ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第61話 「光を浴びて、もっと見られたくて」

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夏が、本気を出していた。

灼けるような陽射し。
溶けるような空気。
体育館ではない、
野外の、焼けつくスタンド。

ダンス部の私たちは、
この期間だけ、
チアリーダーになった。

校章入りのタンクトップ。
短めのプリーツスカート。
ポンポンを手に、
選手たちを応援するために、
全身で声を張り上げた。

汗で額も、背中も、べたついていた。

でも、
不思議と不快ではなかった。

スタンドから見えるグラウンド。
白球を追う選手たち。
必死な顔。
飛び散る汗。

そして、
その後ろに広がるスタンドには──
他校の生徒たち。
知らない誰かたち。

私たち、ダンス部のチアを見に来たと噂される生徒たちの姿があった。

誰かの目線を、
確かに感じた。

ポンポンを振り上げた腕。
跳ねるスカートの裾。
太陽に透ける肌。

すべてが、
確かに誰かに見られていた。

それに、
胸の奥がざわっと震えた。

気づかれた。
見られてる。

それが、
たまらなく嬉しかった。

私は、
笑った。

無邪気なチアの笑顔を装いながら、
心の奥では、
甘く、疼くような快感を噛み締めていた。

もっと。
もっと、見てほしい。

もっと、
私を、
このカラダを、
この声を、
この一挙手一投足を。

全部、
全部、
注目してほしかった。

汗ばんだ太もも。
跳ねるポニーテール。
張り詰めた声。

全部、
誰かの視線を浴びて、
輝いている気がした。

私たちの応援が、
選手たちの力になっている。
そんな建前は、
もう、どこかに消えていた。

私は、
スタンドという舞台で、
確かに、自分自身を踊らせていた。

熱気と、汗と、
ざわめく視線の中で。

私は、
無垢な顔をしながら、
確かに、
誰よりも快感を味わっていた。

──見られること。

それは、
恐怖ではない。

それは、
私にとって、
生きている証だった。

試合が進むほど、
スタンドの熱は高まる。

私たちチアも、
声を枯らし、
汗を流しながら踊り続けた。

でも、
疲れなんて、感じなかった。

私は、
この熱狂の中で、
生きていた。

壊れた心も。
壊れかけた過去も。

全部、
この一瞬の光のなかで、
洗い流される気がした。

ポンポンを振り上げるたび。
叫ぶたび。
スカートを揺らすたび。

私は、
もっと、もっと、
誰かの視線に溺れていった。

夏の陽射しのなかで。

私は、
静かに、
でも確かに、
またひとつ、
堕ちていった。

──つづく。
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