車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第二十四章

「 "ごめんなさい" と言える勇気」

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 生徒たちが登校してくる三十分程早くに登校してきた良は、保健室の前で迷っていた。
「……」
 今日は柊真が来ているはずだ。昨日も散々迷った末に入った。
 良は柊真に会ったら伝えたいことを頭の中で整理しようと思考を巡らせる。
「……うぅ~……」
 考えているだけでも心臓の鼓動が早くなる。 "謝る" とはこんなにも難しいことだっただろうか。
 ゆっくりと深呼吸をし、良はようやく意を決して中に入った。

「お、おはようございます」
 良が中に入っていくと、緒方が机の上に新聞を広げていた。
「おはよう」
 緒方は挨拶を返すと、間仕切りのカーテンで仕切られたベッドの方へと歩いていき、中に入っていく。
「柊真君、時間だよ。起きられるかい? 」
 緒方の言葉で柊真が起きたのが毛布の動く音でわかり、自然と肩に力が入る。
「じゃあ、準備が終わったら出てきてね。僕はちょっと用事で職員室に戻ってるから。HRの時間になったら教室行ってね」
 その会話の内容に思わずカーテンの方へと顔を向ける。
 緒方がカーテンの奥から出てくると、良を見て優しく笑い、口を動かす。
 "頑張れ" 
 緒方は確かにそう伝えると、片手で軽くガッツポーズをして保健室から出ていった。
「……」
 完全に二人きりになってしまった。
 その事実を理解すると、段々と恐ろしくなってくる。
 そこへ柊真が出てくると、お互いに固まってしまった。
「あ……えっと……お、おはよう……」
 若干尻すぼみになりながらもそれだけを口にすると、柊真は気まずそうに苦笑して頷いた。
「……す、座ったら? 」
 少しぎこちなくても良が提案すると、柊真は良の斜め向かいに座り、俯いてしまう。
「……」
 長い沈黙が降りる。
 良は、なにか言わなくては、と思考を巡らせ、ふと昨日のことを思い出す。
「き、昨日……具合でも悪かったのか? 病院行ってきたんだよな? 」
 良の問いかけに、柊真は慌ててメモに書いていく。良はそんな柊真から視線を逸らし、辺りをキョロキョロと見回して誤魔化した。
 そうしていると、柊真がちぎったメモ帳を良の前に置く。
  "声のことで、月に一回カウンセリング受けに行ってるんだ。昨日がちょうどその日だったから" 
「そ……そうか……」
 それしか言えず、再び黙ってしまう。
 どうして自分はこうも勇気が出せないのだろう。言わなければならないことさえ言えないなど、情けない。
 しかし、このままではいけない。言わなければ、謝らなければならないのだ。
 良は膝の上に置いた手を強く握り、口を開く。
「……柊真」
 呼びかけると、柊真は少し緊張した面持ちで良の言葉を待つ。
「……その……一昨日、ひどいことをゆって……」
 しばらく言葉に詰まり、頭を下げてついにその言葉を口にする。
「ごめんなさい」
 ようやく伝えられた。
 良はその一言が引き金になったのか、堰を切ったように次々に話し出す。
「俺だけ、学校祭で踊れないから……練習してる柊真を見てイライラしてた……どうして自分だけこんな思いをしなきゃいけないんだって……嫉妬してた……」
 次々に溢れてくる言葉は、良が今まで誰にも言えずにいたものだった。それらの言葉は留まることなく溢れ続ける。
「柊真にそんな俺の気持ちなんてわかるはずないって……一人で決めつけて、柊真にひどいこと言った。柊真だって辛いはずなのに……それでも俺の傍にいてくれたのに……ごめんっ……ごめんなさいっ……」
 自分でも情けないと思いながら何度も謝る。
 そんな良を見ていた柊真は、メモ帳に文章を書き綴っていく。
  "そんなに自分を責めないで" 
  "できないことのほうが多い自分が嫌になるのも、周りが簡単になにかをやってのけてしまうのを見るのが辛いのも、わかるよ。俺もそうだったから"
  "良が辛い思いをしてるのに気づけなかった俺も悪かった"
  "ごめんなさい"
 それらの言葉は優しく、柊真の人柄そのものだった。
「っ……ありがとう……ありがとう……」
 良はその日、ようやく柊真と "親友" であることを実感した。

第二四章 終
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