“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

文字の大きさ
8 / 87

【第8話】 「じゃあ、ごほうびちょうだい」

しおりを挟む
「今日は、なにもしないで帰るな?」
ソファに座ったまま、
私はそう言った。

彼女はグラスを揺らして、氷の音を聴いていた。
その指先のリズムが妙に心地よくて、
私は、自分の言葉の“子供っぽさ”を誤魔化すように笑った。

「ごほうび、ないん?」

“ちゃんと従ったやろ?”
そう言いたかった。
そう言わない代わりに、
ふてくされた声でねだった。

彼女はしばらく私を見つめてから、
グラスを置いて言った。

「ごほうびって、なにが欲しいの?」

「……わからんけど」
「“褒められる”とか?」
「“撫でてもらう”とか?」

自分で言いながら、恥ずかしくなった。
でももう、引き返せる場所はなかった。

彼女は静かに立ち上がって、
私の隣に腰を下ろした。

「じゃあ──」
耳元で囁く声が、
くすぐったくて、こわくて、甘かった。

「“ごほうびの顔”、見せて?」

「顔?」

「うん。“褒められるってわかってる顔”。
 “撫でられて当たり前の女の顔”」

私は反射的に顔をそむけた。
でも、彼女の指が顎をそっと戻した。

「隠さんでええよ」

そのまま、彼女の指が頬に触れる。

爪は短くて、手はあったかくて、
そのくせ、
まるで“従順を確かめる器具”みたいな圧があった。

私はたしかに“撫でられて”いた。
でも、それ以上に──
**「この瞬間すら試されている」**という自覚が、
身体の奥からじわじわ沁みてきた。

「ナナ、なんで撫でてほしいの?」

「……わからん」

「うそやん。
 “撫でられる女”でいたいからやろ?」

「……」

「従った自分が正しかったって、
 誰かに証明してもらいたいからやろ?」

彼女の声は、
ナイフみたいに優しくて、
まるで“撫でながら斬る”みたいだった。

私はもう、どこにも逃げ場がなかった。

“ごほうび”をもらうことで、
私はまた一つ、彼女に飼いならされていた。

甘やかされるって、
こんなに冷たいことだったんや──。

彼女が帰ったあと、
私は鏡を見て思った。

さっきの自分の顔は、
たしかに“甘えた女の顔”やった。
でもそれ以上に、
**“与えられることに慣れた顔”**をしていた。

たぶん私はもう、
“褒められないと生きていけない身体”になってしまった。

自分の価値を、
彼女の“よしよし”一つに預けるような女に──。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...