“新しい主”が欲しかった──ナナを真似る女、飼いたがる男

nana

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第2話 「ナナの記憶で、彼女はよく笑った」

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「ナナって、こんな感じやったよね?」
彼女がそう言ったのは、居酒屋の個室だった。
主と彼女と、私の三人。
あの日以来、初めて“あの頃の空気”が復元された夜。



テーブルにはわさび、ドレッシング、からし。
どれも私の記憶の中で、“恥ずかしいアイテム”だったものたち。

彼が「これやってみて」と彼女に差し出すと、
彼女は少し笑いながら頷いて、
まるで練習してきたように、チューブを口にくわえた。



「うん、辛いけど…意外といけるかも」

彼女がそう言って涙目で笑ったとき、
私は息を飲んだ。

それは、
かつて“私が使っていたセリフ”だった。



私が痛みと羞恥の中で、
必死に「応えてた」あの言葉を、
彼女は、模写のように軽やかに口にする。

それに対して、
彼は手を叩いて笑った。
「やば、完コピやん」「ほんまにナナやな、お前」



私は黙って見ていた。
笑いもせず、止めもせず、
ただ、自分の記憶が“舞台の台本”にされていくのを見ていた。



あの頃、私がどんな気持ちでやっていたかなんて、
彼女は知らない。

でも知らないからこそ、
“ナナをやれる”んやと思った。

彼女は言った。
「ナナさんって、すごいなあと思って」
「私、真似しようとしたけど、最初ぜんぜん上手くできなくて」



それを褒め言葉として受け取るべきなんかもしれない。
でもそのとき私は、
“真似される側のナナ”になってしまった自分を、
必死で飲み込んでいた。



私はもう、
彼の命令に応える必要もなければ、
笑わせる必要もない。

けれどそれは、
“自由”ではなかった。
ただ、“選ばれない者”になっただけ。



彼女が“ナナ”をやって、
彼が笑って、
私が黙ってる。

それが、この夜の配役だった。
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