ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第59話 「カラダが先に、心を連れていく」

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ダンス部に入ってから、
私の日常は、少しずつ変わっていった。

放課後、
鏡張りの練習室に集まって、
みんなで音楽に合わせてカラダを動かす。

はじめは、
ただ先輩たちの動きを真似するだけで精一杯だった。

足がもつれたり、
リズムがずれたり、
何度も恥ずかしい思いをした。

でも、
誰も笑わなかった。

「もう一回やろ!」

「大丈夫、すぐできる!」

そんな明るい声に包まれて、
私は、
何度でも立ち上がった。

カラダを動かすことは、
私にとって、
言葉よりもずっと自然だった。

リズムに乗る。
ステップを踏む。
腕を伸ばす。

そのたびに、
心の奥にあった重たいものが、
少しずつ、剥がれていく気がした。

気づけば、
私は、
前に出ることを怖がらなくなっていた。

「次、ナナ、センター立ってみ?」

先輩にそう言われたとき、
昔の私なら、
きっと断っていたと思う。

「無理です」
「そんな、目立つとか……」

そう言って、
俯いていたと思う。

でも、
あのときの私は、
自然に、
一歩前に出ていた。

鏡に映る自分。

リズムに合わせて動くカラダ。

誰かの視線を意識するよりも先に、
私は、
ただ音に乗っていた。

自分でも不思議だった。

なのに、
すごく、楽しかった。

カラダが、
心を引っ張っていく感じ。

頭で考えるよりも先に、
カラダが「前へ行け」と言ってくれる。

私は、
その感覚に身を任せた。

レッスンが終わったあと、
鏡越しに先輩が私を見て笑った。

「ナナ、いいやん!」

私は、
息を切らしながら、
思わず笑い返していた。

ああ、
こんなふうに、
前に出る自分がいてもいいんや。

怖がってばかりだった中学時代とは違う。

私は、
知らない間に、
少しずつ、
自分を変え始めていた。

汗まみれのシャツ。
火照った顔。
跳ねる鼓動。

全部、
嘘じゃなかった。

ダンスは、
私を少しずつ、
前へ、前へと、
連れていってくれた。

私は、
まだ壊れたままかもしれない。

でも、
確かに今、
前に進んでいる。

春の夕暮れ。

練習室を出たとき、
空がほんのりオレンジ色に染まっていた。

私は、
ジャージの裾を握りしめながら、
そっと空を見上げた。

──ここからや。

新しい私が、
またひとつ、生まれようとしている。

──つづく。
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