ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第76話 「変わったのは、私だけだった」

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あの夜から、
私たちは、
何も変わっていないように見えた。

朝、教室で顔を合わせる。
ふざけあう。
LINEを送り合う。

彼は、
いつもと同じだった。

「おはよう。」
「今日、部活早く終わるかも。」
「寒いなー、マフラー買った?」

そんな何気ない言葉たち。

私は、
笑って答えた。

変わらないふりをして。

でも、
心の奥では、
小さなずれを感じていた。

──私は、変わってしまった。

あの夜。
彼にすべてを許して、
彼とすべてを分け合ったと信じた夜。

私の中で、
何かが確実に、
変わった。

身体を預けたあの瞬間。
心も、
裸になった。

でも、
彼は──

変わらなかった。

良い意味で、
悪い意味で。

私が一歩、
踏み込んでしまっただけだった。

教室のざわめき。
友達の笑い声。
冬の空気。

全部が、
少しだけ遠く感じた。

彼と一緒にいるのに、
ふと、
孤独に襲われることがあった。

帰り道、
並んで歩きながら、
私は何度も、
手を伸ばしかけた。

でも、
触れる勇気が出なかった。

触れてしまったら、
今あるものが全部、
壊れてしまう気がした。

あの夜、
確かに抱きしめてくれた彼の腕。

今は、
やけに遠くに感じた。

──私だけが、
先に大人になったのかもしれない。

制服のポケットの中で、
指先をぎゅっと握った。

誰にも言えない。

こんな小さな寂しさ。

彼にすら、
打ち明けたくなかった。

言葉にしたら、
きっともう、
戻れなくなる気がした。

駅のホーム。
冷たい風が吹き抜ける。

彼は、
私の隣で、
何気ない顔をして立っていた。

私は、
少しだけ離れて、
白い息を吐いた。

──変わったのは、私だけ。

その事実が、
胸の奥で、
ひりひりと痛んだ。

でも、
それでも私は、
彼の隣にいたかった。

まだ、
手を離したくなかった。

だから私は、
今日も、
何も知らないふりをした。

──つづく。
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