ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第55話 「また、見られたい自分」

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新しいクラス。
新しい教室。
新しい顔。

私は、
また"ふつうの子"として、
そこに立っていた。

クラス替えの緊張した空気のなか。
誰もが、
周りを探るように視線を泳がせている。

私も、
その一人だった。

ブレザーの袖をそっと引っ張りながら、
静かに自分の席に座る。

新しい制服は、
まだ肌に馴染んでいない。

スカートの膝上が、
やたらと無防備に思えて、
何度も裾を引き下ろした。

それでも、
心のどこかで、
私は思っていた。

──誰か、私を見つけて。

また、そんなふうに思ってしまう自分がいた。

中学のころ。
恥ずかしくて、
痛くて、
でも、
心のどこかで快感に変わっていたあの感覚。

忘れたくても、
もう忘れられない。

私は、
また、誰かの視線を求めてしまう。

気づかれたら怖い。
でも、
無視されたら、もっと怖い。

そんな矛盾を抱えながら、
私は、
静かに、新しい教室の空気に馴染もうとした。

自己紹介の番が近づく。

前の席の子が立ち上がると、
教室の視線がそちらに集まった。

私は、
手のひらに汗をかきながら、
制服のスカートをぎゅっと握った。

自分の番が来る。

立ち上がる。

自分の名前を言うだけ。

それだけなのに、
制服の胸が、
どくどくと脈打っていた。

「◯◯ナナです。よろしくお願いします。」

できるだけ、
ふつうの声で、
ふつうの笑顔で。

誰にも悟られないように。
でも、
誰かに気づかれてしまいたくて。

私は、
教室中に向けて、
小さな挨拶をした。

視線が集まる感覚。

誰かが、
私を、
一瞬でも見つめたかもしれない感覚。

それだけで、
身体の奥がざわめいた。

新しい場所。
新しい制服。

でも、
私は、
きっと、
何も変われていない。

また、
見られたいと願いながら、
誰にも見抜かれないように笑う。

そんな高校生活が、
静かに、
静かに、始まろうとしていた。

──つづく。
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