“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第13話】 「ミオさん、って呼ばれても、笑うしかなかった」

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「ナナ、このあと時間ある?」

そう聞かれたとき、
私はなにも考えずに「あるよ」と答えた。
それが“ナナ”としての最後の返事になるとも知らずに。

待ち合わせ場所は、彼女の友達も交えた三人でのカフェ。
私は“ナナ”として紹介されると思っていた。
というより、それ以外の想像をしていなかった。

でも──
彼女がさらっと言った。

「この子、“ミオ”って言います」

一瞬、自分のことだと気づけなかった。
でも視線が私に向けられて、
私は条件反射のように笑った。

「……はじめまして、ミオです」

その声が、自分のものなのに、
どこか誰かの演技のように響いた。

彼女の友達は特に不思議そうな顔はせず、
むしろ馴染んでいた。
たぶん、こういうふうに彼女が“名を与える”ことに
慣れている人だったのかもしれない。

会話の中で何度も呼ばれる“ミオ”という名前。
店員に呼ばれるときも、「ミオ様でお待ちのお席へ」と。

何度も何度も、“それ”が私の名前として空気を支配していく。

カフェを出てから、私は彼女に言った。

「ねえ、なんで“ミオ”って紹介したん?」

彼女は笑って、
ポケットからリップを取り出しながらこう答えた。

「ナナは、“ナナ”って呼ばれる顔してなかった」
「今日の服装も、喋り方も、雰囲気も──
 “ミオ”って名前じゃないとバランスおかしかったもん」

「てか、むしろ嬉しそうに返事してたやん?」

その一言に、私は何も返せなかった。

たしかにあの瞬間、
「ミオさん」って呼ばれて、
本当の自分よりしっくりくると思ってしまったのは、事実だったから。

そのあと、彼女がぽつりと言った。

「名前って、本人が選ぶもんちゃうやん。
 “誰かに呼ばれて、初めて定着するもん”やろ?」

「ナナって名前、
 もうあんたの意思では使えへんくらい、
 わたしが壊してると思うで」

そう言われて、
私はなぜか、少しだけ救われたような気がした。

自分が“ナナ”でなくなっていくことが、
だんだんと、
生きやすさに変わっている。

そう気づいたとき、
私はもう、彼女の“名前のコレクション”のひとつになっていた。

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