ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第63話 「笑う私と、黙る私」

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秋が、
学校にしっとりとした空気を運んできた。

グラウンドのフェンスには、
赤く色づいた葉っぱがちらほらと絡まり、
教室にも、
なんとなく落ち着いた空気が流れていた。

その中で、
私は、
確かに変わっていた。

クラスの中心にいて、
冗談を言えばみんなが笑ってくれた。

体育祭のリレーも、
文化祭の演劇も、
積極的に手を挙げた。

「ナナがいると安心するわ」
「ナナ、おもろいな!」

そんなふうに言われるたび、
私は、
ふわりと心が浮くのを感じた。

先生たちも、
私に対して柔らかい笑顔を向けてくれた。

勉強は、相変わらず得意じゃなかったけど、
それでも、
私は「いい子」として、
ちゃんとこの場所にいられた。

みんなに愛される。
みんなに頼られる。

それは、
本当に、
嬉しかった。

でも──

私は、
時々、思った。

こんなに笑っているのに、
こんなに誰かと一緒にいるのに。

心の奥底では、
たったひとりで震えている自分がいる。

ふざけた言葉を口にしながら、
友達の肩を叩きながら、
教室の真ん中で笑いながら。

そのすぐ裏側で、
ぽっかりと穴が空いたような自分を、
私はちゃんと感じていた。

みんなといるとき、
心のどこかに必ずひとつ、
冷たい場所があった。

それは、
誰にも触れさせたくない場所。

私だけが知っている、
静かな孤独だった。

たぶん、
私自身すら、
どうしてその影が消えないのか、
わかっていなかった。

ただ、
この明るさと、
この寂しさは、
いつも、
セットだった。

私は、
それを誰にも悟られないように、
もっと明るく、
もっと快活に振る舞った。

文化祭の出し物で、
みんなの前に立って、
笑いを取ったときも。

放課後、
教室でふざけながら写真を撮ったときも。

私は、
ずっと、
二重の心を抱えていた。

表の私は、
誰よりも楽しそうに笑っていた。

裏の私は、
誰よりも静かに泣いていた。

秋の風が、
放課後の廊下を通り抜けていく。

私は、
制服の袖を握りながら、
少しだけ、
空を見上げた。

──誰にも、わからなくていい。

そんなふうに思った。

そんなふうに思わなきゃ、
きっと、
今の私には、
立っている場所すらなくなってしまう気がした。

──つづく。
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