“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第9話】 「きょう、なんも言われへんかった」

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その日は、一通のLINEもなかった。

正確に言えば、他の人からの通知はあった。
でも、“あの子”からの命令はなかった。
「今日の服、○○にして」もなければ、
「今夜、写真ちょうだい」もない。

“何も言われない”という空白が、
時間が経つごとに重くなっていくのが、自分でもわかった。

午後3時。
スマホの通知を3回見て、3回とも落胆した。

午後5時。
鏡の前でリップを塗り直した。
出かける予定もないのに。

午後6時。
ベランダに出て、意味もなく風に当たった。
「自撮りでも送っとこか?」と、考えて、やめた。

“自分から送る”ってことは、
もう“命令を待ってる”んじゃない証拠になる気がして。

でもその考えも、たぶんもう苦しい言い訳やった。

午後8時すぎ。
私はついに、スマホに向かって指を動かしていた。

「ねえ、きょう、なんも言われへんかった」
「なんか、さみしかったかも」

送信ボタンに指を置いて、
しばらく止まった。

そのメッセージを送るということは──
“支配が必要になってしまった自分”を認めることやから。

でも、我慢できなかった。
ぽち。
既読がついたのは、それから1分後だった。

返事は、3行。

「そっか」
「今日くらい、“自分で考えるナナ”見てみたかった」
「でも、やっぱり無理やったんやな」

その文面を読んで、
胸がズンと沈んだ。

“見透かされてる”んじゃない。
もう、“最初からバレてた”んやと思った。

夜。
寝る前、私はひとりで下着を脱いで、
スマホを構えて、何も命令されていないのに
録画ボタンを押した。

ゆっくり、照明を落としながら、
“命じられたこと”を何度も思い出して、
「勝手に脱ぐ自分」を記録する。

誰に見せるでもなく。
でも“彼女に見られてるつもり”で。

それはもう、
支配じゃなかった。
自傷に近かった。

翌朝、スマホに通知が来た。

「動画、送ってきてええよ」
「見てないふり、してあげるから」

その言葉を見た瞬間、
私は息が止まりそうになった。

あの子は、
“従ってるふり”も、“壊れていくふり”も、
すべて含めて──
もう私を掌の中で転がしていた。

“何もされない”一日が、
こんなに苦しいなんて思ってなかった。

私は、
“与えられないこと”に、
こんなに飢えていたんや。
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