ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第58話 「カラダでしか伝えられないもの」

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入学してすぐの部活勧誘の期間。

私は、
あまり乗り気じゃないふりをしながら、
校舎の中庭で開かれていた部活紹介を眺めていた。

サッカー部の声。
吹奏楽部の演奏。
美術部の展示。

色んな音や声が、
春の風に混ざっていた。

そんな中、
目を奪われたのは──

ダンス部だった。

中庭の一角で、
先輩たちが音楽に合わせて踊っていた。

リズムを刻む足音。
息の合ったステップ。
揺れるポニーテール。
笑いながら、
自由にカラダを動かしている先輩たちの姿は、
信じられないくらい、
キラキラして見えた。

「すご……」

小さく呟いた。

本当に心からそう思った。

作り笑いじゃない、
舞台用の仮面でもない。

あのときの先輩たちは、
素のままで、
全身で"好き"を表現していた。

──いいな。

素直に、そう思った。

私は、
気づけばダンス部のブースの前に立っていた。

「見てってな!」

「一緒に踊ろ!」

眩しい笑顔で手を振る先輩たち。

強引でも、偽りでもない、
本当に「楽しいから一緒に」って誘っている感じがした。

それが、嬉しかった。

私は、
気づけば入部届を手にしていた。

──カラダを動かすのは、好きだった。

小さい頃から、
走るのも、泳ぐのも、
バスケットも好きだった。

勉強も、上手な言葉も苦手だけど、
カラダを使うときだけは、
素直になれた。

だから、
ダンスならきっと、
私にも、何か伝えられる気がした。

言葉にできないこと。
隠している痛み。
誰にも知られたくない震え。

全部、
カラダでなら、
ごまかさずに表現できる気がした。

「これからよろしくね!」

先輩に手を叩かれて、
私は照れくさそうに笑った。

こんなふうに、
誰かと一緒に笑うのは、
久しぶりだった。

ダンス部の青春。

まだ、
どんな未来が待っているのかなんて、
全然わからない。

でも、
今の私は、
ほんの少しだけ胸を張って言える。

──ここに、来てよかった。

新しい制服の裾を揺らしながら、
私は、
春の光の中へ、
駆け出していった。

──つづく。
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