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あの席に、昔のわたしが座っていた
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その日の公演は、いつもと同じく静かに始まった。
無名の演者たちが、順番もなく、ただ“存在”する。
観客は沈黙し、息すら潜めるようにその姿を見つめていた。
私が舞台の中央に立ったとき、目が合った。
ひとりの観客。
年齢は、たぶん20代半ば。
華奢な輪郭。伏し目がちのまつげ。
どこかで見たことがある気がした。
でも、それは誰かじゃなくて、
“かつてのナナ”だった。
化粧も、服も、笑い方も、“選ばれる”ために整えていた頃。
SNSに載せる角度を研究して、
「見られる私」に執着していたあの頃の私。
その面影が、観客席にいた。
彼女はじっと私を見ていた。
でも、それは“可愛い”かどうかを測るまなざしじゃない。
“この人、何を隠してないんやろう”
そんなふうに問いかける目だった。
私は、応えるように立ちつくした。
ポーズを取らない。笑わない。媚びない。
ただ、立つ。
名前を持たず、誰のものにもならず、
“さらされたわたし”のままで。
視線と視線が、交錯した。
言葉はない。
でも、その沈黙がすべてを語っていた。
やがて彼女は、ほんの少し、息を呑むように身体を揺らした。
それは、拍手でも賞賛でもない。
ただ、自分の中に“なにか”が響いた証のように見えた。
私はうなずいた。
かつてのナナに。
今の私に。
舞台を降りるとき、ふと涙がこぼれた。
泣いた理由はわからない。
でもきっと、今日、私は自分の“記号”を超えた。
無名の演者たちが、順番もなく、ただ“存在”する。
観客は沈黙し、息すら潜めるようにその姿を見つめていた。
私が舞台の中央に立ったとき、目が合った。
ひとりの観客。
年齢は、たぶん20代半ば。
華奢な輪郭。伏し目がちのまつげ。
どこかで見たことがある気がした。
でも、それは誰かじゃなくて、
“かつてのナナ”だった。
化粧も、服も、笑い方も、“選ばれる”ために整えていた頃。
SNSに載せる角度を研究して、
「見られる私」に執着していたあの頃の私。
その面影が、観客席にいた。
彼女はじっと私を見ていた。
でも、それは“可愛い”かどうかを測るまなざしじゃない。
“この人、何を隠してないんやろう”
そんなふうに問いかける目だった。
私は、応えるように立ちつくした。
ポーズを取らない。笑わない。媚びない。
ただ、立つ。
名前を持たず、誰のものにもならず、
“さらされたわたし”のままで。
視線と視線が、交錯した。
言葉はない。
でも、その沈黙がすべてを語っていた。
やがて彼女は、ほんの少し、息を呑むように身体を揺らした。
それは、拍手でも賞賛でもない。
ただ、自分の中に“なにか”が響いた証のように見えた。
私はうなずいた。
かつてのナナに。
今の私に。
舞台を降りるとき、ふと涙がこぼれた。
泣いた理由はわからない。
でもきっと、今日、私は自分の“記号”を超えた。
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