ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

第74話 「女になっていく私」

冬が近づいていた。

吐く息が白くなる帰り道。
ショーウィンドウには、
赤や金のクリスマス装飾が並びはじめた。

私は、
この数ヶ月で、
驚くほど変わった。

ファッション。
メイク。
言葉の選び方。
仕草。

全部、
気づかないうちに、
少しずつ、
大人びたものになっていた。

特別な努力をしたわけじゃない。

でも、
自然と、
"女"という輪郭が、
私の身体に馴染んできた。

街中を歩くと、
男の人たちの視線を感じることが増えた。

すれ違う瞬間、
ふと向けられる目線。

コンビニで、
レジに立つときの、
店員のわずかな間。

視線が、
肌を撫でるように感じられることがあった。

怖くはなかった。

むしろ、
それを意識する自分に、
ゾクリとするような甘さを覚えた。

私は、
もう、
ただの子どもじゃないんだ。

誰かの目に映る私は、
もう、
無邪気なだけの存在じゃない。

──私は、女になっていく。

それを、
私は確かに感じていた。

もちろん、
全部が心地よかったわけじゃない。

街の空気は、
時に冷たく、
時に、
私を品定めするような目もあった。

でも、
それでも。

私は、
この変化を、
後戻りできないものとして受け入れた。

女になっていくことは、
怖いことでも、
汚いことでもなかった。

それは、
私が、
私自身の世界を広げるために必要なことだった。

制服の上から羽織ったコートのポケットに手を突っ込みながら、
私は、
街のイルミネーションを見上げた。

誰かに見られたい。
誰かを惑わせたい。
誰かの心を、
ほんの少しでも乱したい。

そんな欲望が、
確かに、
私の中で育っていた。

「ナナ。」

後ろから彼に呼ばれて、
私は、
振り返った。

彼が手を振る。
私は笑った。

その笑顔の奥で、
私はもう、
誰よりも静かに、
女になろうとしていた。

──つづく。