“新しい主”が欲しかった──ナナを真似る女、飼いたがる男

nana

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第17話 「“ナナ”じゃない私で、立ってみる」

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玄関の呼び鈴が鳴ったとき、
私はすぐに立ち上がらなかった。

スマホにはすでに主からの通知が届いていた。
「今日はナナだけ。彼女はなし」
「いつも通りの格好で、10分以内に」

“いつも通り”という言葉が、
今夜は、やけに冷たく見えた。

私は、クローゼットを開けて、
あのTシャツとスカートを見た。
何度も着てきた服。
何度も命令されて、
そのたびに“ナナ”として自分を組み直してきた制服。

でも、今日は手が伸びなかった。

鏡の前に立って、じっと見た。
下着のままの私。
表情が薄い。
でも、いつもより嘘がなかった。

「……どうする?」

声に出して、自分に訊いてみた。
部屋に響いたその声が、思ったよりもしっかりしていて、
なんだか少しだけ、嬉しかった。

ナナとして行かないと、
主はきっと怒る。
あるいは、何も言わずに連絡を絶つ。

でも、それでもいいかもしれない。

そう思える自分が、
今日の私の中にいた。

スマホを手に取り、
私は短く返した。

「今日は行きません」

それだけ打って、
“送信”を押すまでに、
2分近くかかった。

送ったあと、手が震えた。
罪悪感とも違う、
なにか大きなものを手放すような感覚。

でもその震えは、
怖さよりも、どこか生き返るような感触だった。

時計を見ると、まだ21時前。
私はそのまま、部屋の明かりを全部つけた。
カーテンも開けた。

今夜の私は、“誰にも隠れない”。

冷蔵庫を開けて、
賞味期限ぎりぎりのヨーグルトを取り出す。
スプーンですくって、
そのまま口に入れる。

ひとりで食べる。
ひとりで咀嚼する。
それが、今の私にとっての“命令に従わない時間”だった。

スマホは鳴らなかった。
主からの既読もつかない。

でも、
“ナナじゃない私”は今夜、確かにここにいた。

私はソファに座って、
テレビをつけた。
いつものバラエティ番組。
出演者が笑っていた。

それに、
少しだけつられて、
私も笑った。
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