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呼ばれない、という自由
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終演後のロビーは静かだった。
観客たちは誰も感想を語らず、ただそれぞれの余韻を抱えたまま、散るように帰っていった。
私はその場に残っていた。理由はわからない。ただ、あの女にもう一度会いたかった。
すると、ロビーの奥から、小さな扉が開いた。中から出てきたのは、受付をしていた年配の女性だった。
「中、見ていかれます?」
声をかけられ、私は無言でうなずいた。
通されたのは、小さな稽古場のような空間だった。
そこには、さっき舞台に立っていた女がいた。舞台上とは違い、彼女は笑っていた。
「あなたもやってみたいの?」
彼女の声は驚くほど平坦で、優しさも拒絶もなかった。
私はすぐに答えられなかった。
“やってみたい”というより、“近づきたい”という衝動のほうが近かった。
「名前は?」と女性が聞いた。
私は咄嗟に、「……ナナです」と言いかけて、口を閉じた。
一拍の沈黙。
「ここでは名前、いらないよ」
女が微笑んだ。
その瞬間、身体の奥で、何かがふっとほどけるような感覚があった。
呼ばれないこと。
求められないこと。
それが、こんなに静かな自由やったなんて。
「明日、稽古見においで」
女はそれだけ言って、また奥の扉に消えていった。
私はひとり、その場に残されていた。
でも、不思議と怖くはなかった。
名前を持たない自分を、初めて許された気がした。
観客たちは誰も感想を語らず、ただそれぞれの余韻を抱えたまま、散るように帰っていった。
私はその場に残っていた。理由はわからない。ただ、あの女にもう一度会いたかった。
すると、ロビーの奥から、小さな扉が開いた。中から出てきたのは、受付をしていた年配の女性だった。
「中、見ていかれます?」
声をかけられ、私は無言でうなずいた。
通されたのは、小さな稽古場のような空間だった。
そこには、さっき舞台に立っていた女がいた。舞台上とは違い、彼女は笑っていた。
「あなたもやってみたいの?」
彼女の声は驚くほど平坦で、優しさも拒絶もなかった。
私はすぐに答えられなかった。
“やってみたい”というより、“近づきたい”という衝動のほうが近かった。
「名前は?」と女性が聞いた。
私は咄嗟に、「……ナナです」と言いかけて、口を閉じた。
一拍の沈黙。
「ここでは名前、いらないよ」
女が微笑んだ。
その瞬間、身体の奥で、何かがふっとほどけるような感覚があった。
呼ばれないこと。
求められないこと。
それが、こんなに静かな自由やったなんて。
「明日、稽古見においで」
女はそれだけ言って、また奥の扉に消えていった。
私はひとり、その場に残されていた。
でも、不思議と怖くはなかった。
名前を持たない自分を、初めて許された気がした。
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