ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第62話 「名前を呼ばれるたびに」

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夏の終わり。

空の青さは、
どこか高くなっていた。

私は、
自分でも驚くくらい、
変わっていた。

前に出ることが、怖くなくなった。

ダンス部で汗を流して、
チアで声を枯らして。

誰かに見られることに怯えるどころか、
誰かの視線を受け止めることに、
いつの間にか喜びを覚えるようになっていた。

教室でも、それは同じだった。

いつの間にか私は、
クラスの中心で、
冗談を言ったり、
とぼけたことを言ってみんなを笑わせたりする存在になっていた。

「ナナ、それ言いすぎやろ!」
「また変なこと言う~!」

笑い声が弾ける。

みんなが私の名前を、
自然に呼んでくれる。

それが、
たまらなく嬉しかった。

前なら、
名前を呼ばれるたびに、
びくっとしていた。

自分なんて、
できれば目立たずに過ごしたいと思っていた。

でも今は違う。

誰かに頼られること。
誰かに笑ってもらえること。

そのひとつひとつが、
私を生きている実感で満たしてくれた。

ふざけてツッコミを入れられる。
冗談で小突かれる。
昼休みに自然と輪の中にいる。

その全部が、
奇跡みたいだった。

私は、
自分がここにいていいんだって、
初めてちゃんと思えた。

もちろん、
心の奥にはまだ壊れた部分があった。

誰にも見せられない寂しさも、
消えたわけじゃない。

でも、
そんなものを抱えたままでも、
私は、
こうして笑っていられる。

それが、
たまらなく、
誇らしかった。

秋の風が、
教室のカーテンをふわりと揺らす。

私は、
窓の外に広がる空を見上げた。

──ナナ。

誰かが、
また私の名前を呼んだ。

振り返ると、
みんなが笑って待っていた。

私は、
笑った。

こんなふうに、
笑える日が来るなんて、
中学の頃の私には、
想像もできなかった。

私は、
またひとつ、
自分を好きになった気がした。

──つづく。
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