってみたいという奈々花の提案で本格パスタの店を選んだのは良いが、商品名がわからず七転八倒。仕方がなく竜也はミートソース、奈々花はナポリタンを頼むことにしたのだが、ファミレスチェーン店を遥かに超える想像を絶した美味しさに二人は大満足、当たりだねと口々に言い合った。
そんなこんなで昼食を終えた二人が店を出ると、朝方よりも通路は賑わい行き交う人々もかなり増えていた。動きにくいという程ではないが、午前中に比べ誰かとすれ違う回数は格段に増えている。そんな人混みの多さに竜也は小さく舌打ちをした。決して人の多さに嫌気がさしたわけじゃない。では何故なのかというと……
「あっ」
奈々花の体が揺れたのはそんな時だった。すれ違った男性に彼女は押され竜也の体へと抱きついてくる。
「おっと、奈々花だいじょう……」
彼女を両手で受け止めると全身が震えていることに竜也は気付く。奈々花に起きた異常事態にやはり来たかと、竜也は心の中で苦虫を噛み潰した。何故、彼女にこのような異変が起きるのか。それはある事件に起因している。
ここ数年、鳩場市内ではラブプリズンと言う名の違法ドラッグが流行っている。この薬普通の麻薬とは少々違い、粉に媚薬を染み込ませるというかなり危険な代物なのだ。
この薬の効果は近くに居る者への依存度を大幅に上げるというもので、友情や愛情を糧に気分を高めると言われている。そんなわけで普通の麻薬とは違うなんて評判で持ち上げられてはいるが、実際のところ他のドラッグと大差は無い。しかし、愛や友情を深めるという耳障りのいい言葉が少年少女たちの安息に一役買っているのだ。
薬に頼らなければ安心すらも確保できない。それ程までに他人に対して疑義の念を抱く若者が増えている。そして、奈々花もラブプリズンに魅入られた若者の一人だった。
未来を担う子供達に十分な平和と安らぎを与えてやれない今の大人達を情けないと思いながらも、目の前の奈々花を見ていると自分もその一人であることを竜也は痛感させられる。
「うっ、ううっ、たっつー」
そんな鬱屈した気分に苛まれている竜也であったが、悲壮感漂う奈々花のうめき声により現実へと引き戻される。とにかく、今は彼女を落ち着かせるのが最優先と竜也は力強く奈々花を抱きしめ、彼女を守るようにゆっくりと近くのベンチまで移動する。
周りの人間から見れば、今の二人は堂々と人前で抱き合う熱烈なカップルに映るかも知れない。しかし、状況はそれほど楽観的なものじゃない。奈々花は心臓に病を抱えており、極度の精神的負担やパニック症状は死に直結する可能性が高い。更に麻薬の摂取によって肺の機能も低下しており、呼吸困難にも陥りやすいのである。
「大丈夫か? 辛いなら、無理しなくて良いんだぞ?」
少しでも彼女がリラックス出来るようにと竜也は優しく声を掛ける。すると、奈々花も苦しいながらに精一杯の声を絞り出す。
「う、うん。だいじょうぶ、だいじょうぶだから。だから、帰ろうなんて言わないで」
今から遡ること二ヶ月前、竜也は署のメンツと共にラブプリズンの使用現場を抑えたことがある。その時、その場に居た男女数十名の中で最後に薬を服用しようとしたのが彼女、奈々花だった。そして、強引に服用しようとする彼女を止めようとしたのが竜也である。しかし、彼の行動も虚しく奈々花は薬を飲み込んでしまった。
先程説明したとおりラブプリズンには媚薬並に依存値を上げる効果があり、服用時に最も近くに居た人間を運命の相手と思い込む。奈々花は当然抑え込もうとしていた竜也を安住の地として選び、それ以来竜也の側にいる時が彼女の一番落ち着く場所となったのだ。その後、彼女は一度たりとも薬を服用していないため、依存対象も変化していない。
そう、ラブプリズンの効果は服用する度に対象を変える不安定なもの、魅力的に見えるのは所詮まやかしの感情なのである。
だが、彼女が自分に懐いてしまった以上竜也は放って置く事ができなかった。これは自分にしかできないことと竜也は彼女の身元引受人になったのである。本来ありえないことなのだが、奈々花の現状も考慮して掛け合ってくれた課長には今でも感謝している。それが今の竜也の思いだった。
「ほ、ほらね、だいじょうぶだよ。私泣いてないよ、取り乱してないよ」
「そうだな、偉いぞ奈々花」
ベンチへと座らせてから五分も経った頃、奈々花は平常心を取り戻し竜也へといつもの声音で声を掛けた。腕の中から恐る恐る見上げてくる彼女の瞳、そこに涙が浮かんでいることに気づきながらも竜也は黙って奈々花の頭を優しく撫で回す。
「えへへ、だからタッツー大好き」
屈託のない無邪気な笑顔で自分を慕う少女、その体を竜也は再び強く強く抱きしめる。たとえそれが紛い物だとしても、今だけは彼女のことを守りたかった。
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